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ベルガの名

 演習の形は100人対100人という数でのぶつかり合い。

 東部前線で働いている兵達からアーノイドさんが選抜したメンバーを俺が率いて、当日に王都への侵攻側。

 アーノイドさん率いる騎士団と魔法兵団の混成部隊が防衛側という形になった。


 基本的に、俺はアーノイドさんを信頼している。

 性格だとかそういう意味はもちろんだけども、人を見る目とでも言うのか。

 相手の力量、それぞれのパーソナリティを正しく把握する目を勘を持っていると思う。


 だからこそ、時間が多くないってのがあろうがなかろうが、アーノイドさんが選抜した人間なら大丈夫だろうと思っていた。


「……んだけど、どういうことなの?」


 そうして目の前に集まった一般兵の皆様は、一様に輝いた瞳を俺に向けてきた。


 いや、まぁ。


「一応、というか念の為確認したいんですけど。俺で、大丈夫、です?」


「何を仰いますか!? 我々選抜された兵は皆! ここに立てていることを誉れと思っております! どうか存分にお使い下さい!!」


「お、おおう」


 事前に聞いていたよ? ベルガを尊敬していない兵はいないなんて。


 でもさ、お世辞だと思うじゃん?

 たかがちょっとダストコープスの影響から抜け出せる手助けをしたに過ぎないじゃん?


 感謝こそされてもさ、ここまでとは思っていなかったよ、ほんとに。


「ま、まぁ、皆のやる気? 士気が高いようで何よりです」


「はっ!!」


 選抜された兵のまとめ役みたいな人がかっちりと敬礼してくる。

 倣って他の人もワンテンポ遅れて揃った敬礼を取るし……うーむ。


「えぇと、事前にアーノイドさ――将軍からある程度皆さんのことは聞いています。その上で、今回の演習は皆さんの力が振るい易い侵攻戦となっていますので、俺としては期待というか安心しています」


「……? 申し訳ありません、ベルガ様。我々の力が侵攻戦で有効であるとは? その、申し上げにくいのですが、我々に騎士剣術を学んだものはおりませんし、魔法を得意とするものもおりませんが」


 あー……なるほど。


 ついでに教育もしてやれってか、アーノイドさんめ。


「そうですね。端的に言ってしまえば、数的優位を保持することに長けているから、でしょうか」


「数的優位、ですか?」


「ええ。侮辱に聞こえてしまうかも知れませんが、たとえばあなたが騎士団兵と1対1で戦えば負けるでしょう。しかし、5対5ならわからない」


「侮辱など、事実でしょうお気になさらず。しかし、わからないとは?」


「一瞬であろうとも、あなた方が相手一人に対して複数であたるように訓練されているからです」


 一般兵団の人たちがまず練兵時に訓練されることは一人に対して三人組で戦うこと。


 フリューグスとの戦争が長引くにつれて編み出されたドクトクリンとでも言うべきものだが、継戦能力を維持するために消耗を抑制する戦い方を訓練される。


「騎士団兵一人一人は確かに強い。ですが、一般兵の方、それも選抜されたような人間を一度に三人相手できるほどではありません」


「なる、ほど。確かに、我々はそういう訓練を施されました。恐れ多いことではありますが、ベルガ様がわからないと仰った意味も理解できます」


 理解は出来ても、自信はないってところかな。


 改めて言えば騎士剣術は一発でも攻撃を貰えば戦闘不能を余儀なくされる剣術だ。

 集ったところで各個撃破されてしまうって考えが拭えないんだろう。


「皆さんの戦い方の真髄とでも言うべきものは、守りにあります」


「守り……?」


「集団の同数で勝てるかはわからない。ですが、確信を持って言いますが集団の同数でなら負けませんよ」


 そこまで言っても半信半疑な様子は変わらない。

 けど、決まるなりここまで早馬で引きずられるようにして俺が来た意味はその意識改善のため。


「勝つのではなく、負けない。この違いは非常に大きい。演習は明後日となりますが、それまでの間にこの違いを皆さんに理解していただくため、俺はここに来ました」


「……っ!」


 ベルガ・シャル・トリスタッドという名前も偉くなったもんだ。


 この人が言うなら、そうなんだろう、大丈夫なんだろう。


 そんな風に思ってもらえる程度には。


「何より今回の演習は、軍事的な国力を喧伝するためのものです。防衛力を示すために俺たちが負けろと言われているわけではありません。むしろ、盛大に勝ってやろうじゃないですか。王都でのほほんとしてる場合じゃねぇぞ、俺たちがその居場所食っちまうぞと」


「そうすれば、明日のメシが美味くなる」


「お、言いますね。そうです、その通り。俺たちが王都に詰めてやったほうが陛下も安心できるんじゃねぇの? 騎士団さん大丈夫ぅ? なぁんて盛大に煽ってやりましょう!」


「――はっ!!」


 少し言い過ぎたかとも思ったけれど、皆は笑いながらも力強く今度は最初から揃った敬礼を向けてくれた。


 ビスタにとっても良い刺激になるだろう、俺がこっちに着くって分かった時点で顔真っ青にしてやがったし。


 そんじゃま、アーノイドさんには悪いけれど頭痛の種を生み出すことにしましょうか。

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