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天覧演習 前編

「――我が国の威を示せっ!!」


 演習開始前の挨拶を終えて、砦に用意した天覧席へと座る。


 正直なところ、勝敗に関しては二の次だったりします。

 アーノイドが聞けば……いや、今の彼ならば、でしょうねと笑って終わりかも知れない。

 ベルガはなんだかんだとわたくしの意を見抜いてきますし、ベルガを通してアーノイドの考え方も少し変化した。


 わたくしも、きっと多くのことが変わったのだと思う。

 自覚出来ない部分が多いのは、困りものですが。


「随分と、意気軒昂なことで大変結構なことです」


 あぁ、そうですわね。

 変わったなと自覚できるものの一つが目の前にあった。


「ベロニカに弱卒はおりませんので」


「であれば喜ばしいことです。安全かつ安心して式を執り行える一因となること、神もお喜びでしょう」


 ふふ、強がる姿勢のなんと可愛らしいこと。

 頬が引き攣っておられますわ、演習を見ればこの顔がどう変わるのか今から楽しみというものです。


 そうです、わたくしは真の強者という存在を知った。


 揺るがぬ精神、折れぬ心。


 ベルガに言えば何を言ってるんですかと笑われてしまうでしょうが、少なくともこの枢機卿が弱すぎて可愛く思えてしまうほどなのですよ?


「ええ。是非、安心してお楽しみくださいませ」


「……く」


 いい加減、何を考えているのかわかりませんが、諦めてしまえばよろしいのに。


 もはや、あなた方は詰んでいる。

 どう動こうと、何を画策しようと、蜘蛛の巣でもがく羽虫に過ぎない。


「ふふ」


「どうか、なされましたかな?」


「いえ、祭りは準備が一番楽しいとも言いますので」


「左様、でございますか」


 精々、震えて下さいまし。

 ベロニカを、カタリナを利用しようとしたことを後悔することですわ。




 演習開始の合図が上がった。


 アーノイド、というよりはビスタが率いる防衛側は――。


「ほほう? 早速地の利を捨てると」


 いきなり浮かび上がったニヤけ顔を引っ叩きたい気持ちを堪える。


 およそ、20名と言ったところですか。

 

 ビスタは城門から騎士を出した。

 生憎わたくしも軍学は書から学んだだけではありますが……だ、大丈夫なのでしょうか?


「ふふ、神の目を借りているお方には何が見えているのでしょうか」


「む」


 とは言えここで弱くは見せられません。

 ええ、見せられませんとも。し、信じてますからね?


「……乾坤一擲、痛撃を与えてすぐに退却する狙い。状況が動き始める前にある程度損害を出して動きに制限をかけたいんだよ」


 めるぅうううっ! ありがとう! 


「アルルちゃんは今度あたしと一緒にお勉強決定だから」


「た、楽しみにしておきますわ」


 傍で控えていてくれたメルがこっそりと耳打ちしてくれて助かりました。


 ですが、なるほど。

 確かにベルガは何をしてくるかわかりませんものね、ビスタの選択もそういう部分から考えれば意味がある――って。


「う、受け止めた!?」


「ふは、ふははっ! べ、ベロニカの兵は! 兵法のいろはを知らぬと見えますぞ!?」


 前方に展開していた一般兵団の先方ががっしりと騎士団の突進を受け止めましたわよ?


 え、えぇ……?

 ここは、その、わたくしが言うのもなんですけど、受け流すか回避して包み込むであったりするべき、なのでは?


「狼狽えないで、アルルちゃん。ほら、せんせ側の後方部隊の動き」


「え、あ……離れていってる?」


 ベルガ側の先鋒、騎士団を受け止めたのはおよそ40。

 支援する中衛部隊が10、残りの後方部隊50がその場を離れる動きを見せ始めている。


「む……?」


 アモネスも気づいたようですわね。


 ただ、何を狙っているのか。

 騎士団兵と一般兵の実力差はやはり大きい。

 この人数差です、壊滅的な被害は発生しないでしょうが……。


「やっぱせんせは何考えてるかわかんないや」


「め、メル?」


「いっぱい考えてたんだけどね。考えた中にビスタの先制突撃はあったよ、これ幸いとせんせがその部隊を包囲するってところまで見えてたつもりなんだけど……やー、まさか包囲する動きも見せないで、受け止めるだけなんてね」


 なるほど、だからアモネスの表情が難しいもののままなのですね。

 どういう意図があるのかわからない。

 疑問手、奇手への対応は間違えてしまえば滅びに直結するが故に。


「そういうことですか。前方で囲まず後衛部隊を砦へ寄せる狙いと」


 わかったとアモネスが手を叩いて再びニヤけ始めた。


 愚策だとでも言いたいのでしょう。

 確かに魔法を扱うことに長けた後方部隊だけが城門や城壁に張り付いても、さしたる驚異にはならない。

 あの砦には相応以上のレジストが付与されていますし、城壁上に展開されている弓兵の餌食――。


「な、に……?」


 ですけれども。


「あーあ。やっぱ、せんせなんだよねぇ」


 予想通りに動いてくれないからこそ、ベルガです。


 わかったと言った時点で敗北が待っている。

 長いとは言えない時間ではありますが、その時間で痛いくらいに理解させられたこと。


「何故だっ!? 何故砦を無視する!?」


 わかりませんわよ、ベルガの考えることですもの。


 受け止めたその場から離れたと思えば、砦に寄せていくどころかどんどん遠ざかっていって。


「ふ、ふふっ」


「陛下っ! 貴国の軍は! 何を――!」


「落ち着いて下さいませ。まだまだ見物は続くのですから」


 単純に、妙手ではありますね。

 寄れば弓に貫かれるのなら、寄らなければいいと。


 今、砦の兵はただの置物になっていて、前方に突撃した騎士団は受け止められたことでその場から動けない。


「さぁ、篤とご覧くださいませ? 我が国の力を」


 あぁ、もうわたくしも、この先に待つ光景がどうなるのか楽しみで仕方がない。

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