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ひゃくてんまんてん

 メルとトリアはクルセイダーに勝った。


「――つまり、ベロニカ王都であれば式を執り行っても良いと言いたいのですね?」


「先も申しました通り、カタリナは我が国の宝です。宝を道中守るにクルセイダーの皆様では不安があると分かってしまった以上、とても外へ出すことは出来かねると言いたいのです」


「ぐ……」


 改めての接見だ。

 アモネスの苦々しい表情に対して、アルル様は目に見えて余裕の顔をしている。


 謁見の間で控えている近衛たちはもうすこぶる晴れやかな顔で、なんならアーノイドさんも似たような感じ。


 俺と言えばまださっきの戦いが頭から離れてない部分があるけれど、ぼーっとしているわけにもいかないし、まずは話の流れに集中しよう。


 ここでそういうのならベロニカから護衛を出せばいいじゃないかと言えたのなら話は早いんだが、そういうわけにもいかない。


 言ってしまえば最後、クルセイダーでは護衛しきれないと認めるようなものだからな。


 本当にカタリナとの婚姻を重く捉え、ベロニカと上手くやっていきたいのだと思っているのなら言えた言葉ではあるが、どうやらそういう訳ではないらしい。


「もちろん。クルセイダーに勝利したメルとトリアを護衛にというのであれば、前向きに考えますわ。ですが、その場合二人共立場のある身、少々のお時間は頂戴いたしたく思います」


 で、この強気っぷりだ。


 わざわざ言わなくても良いものをあえて口にする。


 人として見るなら実に性格が悪い話だが。

 ここでアルル様は融和の扉を今のままでは開くつもりはないと示した。


 聖十字教を国教としている以上ここがギリギリのラインだろう、これより押してしまえばその部分まで危うくなるはず。


 アストラを国として捉えた場合はまず交流したくない。

 だが、宗教上の繋がりを保持していこうというのなら応じても良いと。


「それが、ベロニカの選択であり意思であると」


「さて、アモネス様の仰る意図がわかりかねます。生憎、霧が晴れることありませんでしたので」


 おーおー、ギリギリだって分かってんだろうに。

 ここでさっきの仕返しまでするかね。こりゃ相当アルル様の鬱憤は溜まってるね。


 外交の場で出すような人じゃないと思っていたんだけどな。


 ……あるいは。


「よく、わかりました」


「であればよろしゅうございました」


 本格的に宗教以外の繋がりを持ちたくないと示しているのかも。


「近日中に返答致します。アストラへと書簡を送り、指示を仰ぎたく」


「かしこまりました。では、その間王城にてお過ごし頂ければ」


「神と、陛下の思し召しに感謝致します」


 ようやくアモネスがアルル様を陛下と認めたかのように、恭しく礼をした。




「ベルガ! ベルガ~! 見ました? 見ましたか? あのアモネスの顔! うふふ~! やってやりましたわぁ~!」


「え、ええ。すっきりしましたよ、ありがとうございますアルル様」


「良いのですわ良いのですわ! うふふふふ~!」


 ぴょんぴょん、ばるんばるんと。


 アルル様の私室へと集まったメルとカタリナ、それに俺とトリアだったが。

 なんともまぁ嬉しそうなアルル様である。


「お姉様っ! ありがとう!」


「アルルちゃんも無茶するよね、見ててヒヤヒヤしちゃった。でも、嬉しいな」


「あ、はは……ボクは、ノーコメントで」


 三姉妹の仲が良いのは何よりですよっと。


 手を取り合ってきゃいきゃい騒いでいる光景を見るとほっこりしないでもない。


「トリア」


「あ、はい。どうしました? 師匠」


「百点満点」


「っ!! メ、メル様っ!!」


「えっ? わ、わわっ!? ど、どうしたのさトリア!?」


 なんて言ったらトリアが一気に目を潤ませてメルへと飛び込んだ。

 不敬も良いところなはずだけど、メルは俺に一瞬目を向けた後色々悟ったようで。


「やったね!」


「はい! はいぃ~!」


 トリアの頭をヨシヨシと撫でだした。


 仲良きことは麗しきかな、である。


 三人でも姦しいけれど、四人になったらどうなるのかってのは目の前に答えがあるから良いとして。


 ――イヤリング、ですね? ご主人さま。


 そう、見逃せない点が一つあった。


 ――解析は終わっております。気を失ったところを狙って行いましたが……申し訳ありません、カタリナと同様のものであるという点以上のことは掴めませんでした。


 ……なるほど。

 カルシャがあの場で倒れ伏した時にテレシアへと解析を指示したが、結果はそれ。


 カタリナと同じものである以上、何らかの仕掛けは施されていると考えていいだろう。

 ディープアナライズを使えば掴めるだろうが、カタリナの様子を鑑みれば躊躇してしまう。


 これが俺一人で背負える責任の範疇であったのならやっていたんだけど、最悪さっきの接見に影響が出るかも知れないって考えるとどうしても一歩踏み込めない。


 ――ご主人さまはお優しくなりました。わたし、嬉しいです!


 優しいとは一体……。


 まぁ、それはともかくにしても。


「アルル様」


「っと……ええ、ベルガ。わかっております」


 少しだけ時間を稼ぐことは出来た。


 ならこの間にすべきことを考えなくてはならない。


「可能な限り情報収集に動きましょう。望み薄ではありますが、少しでも何かわかれば儲けもの。ベルガは結婚式への対処法の具体案をまとめてわたくしに教えて下さい」


「かしこまりました」

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