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キレそう

「こんなところまでご一緒できるなんて、これはもう新婚旅行と言っていいのでは?」


「シェリナが平常運転で安心したよ。気負ってないようで何よりだ」


「あら? ベルガ様の傍に控えております時はいつだって緊張しておりますよ?」


「二重の意味で安心したな。その調子で警戒を緩めないように」


「むー……いけず、です」


 ベロニカの北、アストラ教国との境目に設けられた関。


 シェリナと一緒にアストラからやってくる枢機卿、アモネスを出迎えに待機している。

 何が楽しいのかシェリナは笑顔を受けべ続けているが、出迎えの役割を与えられたのは俺だけ。


「わかっております。私は影に徹しますとも」


「あぁ。アモネスやクルセイダーへの目付が出来れば合図を出すから、見逃すなよ」


「かしこまりました」


 そういって音もなくシェリナは姿を消した。


 仕事の名目は、王都までの護衛だが本命としてはクルセイダーの力量を少しでも知ること。

 流石に喧嘩をふっかけるつもりはないし、アルル様より駄目だと言われているからしないけれども。


「――来たか」


 遠目にらしい一団が見えた。

 数は……なるほど、強気だな。

 馬車に乗っているのがアモネス一人だとすれば、周りを囲んでいるのは三名のクルセイダーらしき人たち。


 四人、中に一人はいるだろうし計五人という人数をどう捉えるか。

 敵対している間柄ではないってあたりが判断をややこしくしてくるが……。


「貴様がベロニカからの?」


 近づいてきた集団から一人先行してきて、馬上から話しかけられた。


 片膝をついて、頭を下げる。


「はっ、ベルガ・シャル・トリスタッドと申します。ここより先を案内せよと陛下より申し付けられております。こうして名高きクルセイダーの皆さまと、高名な神官であらせられるアモネス様と道を共に出来ること、光栄に思います」


 話しかけてきたクルセイダーは若い女性の声だ。

 重装鎧にフルフェイスヘルムを被っていて容姿や身体つきはわからないが……なるほど。


「ほう……貴様のような強者が共にとは心強い、感謝する。アモネス様にお伝えしてくるが故、しばし待たれよ」


「ありがとうございます」


 纏っている雰囲気が強者のそれ。 

 腕試しをしてみたいと思う程度には強い。


 加えて魔力が漏れていない。

 魔法のコントロールもしっかりできている、最低でも中堅以上に魔法の扱いにも心得があるってことだ。


 腰元にロングチェーン式のモーニングスターもぶら下げていたし、得物に関してはビンゴ、だな。


「――おお、あなたがベロニカの新しき剣聖、ベルガ殿であらせられる」


「はっ。お初にお目にかかります、ベルガ・シャル・トリスタッドと申します」


 簡単な目付けをしている間に、馬車が近づいてきて、中からアモネスと思わしき男が降りてきた。


 改めて膝を付き頭を下げる。


「そのように畏まらずとも、どうか立ってください。アモネスです。ここからの案内をしてくれると聞きました、どうかよろしくお願いいたします」


「ありがとうございます。では、失礼いたしまして」


 顔を上げれば――年齢は四十に届くかどうかと言った感じの細目な男がニコニコとしながら右手を差し出してきた。


 握手?

 なんだか思っていたよりも友好的なようだが――。


「ベルガ殿に会ったのなら、是非伺いたいことがあったのです」


「私に、ですか? 陛下より無駄口を叩かず確とご案内せよと申し付けられております。できれば、ご容赦願いたいのですが」


「なぁに、答えずともよろしい」


「であれば」


 結ばれた手をそのままに、耳を寄せてきて。


「カタリナを奪われる気分はどうだ?」


「――」


「ククッ。あぁ、あぁ。お答えせずともいいのですよ、本当に」


「……ありがとう、ございます」


 あー……キレそう。


 なるほどね、アルル様の気持ちが少しだけわかったよ。


 もう勝ったつもり、いや。


「それで、ここからの予定はどう考えておられるのかな?」


「はい。お疲れのようでしたら近隣の村に休める場所を用意しております。早く王都にと言うことでしたら、すぐにでもご案内いたします」


「ふむ……カルシャ? 皆の様子は?」


「御心のままに」


 自分の思い通りにならないことはない、なんて醜い慢心を抱えていやがる。


 きっついな、余計に聖十字教のことが嫌いになりそうだ。

 流石にこんな奴ばかりが枢機卿なんて立場にいるとは思えない、思いたくないが。


 いずれにせよ嫌がらせをしたいがためだけってことはないだろう。

 ちゃんと真意というか目論見を見定めてからぶっころ……いやいや、落ち着こう、アルル様にお任せだ。


「では、このまま王都に案内してもらいましょう。では、ベルガ殿?」


「かしこまりました。先導いたします」


 こっそりしていた乗馬の練習が、こういう形で役に立つとはなぁ。


 できればカタリナとの約束を先に果たしたかったけど、やれやれだ。


「ベルガ殿」


「ん? あぁ、先の。どうされましたか?」


「サキュリアと言う。僅かな時間ではあるが、どうかよろしく頼む。あと、妙な気は起こさぬように」


「……はは、何の心配をされているのか。私の役目は皆さまを無事に王都へとお連れする事、ご安心ください」


 妙な気を、ってことはあのアモネスの性格も知っているってことだよな?


 その上でこの対応か。


「めんどくさそう」


「何か?」


「いいえ、何も」


 まぁ確実に言えることは、仲良くは出来なさそうだなってことだけだね。

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