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わたしがやりました

「あの、ベルガ様?」


「……何も聞かないでくれ」


 私は第二王女メルを傷物にしました。


 そんなことが書かれている看板を首からぶら下げながら、離宮へ続く廊下の前にベルガ様が立っていた。


「どう見ても全力でツッコんでくれアピールにしか感じられないのですが」


「俺は無罪だ……冤罪なんだ、信じてくれ」


 部下のメイドたちがきゃーきゃー言っていたのはこれですか。


 確かに妄想掻き立てられる状態ではありますね、なるほどキズモノ。


「次はアルル陛下でしょうか」


「なんでだよ。むしろアルル様ならキズモノにされる側だよちくしょう」


 何があったのか、詳しいことはわかりませんが。


「ご安心を。皆、どちらかと言えば祝福ムードですので」


「いやいやいや!? あーでも、なんでこの俺を見ておめでとうございますとか言ってきたのかは理解できたよ……外堀りアタックが酷い」


 がっくりと肩を落とされるベルガ様はなんだか可愛らしい。

 普段余裕に溢れる強き方が弱っている姿は、こう。


「ぞくぞくしますね?」


「はい?」


「いえ、何も」


 まぁ私はメル様とベルガ様がどのような形であれ結ばれて欲しいと願う身である。

 ベルガ様には申し訳ないが、今回ばかりは陛下の策を全力でサポートすることにしましょう。


 あ、でも。


「カタリナ様のご様子は?」


「……メシが干し魚のフルコースになった」


「それは、なんと言いますか」


 随分と平和で可愛らしい遺憾の意の表明ですこと。


「変わってないけど変わったとでも言うのか。メシとか普段と変わらずニコニコしながらさ、作ってくれるんだよ。しかも味が良いから文句なんてとんでもない、ありがとうしか言えなくてさ……どうしたら普通のメシを作ってくれるようになるか教えてくれよシェリナ」


「そりゃあもう、寝所に連れ込んで――」


「いやいい、聞いた俺が悪かった」


「遺憾です」


 むしろあのカタリナ様だ、強引にでも奪われたいなんて思っておられる可能性すらあるというのに。


「まぁそれはいいとしてだ――何が分かった?」


「はい、ご報告致します。場所を変えましょう」


「あぁ」


 おふざけの時間は終わり。

 若干もう勘弁してくれと言われたような気がしないでもないけれど、アストラに関しての調査報告を致しましょう。




「まず、クルセイダーが行った盗賊団の壊滅ですとか、そういった噂は限りなく事実に近いと思われます」


「限りなく事実に近い?」


「噂を辿って行き着いた人物が、その元盗賊団の頭領を名乗っていたのです。ペルーシャと言う女ですが、彼女は今アストラが運営する孤児院のシスターをしておりました。いわく、クルセイダー、神の導きにて心を改めたと」


「なるほど。胡散臭さ最高潮だが、少なくともそういう事になっているってことか。関係者にとっては事実である、と」


 ベルガ様の言う通りそうだと示す証拠はないため真実であるとは言えない。

 言えないけれど、少なくともその孤児院にいる子供たちは十分な暮らしをしていたし、救われた表情をしていた。


 これを見せかけだと暴くのは難しい。


「盗賊団のアジトがあったと言われる場所の現地調査も行いましたが、ベルガ様が気にされていた手口に関する手がかりは掴めませんでした、申し訳ありません」


「そうか……いや、時期も不明だし残っていなくてもおかしくはない。手間をかけたな」


「とんでもありません」


 現地調査には魔法に詳しい者にも同行してもらったが、何の魔力痕跡も見つけられなかった。

 やはりベルガ様が仰るように、あったとしても感じ取れないほど薄くなっている可能性が高い。


「地形の変化と言ったものもなかったか?」


「アジトは大きい鍾乳洞のような場所でした。一部の壁に欠損などは確認できましたが、争った影響によるものである範疇を超えません。明らかに魔法で変えられたとは、言えないでしょう」


 ペルーシャの話をそのまま信じているわけじゃないけれど。


 盗賊団は約20名程度の集団だったらしい。

 20名が拠点とするには丁度いいくらいの鍾乳洞だったし、突入してきたクルセイダーは5名の合計25人が争ったと言われれば、なるほどと頷ける範疇を超えない。


「壁の欠損は、主にどんな?」


「鈍器での破壊、かと思われます。切り傷などは僅かでした」


 欠損部分は文字通り欠けているものが多かった。

 あるいはへこんでいたり、何か大きなものが叩きつけられたかのようなもの。


 そこまで言うとベルガ様は目を瞑って考え込みだした。

 未だに看板を首からぶら下げたままだから、なんともシュールな姿ではあるけれど、表情だけを見るなら凛々しい。


 ……この人は本当にスイッチが入ると別人のようになりますね、ずるいです。


「シェリナ」


「え、あ、は、はい!」


「何慌ててるんだ? いや、まぁいい。いくつか武器を出す。これじゃないかってのがわかれば教えてくれ」


「かしこまりました」


 そう言ってベルガ様はストレージ、でしたか?

 虚空に手を突っ込んで鈍器に分類される得物を取り出し始めた。


「棍棒、メイス、ハンマー……この中で近いのはメイス、でしょうか」


「ハンマーのような平べったいへこみじゃないってことか。なら――」


 ……いや、どれだけ持ってるんですか。

 これだけあればちょっとしたお店でも開けるのではなかろうかと――あ。


「ベルガ様」


「モーニングスター?」


「あくまで、かもしれない、ですが」


「わかった」


 持ち手部分とトゲのついた鉄球が鎖で繋がれた重量武器、モーニングスター。


 これなら、あの破壊され様にも頷ける。


「ありがとう、シェリナ。これで一歩前進だ」


「勿体なきお言葉です」

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