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メルはメルしろ

「カタリナ、メルはどうだ?」


「疲れが溜まってたのかな、ぐっすりよ」


 トリアの介抱を終えて、カタリナに任せたメルの様子を見に来てみれば同じくメルもお休み中のようで。


「そうか、ありがとう。代わるぞ?」


「う、ん……」


 メルが横になってるベッドの隣で、心配そうな顔をしているカタリナに声をかけるけどその場を動かないままで。


「心配するな」


「え……」


 なんとなく、カタリナの顔が見えない位置に座ってから、欲しいだろう言葉を贈る。


「カタリナと俺の相性が良すぎるだけだから」


「んなっ!? ななななにゃ、にゃにを急に――」


「はいはい、大声出さない」


「あう」


 欲しいだろうって言っても、半ば事実に近いこと。


 正直、俺も驚いている部分ではあるんだけれども。


「甘えとは言ったけど。俺のこと、随分と信頼してくれてるじゃないか。相性が良すぎてある意味コンビの完成形と言ってもいいくらいだ」


「そ、それは……だって、将来の、お婿さん、だもん」


 だもん、て。


 まったく。


「よく言うよ。自分が諦めたら、メルがこんなボロボロにならなくても済んだんじゃないかとか思ってたくせに」


「うぐっ……べ、ベルガさん、大概私のこと、見抜いてくるから、ずるい」


「言葉を借りるなら、将来の旦那さんだからな」


「ばか」


 こっちを向いてこない理由の一つにはそんなこともあったんだろう。


 髪の隙間から覗く形の良い耳が、髪よりも赤くなっているあたり、図星も良いところのようで。


「はっきり言って。メルとトリアは別にコンビとしてじゃなくても、ただ並んで二人でいるだけで並大抵の相手を敵にしない強さに至っている」


「うん。私一人じゃ、二人を同時になんて絶対無理」


「同時に。そんな相手へとコンビなら勝ち筋を見出だせる。実戦訓練が始まってから、俺はカタリナのサポートに徹していただけだ。にもかかわらず、ここまで安定して圧倒できる。打ち合わせも何もせず、ただ相性の良さでぶん殴ってただけなのにな」


「じゃあ、相性が改善すれば、メル姉ぇもトリアも、劇的に変わる……のかな?」


 そういうことだ。


 相性自体は良い。あるいは俺とカタリナ以上に。

 特に、守備的な戦いを望まれた際になら鉄壁どころじゃないだろう。


「まぁ、俺の見立てでしかないけどな。でも、俺はこの見立てを信じてる」


 ……言っておいてなんだが、自分の判断をここまできっぱり信じてるとか言うのってどうなんだろうか。


 うおぉ、なんか猛烈に恥ずかしいぞ?


「やっぱり、ずるいや」


「うん?」


「ううん、なんでもない。じゃ、メル姉ぇのこと、お願いするわね?」


「お、おお」


 なんだかわからないけれど、カタリナはすっくり立ち上がり。


「あ、でも。浮気はダメだからね?」


「寝込んでるやつをどうにかするわけないだろうに」


「ふふっ。うん、知ってる」


 ようやく振り向いて笑ってくれた後、部屋から出ていった。


「――で? いつまで狸寝入りしてるんだ?」


「……いやぁ、いちゃいちゃしてるの邪魔したら悪いでしょ?」




 まぁ。


「顔見た瞬間寝てないなとは思ってたけどな」


「わかってたのにあぁいうこと言っちゃうあたり、ほんと朴念仁だよね」


 寝てるフリをしてるからこそ、とも言える。


 ベッドから身体を起こしたメルはなんとも恥ずかしそうと言うか、バツの悪そうな顔をしていた。


「アルル様には話をしてくるって言ったけど。特に何か言うつもりはないよ、俺は」


「さっきので全部って意味だよね? 言いたい放題言ってたからね?」


「何のことやら」


「うぐ。これじゃさっさと起きといたら良かったよ……判断ミス」


 苦い顔を浮かべられるけれど、反論はない様子。


 カタリナに向かって言っている体ではあったものの、さっきまでの話は単純に事実を言っていただけだ。


「ちなみに、トリアは分かってるってさ」


「あー……もう。せんせ? ちょっとは手心ってものをさ」


「直球で言えば、メル次第だ」


「あー! あー! もう! もうっ!」


 お姫様らしからぬ叫びと、頭をぐわしと掴んでいやんいやん。


 面白いなこいつ。

 っと、いかんいかん、不敬であるぞ、俺。


「――わかってるんだ。それに、せんせもわかってるよね?」


「ここで勝てないって思ってもらえたら、カタリナのためになんて寄り道せずに済むかもしれないって考えを? それとも、そんなことを少しでも考えてしまった自分がトリアを使うなんて、どうしても遠慮してしまうって気持ちを?」


「全部わかってるじゃん……はぁ、ほんっとせんせはさ――」


 メルに冷淡である一面があるのは知ってる。

 じゃなきゃ出会い頭に俺を殺そうとなんかしないし、もっと言えば暗殺だって仕掛けてこない。


「なんならクルセイダーを倒せば、蘇生魔法を教えても良いとまで言わせたかったか?」


「――ずるい、よ」


 ようやく、メルの表情が困り顔で固定された。


「自己嫌悪、なんだろうね。カタリナちゃんを大事に想ってるのは確か。確かだと思っていたのにこの有様が余計に嫌悪感を拍車かけて、認めたくなくて。そのクセ欲目というか下心を拵えて。結局、訓練でトリアと上手く連携できないなんて」


「骨折り損のくたびれ儲けだったな」


「うん……って言ったらせんせにも失礼だよね、ごめん」


「いいや、構わないさ。くたびれ儲けの内容がコレなら、悪くない」


 寄り道をすることで見える景色はある。

 メルに言った言葉だ、最短距離を進む才能があるからこそ、余計に余分を知るべきなんて。


「急がば廻れ、か」


「そういうことだ」


 だからなんとかなると俺は信じている。


「良い姉をすることも、良いお姫様をすることも。メルは全部上手くやっている、と思う。けど、その代わりにメルがメルをすることが下手になった」


「……」


「俺としちゃ、会った頃のメルも嫌いじゃないよ。人見知りで、会話するのも下手で、魔法オタクで……自分の欲望に一直線だったメルも悪くない」


 上手くやろう、できるようになろう。

 その結果生まれた宰相メルは、どうにも天井が低かっただけ。


「一番メルが汚いと思っている部分を、俺は悪くないって思ってるんだ。俺じゃ足りないかもしれないけどな」


「そんなことっ!! ……ない、よ」


「そりゃ何よりだ。それにアルル様は最悪の時を考えると言っていたし、俺も備えてはいる。怖がる必要はないさ、やりたいように……使いたいように、思う存分やってみればいい」


「あ……」


 最後にメルの頭をくしゃりと撫でて。


「また明日、待ってるよ」


「……ん」


 少しだけかもしれないけど、目に浮かんでいた光が変わったのを確認した。

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