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キレキレアルル様

「よく来てくれましたわベルガ。どうぞ、楽になって下さいまし」


「いやあの、後ろめちゃくちゃですけど間が悪かったんですよね? 帰ります、出直しますそうさせてください」


「楽になさって?」


「あっはい」


 虫の居所が悪い日は誰にだってあるものだ。


 カタリナのイヤリングが怪しいことに気づいて、メルと危機感を共有して。

 もちろんここまでのことをアルル様にも報告しなければとやって来た日が、アルル様の機嫌が悪い日だったとしても、巡り合わせと言うものは誰にも操ることはできない。


 要するに諦めろって言う話、おうじーざす。


「それで? 何の御用? ま、さ、か、アストラに関係することではありませんわよね?」


「……人変わってません? あなたはアルル様ですか?」


「だまらっしゃい」


「すみません」


 いやもう、ある意味絶好調なアルル様だ。

 素の感情をあまり表に出さないのがどうたらとか、もはやそういう次元じゃない。


「肩でもお揉みしましょうか?」


「結構ですわ。誰かさんの稽古のおかげで、このようなモノ(・・)をぶら下げていても肩こり知らずですのよ」


「……その攻撃は俺に効くのでやめてください」


 胸をぎゅむっと掴んでばるんばるん。いたいけな青年を苛めないで欲しい。


 露骨に機嫌が悪い。そりゃもうめちゃくちゃ悪い。


 こうして見ると王と言うよりは、ちょっとわがままな麗人なんて面を感じて可愛らしく思えるんだけれども。そんなこと思っている場合でもない。


 アルル様の部屋に散らばる書類の山々。

 ぐしゃりと握りしめたのかくしゃくしゃになっているものもあれば、靴跡がついているものだってある。


 あの(・・)アルル様がこんなことになってるあたり、どれだけ苛立っているのか推して計るべしなんてものだが、いい加減腹を括ろう。


「カタリナに何らかの魔法、あるいは魔術が仕込まれている可能性があります」


「あ゛ぁ゛!?」


「王様がしていい顔じゃないですってそれ……現在メルにアストラから帰って来た各国の貴人がその後どうなったのかということを調べてもらっているところです。その報告と、具体的な期日がどれくらいあるのかの確認に、今日は参りました」


「……ふぅ」


 いやもうおっとりニコニコお姉様はどこに行ったんだよってなもんだが。


 素の顔を見せてくれてるってのを喜ぶべきだな、そう思おう。


「失礼しましたわ。改めて、楽にしなさい」


「ありがとうございます」


 ようやく王としての自分を取り戻してくれたらしい。




「あのイヤリングが、ですか。わかりました。ベルガ、アストラを滅ぼしてきなさい」


「どうどうどう……本気なら喜んでと言うところですが、どうか冷静に」


「なれるものならなっていますわっ! あーもうっ! あのド腐れカルトに災いあれですわぁあああっ!」


 話している途中からアルル様の額に青筋が増えていくのを見るのは怖かったです、はい。


「こっちのことは置いといて。折衝のほうは?」


「んっ!」


「いやあの、そんな床を指ささないで……なんでもないです、うん」


 若干精神年齢も下がってない? ほんとに大丈夫?


 大丈夫じゃないよね……えーと、これか?


「なになに? ――カタリナ・シャル・クルセーヌ・ロストリアス・ベロニカは既に我が主の傍らに立つものである。全ては神の御意志によって定められることであり、我らは神託を告げたのみである……わーお」


 要するに自分たちの意思は何もなく、全て神様とやらが決めたことだから文句を言わず黙って従えと。


 乱暴すぎるだろ、神とやらはどんだけ器がちっせぇんだ。


「また、全てをアストラに委ねたのであれば、ベロニカへと支部協会を建てても良いそうです」


「それがどれくらいの価値があるものか把握しかねますが。なるほど、アメと鞭。しかしながらこの機を逃せば二度はないと脅し混じりってとこですか」


「その通りでしょうね。聖十字教の協会はアストラの定めた聖地にしか建設されません。言ってしまえばベロニカを聖地として認めると言っているのです」


 書類を読み進めて行けば、暴論とまでは言わないがカタリナがどうしても欲しいらしいことが伝わってくる。


 確かにカタリナは料理上手で家庭的な美人だ。

 俺としては何より剣の才能に溢れ、やがて世界屈指と呼ばれるだろう剣士になるという部分が一番の魅力に思えるが、アストラはカタリナの何を欲しているのか。


「アルル様のお考えは?」


「……我が国の主教であることもあり、国民の半数に届かないくらいはこの流れを迎合すると思っています」


「残りは?」


「主に王都付近の街に住む者たちですが、カタリナとあなたの結婚を望んでいます。言わずともがな、あなたがこの国に居れば安泰だと考えているからですね。カタリナをくさびとできるならばと言った意味です」


 他力本願な考えではあるが、まぁ理解できる。


 シェリナ率いる諜報部隊の活躍で、俺がどれほどノルドラの件だなんだで国に貢献したかとか、必要な存在であるかってのを広めているらしいし。


「ベルガ」


「はい」


「あなた、神になりません?」


「なりませんて」


 真面目な顔して何言ってんですか……。


「冗談ではありません。国民のおよそ半数はベルガのことを強く認知しています。我が国の守護神として崇める対象となれば、痛手は僅かで済むのですから」


「アストラの対応やカタリナを害されているかもしれないってので苛立っているのはわかりますけども。落ち着いてください」


 神の名を騙って解決しようってのは今のところの大筋ではあるけども。


 騙るだけで神になるつもりはない。

 そんなでかい責任を背負いたくないし、よしんばそうした後の収拾をつけるほうが大変だってくらいわかっているでしょうに。


「はぁ……そうですわね、申し訳ありませんわ、ベルガ。ありがとう」


「いえいえ。それで? 何らかの日程は決まりましたか?」


 そう聞けばアルル様は被りを振って、頭を抑えながら。


「ひとまず二週間後、結婚がどうのという話は別として。枢機卿の一人、アモネスという男が聖十字隊(クルセイダー)を率いて視察の名目でやってきます。くそわよっ!」


 心底憎々しげに、言葉を吐き捨てた。

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