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朴念仁がやりやがった

 王城にメルとトリア、姫様と近衛兵、禁断の愛がまことしやかに囁かれ始めてから数日。


「せんせ? 何か言うことは?」


「いや、その、本当に申し訳ありませんとしか。でもどちらかと言えばメルが人目を憚らなかったからでは?」


「しゃらーっぷ!」


 もう少し言えば、ようやくカタリナの機嫌が治って普通の食事にありつけるようになった頃。


「あ、あのメル様? ボクは気にしてませんので……」


「う……トリアにそう言われちゃうとなぁ。せんせはちゃんと反省してよね」


「だから主にメルが――あ、いえ、何でもありません」


 流石に今回ばかりは俺のせいじゃないと思いたい。

 断言できないのは、まぁ俺の教え方が悪かったかもしれないとか思うからだけども。


 魔力パスの繋げ方を教えてから、メルはトリアとの魔力パス接続に没頭した。

 それこそトリアを見かけては人目を気にせずおでこをぶつけ合っては接続を試したり。


 はっきり言えば、その光景を見たらまぁそんな勘違いをしても仕方ないと言えるほどにはべったりだった。


「まぁ、変な噂は流れちゃったけど。無事にトリアとは繋がれたし、ヨシとしておこうか」


「そういう言い方するからじゃないですかね? メル様」


「何? トリア」


「なんでもないです」


 若干ハイになっているメルが言う通り、メルとトリアは無事にパスを繋げることができた。


 同時に、シェリナと協力してクルセイダーの取る戦法の研究も進められたし、今日からは実戦スタイルの授業になる。


 が、その前に。


「魔力消費の具合は確認しましたか?」


「一応、ね。聖魔法、というかトリアのホーリーヴェイル。一回でだいぶ持ってかれちゃうかなって覚悟してたけど、思ってたほどじゃなくて逆の意味で驚いちゃった」


「こちらこそ一応言っておきますが。それはメルの魔力量が規格外なだけで、仮に俺なら十回持ちませんからね」


「え……そ、そうなの?」


 そうですとも。


 トリアが複雑そうな顔をしているけど、自分一人で使えば3回が限界だからだろうな。


 文字通りケタが違うんですがなんて言いたそうだ。


「それに加えて、トリアは基本的に事前に扱いやすい布を用意した上で、用意した布を操るという形を取っています。魔力で布から用意したホーリーヴェイルなら、もう少し持っていかれると思いますよ」


「あ、そうだよね。布状の魔力を生成するんだもんね、それはそうだ」


 布に聖の属性を付与して操ることと、聖の属性を持つ魔力の布を顕現するのなら消費量は当たり前に後者のほうが大きい。


 ある意味トリアは自分の少ない魔力をやりくりするためにそういった手段を強いられているとも言える。


「ともあれ、そこまで確認が終わっているのなら話が早いです。そろそろ来る頃なんですが――」


「し、失礼するよ、いや、失礼します」


「あれ? リア?」


「あ」


 タイミングばっちり。


 まだこの訓練場に慣れないのか緊張した面持ちで。


「トリア、随分と遅くなってしまったけど、俺からのプレゼントだ」


 トリア専用のマインゴーシュが入った大きなケースを持ってきた。




「う、わぁ……」


「銘は無垢なる守護刃(イル・ガーディア)。リアさんはもちろん、ベルガの旦那も太鼓判を押した自慢の一品さね」


 ケースから恐る恐る取り出しては、出来上がったマインゴーシュ……いや、イル・ガーディアに目を輝かせるトリア。


 自分で言った通り満足のいく出来なんだろう、リアも胸を張りながらさらに口を開く。


「見ての通りサイズに関しては一般的なマインゴーシュと変わりないよ。重量に関しては旦那の意見を取り入れて手元を重くしてる。トリアの魔法を考えてハンドガード部分には1メートル四方のシルク布を垂らしているけれど……そう、トリア。そのトリガーを引いてみな」


「こ、これですか? てっきり普通のハンドガードかと……わわっ!?」


「ご覧の通り、そのトリガーを引けば布が巻き上がる。巻き上がった状態ではそのトリガーは普通のハンドガードとしても使えるから、いい感じに使い分けておくれ」


「す、ごい……!」


 巻き上がった布を再び広げてはまたトリガーを引いてと夢中になっているトリアを見て、リアと肩を竦め合う。


 ここまで喜んでもらえたらリアも職人冥利に尽きるというものだろう。

 ついでに言えば俺の給料三ヶ月分に相当する額をぶちこんだ一品だし、満足してもらえて何よりというもの。


「むー……」


「わかってますって。メルにはこれを」


「えっ!? い、今のはノリというかなんというかだったんだけど!? って、う、うわぁ……!」


 プレゼントってわけじゃないし、トリアだけずるいよって言われることに備えていたわけでもないが。


「俺が昔使っていたガントレットです。銘はありませんが、埋め込まれている宝石はルビーとエメラルド、それぞれ火と風属性の魔法を僅かながら強化してくれる効果と、コントロールをつけやすくなる俺お手製のものです。お下がりで申し訳ないですが、使って下さい」


「うんっ! ありがとう! せんせっ!」


 メルもメルで受け取った瞬間すぐ自分の左手に装着した。


「にくいねぇ、旦那?」


「すっかり旦那呼びが定着して肩の力も抜けたようで何よりだよ」


 ここまで喜ばれるとは思ってなかったから、ついくすぐったさを誤魔化すように返事をしてしまった。


「けど、後ろの方々は、いいのかぃ?」


「え?」


 あ、なんかこのパターンどっかで。


「ベルガさんのくせにベルガさんのくせにベルガさんのくせに……」


「う~ふ~ふ~?」


「あたいは、知らないからね?」


 ……いや、まぁ。


「お手柔らかにお願いします……」

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