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一粒で二度不味い

「まぁそういうわけで」


「そういうわけじゃないですよっ!? え? いや師匠本気で言ってます? いやいや! アルル様もそんな仕方ないですわねみたいな顔しないで下さい!」


「おー……ツッコミ上手だね」


「これが見たかったのですわ」


「いやいやいや!?」


 翌日。

 

 多くのやるべきことはあるが、その中でも最重要、最優先となったメルとトリアの戦闘訓練。

 

 トリアに関しては実力に不安はないが、気持ちの面で不安がある。

 メルを言うならその真逆、気持ちの面で不安はないが、実力が足りない。


 今日から枢機卿たちがやってくる当日までは集中的に……言葉を選ばなければ荒稽古となるだろう。


「ねぇベルガさん。クルセイダーをメルとトリアでって、その、現実的、なの?」


 きゃいきゃいとアルル様とメルによるトリアいじりを尻目に、不安を顔に張り付けながらカタリナが聞いてくる。


「どうかな。クルセイダーの強さってのは噂や結果だけが世に出回っている。こういうのはたとえば神の怒りが炎となって悪を裁いただとか、どういう風にって部分も伝わるもんだ。話から見えるものがないし、何とも言えないな」


 あの後あまり時間はなかったが、クルセイダーの噂について調べてみた。

 けどどれも具体性に欠けるというか、何がすごくて一騎当千なんて呼ばれているのかという部分がわからないままで終わってしまった。


「そんな」


「それでもはっきり言えることがある。どれだけ強くても、勝たなければ残る手段は大人しくカタリナが犠牲になるか、徹底的な抵抗しかない」


「……」


 メルを交えてアルル様と相談したが。

 おそらく使者アモネスがクルセイダーを率いて来る理由は、名目としている視察が終わった後、そのままカタリナを連れて行くためだろうと結論が出た。


 神の妻を護衛するためにクルセイダーを連れてきた。

 そんな動きを遮ろうとしてしまえば当然神の敵として認定され、神罰と言う名のお示し(・・・)があっておかしくない。


 ならば、クルセイダーの実力不足を理由に道中の危険性を訴え、ベロニカでの結婚式開催を迫るという流れに持っていきたいのだ。


「ベルガさん……」


「そんな顔するなカタリナ」


「ど、どんな顔?」


「私さえ大人しくアストラに行くと言えば。なんて悲劇のヒロイン気取りな顔」


 あえて茶化すように言ってみれば、カタリナは少しだけ目を見開いた後笑って。


「ふふ。私、ヒロイン?」


「じゃあ俺がヒーローだな」


 柄じゃないけど、なんて肩を竦めて言ってみれば。


「うん。信じるわ、私のヒーローさん」


「信心深いことで」


「忘れたの? これでも私、神様の妻だから」


「姉妹揃って俺を神様に仕立て上げようとするな……けど、任せとけ」


 やれやれですよまったく。




「あーもう……と言うか師匠、なんでボクとメル様がクルセイダーと戦わなければならないんですか? 師匠が直接戦った方が安心だし、確実だと思うんですけど」


「いじられお疲れ様。さっきも言ったけど、俺が戦えば国とは関係なく個人的にカタリナを渡したくないから抵抗するという形になってしまうし、国としてはその抵抗を止めなければならない。ここまではわかるな?」


「えぇと……あ、そうか。師匠を自由にしていること、それすなわちそうなっても構わないと認めているようなものですものね」


「その通り。アストラがわざわざこんなに時間をかけた理由は、そうやって俺を封じるためだろう」


 俺とカタリナの結婚を認めない理由はまだわからない。

 だが、認めないという結論ありきで動くというのなら、話が出た瞬間に来国してカタリナを問答無用で連れて行けばいい話なのだ。


 しかし、そうしてこないということは。


「ベルガを調べ、ベルガに対して勝てない、もしくは勝てないかもしれないと考えたから」


「かなり大きくせんせのことは喧伝したもんね。どこまでせんせの過去を調べられたのかはわからないけど、もしかしてと思わせる程度には十分だったんだと思う」


「なる、ほど」


 そういうことである。

 つまり、クルセイダーの詳しい力量はわからないにしても、強さの天井は俺以下である可能性が高い。


「その上で。今回の件で一番重要なポイントは、その場でカタリナが連れていかれないことに尽きる。クルセイダーよりもこちらで用意する護衛の質が上だと示し、その程度の実力じゃ安心してカタリナを送り出せないと言いたいんだ」


「だから、メル様と共になんですね? ボクが一番力を発揮できるのは護衛戦だから」


「もちろんそれもある。だが、何よりも二週間でクルセイダー、ひいては俺に肉薄できるほど成長するなんて現実的じゃない」


 もっともだと頷くトリア。

 あまり俺を大きく高く捉えすぎないで欲しいとは思うけれど、今つっこむべきことじゃない。


「そこで、だ。メルには魔法でトリアの動きをサポートしてもらう。今日から当日までは、二人の連携訓練に指南の時間を充てる……かなり厳しい訓練になるから、そのつもりで覚悟しておいてくれ」


「いや、今までがかなり厳しい訓練じゃないみたいに言わないで?」


 おっとメルちゃん? 面白いこと言うね?


「あ、あの師匠? その笑顔は――」


「だめだよトリア! 聞いちゃダメ!」


 切羽詰まった状況ではあるが、いい機会だ。

 トリアは護衛戦の経験、メルは魔法を使って誰かをサポートする経験。


「しっかりお授業致しますね? よろしくお願いします」


「「ひぇっ……」」


 美味しくはないが、一粒に二つの味がある。


 しっかり頑張ってもらうとしよう。

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