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あなたと合体したい

「メルは魔力パスのことを知っているみたいですけど、やり方は知っていますか?」


「ううん、文献で存在だけは知っているだけだよ。実際にどうやったら繋げられるのかはわからないな」


 なるほど、メルらしいと言えばそうだな。

 魔力パスは限りなく遺産魔法に近い位置に存在する魔法、と言うよりは技術だ。

 

 本やら何やらを調べて魔法の力を高めようとする魔法使いは知っているが、実践型の魔法使いは知らない。

 

 存在認知に関してはその程度だが。

 知っていてもどうすればパスを繋げられるのかまで知っている人間となるとかなり少なくなるだろう。


「魔力パスは魔法と言うよりは技術です。特別な術式を必要とはしませんが、少し特殊な技術を必要とします。そういった面から、メルが習得するには少し難しいと言えるかもしれません」


「技術? ……ふぅん、だから魔法書に存在は仄めかされていてもどうすれば可能になるかは書いていなかったんだね。それで、あたしが習得するには少し難しいっていうのはどうしてなのかな?」


「そうですね……っと、トリアはなんとなくお察ししたか?」


「え、えぇ、まぁ。その、師匠? お手柔らかに、ですよ?」


 お手柔らかにと言われてもな。

 習得するには必要なことだし、トリアも俺と繋いだ時にやっただろうに。


「うん? トリア? どういう意味?」


「ちょっと、ボクの口からは……でもですね? 師匠は朴念仁ですので、気にすることないですよ」


「ごめん、余計にわからなくなった」


 隙あらば朴念仁呼ばわりされる俺に誰かフォロー下さい、みんなが冷たいんです、よよよ。


 まぁバカなことしてる場合でもない、ちゃっちゃと始めよう。


「ではメル、手を貸してください」


「え、あ、うん」


 右手を握手する形で差し伸ばしてくるがそうじゃない。


「違います、手のひらを俺に向けて、大きく開いてください」


「わ、わかったよ」


 素直に向けてくれるが、なんとなーく嫌な予感でもしているのか額に汗がうっすらと。


「ありがとうございます。では、失礼しますね」


「ひゃうっ!?」


「……朴念仁め」


 なんだか恨めしそうなトリアの声をスルーしながら、メルの指と俺の指を絡めるように繋ぐ。


「せ、せせせせ、せんせっ!? こ、これってあのその!? こ、こいびとつ――」


「落ち着いてください。良いですか? ゆっくりと集中してまずは俺の体温を感じてください」


「たいおんっ!? むむむ、むりだよぅ!? えちょまって!? なんでせんせは落ち着いてられるのっていうかカタリナちゃんに悪いよ!? ごめんねカタリナちゃん! あたし幸せになります!?」


 何を錯乱しているのか。

 まだ始まったばかりだというのに。


「メル」


「はひゃっ!? ひゃいっ!!」


「俺の目を見ろ」


「えぁ……うん」


 仕方ないので沈静化(カーム)の魔法を使う。

 もっとゆっくり落ち着きながらできれば良いんだけど、あまりこんなところで時間をかけている暇はないし申し訳ないが強引に進めさせてもらおう。


「いいか、メル。お前は今何を握っている?」


「せんせの、手……」


「そうだ。冷たいか? 温かいか?」


「ちょっとだけ、あったかい……」


 よし、俺からすればメルの手は少し冷たく感じているし、ちゃんと理解できているな。

 若干強めにカームをかけ、一種の催眠をかけられた状態になっているから、命令に近い形の言い方を心掛けないとな。


「次、額と額を重ねるぞ?」


「うん……」


 身長差があるから俺が少し屈む形で、額をこつんとぶつけ合う。


「目を閉じろ」


「……はい」


 音もなく閉じられた瞼を確認してから、俺も目を閉じる。


「今からメルと俺のパスを繋げる。された感覚をしっかり覚えるんだぞ」


「わか、った」


 言いながら、額を通して魔力の糸をメルの身体に挿入していくイメージ。


「んんぅ……」


「くすぐったいか? 安心しろ、それは害あるものじゃない」


「ふ、ぁ、はい……」


 一瞬身体を強張らせたが、俺の声にすんなりと身体から力を抜いてくれた。


 ……随分と信頼されているもんだ、なんて。


 こんな時に思ってしまう。

 逆に言うなら、こんなことをしなければそう思えない俺ってやつはと反省すべきなのかもしれないが。


 そういえばトリアの時も割とすんなりだったな。

 もしかしたら俺と言う人間は、自分で思っているよりも多くの人から信頼を賜っているのかもしれない。


 いや、まぁそれはいいとして。


「ん、あふ……んんぅっ」


「もうちょっとだ、もう少しでメルの一番奥に届く。我慢するのが難しそうなら握っている手に力を入れてもいい」


 言い終わると同時に繋いでいた手にぎゅっと力がこもった。


 少し痛いくらいだ、決して伸びている爪ではないのに、皮膚へと食い込むほど。


「ん、ぁ、う、ううぁ……んんんんっ!!」


「よし……と」


 メルの最奥にたどり着き、魔力パスを繋げることができた。


「メル? もう大丈夫ですよ、目を覚ましてください」


「ぁ……ぇう? せ、せんせ?」


「お疲れ様でした。身体におかしなところはありませんか?」


「か、から、だ? う、うん、どこも、変な感じはしないけど――って!?」


 完全に覚醒できたらしい、繋いでいた手を慌てて離して身体ごと後退り。


「ごごご、ごめんなさい! あたし、手、思いっきり……!」


「大丈夫ですよ。それよりわかりますか? 今、俺と魔力で繋がっていますよ」


「え……? あ、こ、これって、せんせの……? なん、だろ、すごく、温かい……」


 流石のメルと言うべきか、すぐにパスを感じ取れたらしい。

 下腹部のあたりを手でさすりながら、少しだけうっとりと表情を和らげている。


 確かにそこら辺にメルの根源、深淵の最奥があったけども……なんだか絵面が危ないような。


「師匠、師匠」


「なんだ?」


「後ろ、後ろ見てください。先に言っておきますけど、ボクは知りませんからね」


「うん?」


 促されるままに振り向けば――そこには。


「ベルガさんの浮気者浮気者浮気者……」


「うふふ~」


「……ひぇっ」


 目からハイライトを消したカタリナと。


「責任、取って下さいましね~?」


「……は、はは」


 いつもより遥かに凄味のある笑顔を浮かべているアルル様がいらっしゃった。

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