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荒稽古の内約

「今日は干し肉だから」


「カタリナのメシはなんでも美味いからな、楽しみにしてる」


「そそっ! そんなこと言っても干し肉は変わらないんだからねっ!」


「はいそこっ! いちゃいちゃしない! もうあんまり時間ないんだから集中してやるよ!」


 あ、はい。仰る通りです。


 改めてパーティ戦ではなくチーム戦、あるいはコンビ戦の稽古である。


「調べたところ、クルセイダーは相手より少ない人数で戦おうとすることが多いようです。これは自分たちの力を誇示する目的である可能性が高いが、今回は同数戦を挑めるように持っていくつもりですのでアルル様?」


「もちろんです。言い訳にされては困りますから」


 話の持っていき方はアルル様に一任するところだが、この辺りは問題にはならないだろう。

 仮にこちらが二人に対してどうしても一人で挑みたいと言って敗北したのなら、敗北に関しての言い訳をする様は何ともみっともないものになる。


 実力を示せと言われる側は、言う通りにせざるを得ない。


「はい、師匠」


「どうしたトリア」


「パーティ戦とコンビ戦の違いとは何なのでしょう?」


「大きな違いはない。だが、相方ありきの戦い方になるという点がより顕著になる」


 答えればいまいち想像がつかないのかトリアとメルが揃って首を傾げた。


「端的に言えば片方が潰された時点でほぼ負けになる戦いだ。突っ込んでいえばまず狙うことは片方を優先的に潰して、数の差を生んだうえでもう片方を対処する形になる」


「そう言われてみると、常道だね」


「はい。連携にしてもお互いのことを考えればいいだけな分、パーティ戦よりも高度かつ深いものである場合が多いです。というより、個に勝るコンビはコンビと言えません。二対一になった時点で普通は負けです」


「なるほどって頷くべきなんでしょうけど……説得力が、その」


 俺なら覆せるだろうって? そこまで甘くないんだよな。


「今こうして俺が生きていることや、以前のパーティ戦の印象からそう思ってしまう気持ちはわからないでもないけどな。だが、ただの一度もコンビ相手を侮ったことはない」


「っ……」


 熟練のコンビ相手には苦戦した経験しかない。

 テレシアを顕現せずに勝てた戦いなんて、片手の指で足りてしまう。


「パーティ相手なら連携の綻びを作り出すことは出来る。だが、コンビ相手には相当厳しいんだよ。連携を崩すことが基本なら、崩されないように対策を立てることだって基本だ。トリアとメルはまだ基本すら出来ていない。出来ていないのにある程度以上に連携が築かれている相手に勝とうとしているんだ、甘く考えてると足元掬われるぞ」


 そこまで言えばメルとトリアの喉元が鳴った。


 脅す形になってしまったが、今の自分を見失わないようにすることは大切だ。


「……じゃあ、あたしたちは、どうすれば勝てるの、かな」


「ん、前向きな質問で嬉しいですよ」


 今の自分を受け止め、その上で前に進む。

 トリアを見ても、聞かせて下さいと前に進むための意思を感じる。


 あぁ、本当に俺は恵まれているな。


「先に防ぎ切ることが勝ち筋だとはお話しましたね?」


「うん。相手がどうやっても勝てないって諦める形を目指す、だよね」


「これは言ってしまえば相手の一番自信のある攻撃を防ぐことと言えます。俗に言うなら必殺技を凌ぐとでも言いますか」


 無論、相手に必殺技を出すしかないと思わせることが前提として必要ではあるが。


「トリアとメルにコンビとしての連携を仕込むには時間が足りない。しかし、達成すべき状況、目的は共通してあります。そう、簡単な話。二人であらゆる攻撃を防ぐという一点を極めましょう」


「き、極めるって……えぇと、師匠? 具体的には、どうやって?」


 ここからが荒稽古のお時間だ。


 嫌な予感しかしないのですがと顔に書いているトリアとメルへとにっこり笑顔を返して。


「前衛にカタリナ、後衛に俺ってコンビの攻撃を凌ぎきって下さい」


「せんせのばかぁっ!!」


「師匠の鬼ぃっ!!」


 おうおう、心地の良い悲鳴だこと。


「なんとでも言うがよろしい。言っておきますが、今回はこの形ですが休憩を挟みながら俺とカタリナが両方前衛であったり、俺が中衛にまわったりのパターンをどんどんやっていきますからね」


「「――」」


 さらっと文句を無視して言い切れば、二人の表情が固まった。


「……ベルガさんって、ほんとイイ先生よね」


「褒めるなって」


「あんまり褒めてないわ……けど、うん。私にとってもいい練習になるし、がんばるわ」


「「頑張らないで!?」」


 さて、それじゃあ……。


「って師匠っ!? 何ですかその物騒な武器は!?」


「え? あぁ、言ったろ? モーニングスターを使われる可能性が高いって。専門ほどには使えないけど、まぁ多少は使える。加減ができるかはわからないからしっかり防げよ?」


「師匠のばかぁっ!」


 ストレージからじゃらりと鎖を鳴らしながらモーニングスターを取り出して。


「それじゃ、アルル様。しばらく見学が続いてしまいますが、しっかり見取り稽古して下さいね」


「……わたくし、情けないと思われてしまうかもしれませんが、心底未熟で良かったと思っておりますわ」


 何いってんですか、いずれちゃあんと相手してもらいますからね。


「嫌ですわ、そんな熱い目を向けないでくださいまし」


「そりゃ無理ってもんですよ。さ、それじゃ開始の合図、よろしくおねがいします」

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