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一歩間違えれば危ない人

 どうしてその可能性を考えられなかったのか。


 アルル様から確かに聞いていたはずだ。

 詳しい時期はわからないが、身体情報を見込み含めて調査するのなら五年は十分な期間と言える。


「くそ……」


 自分の迂闊さにへそを噛む。

 最近は平和だななんてのんびりしている場合なんかじゃなかった。


 これで妙な魔法が仕込まれていたりしたら――!


「カタリナッ!!」


「わっ!? び、びっくりしたー……おかえりなさいベルガさん。そんなに慌ててどうしたの?」


 急ぎ足で戻って、勢いのままに扉を開ければ。

 同じくちょうど帰ってきたらしいカタリナがエプロンをつけようとしているところで。


「驚かせてすまない。少し、急ぎで確認したいことがあるんだ」


「私に確認したいこと? うん、答えられないことがあるかもしれないけど、何でも聞いて」


 俺が真剣だということをしっかり感じ取ってくれたのか、エプロンを外してコクリと頷いてくれた。


「ありがとう。じゃあまずは、アストラに行っていたのは何歳から何歳までだ?」


「八歳から五年間よ」


 ちょうど身体が成長しだす時期か、こりゃいきなりキナ臭い。


「アストラでは何をしていた?」


「基本的には各国の王族であったりと貴人の女性が集められた……そうね、言うなら修道院かしら? そんな場所で共同生活をしていたわ。やっていたことは地域貢献活動だったり、お祈りだったり、家事を身に着けたりね」


 ちょっとした花嫁英才教育とでもいうのだろうかね。

 実に修道女らしい活動をしていたと言えるだろう、聞く限りではおかしいところはないが。


「魔法適性だなんだを調べられたりは?」


「半年に一回一般的な健康診断はあったけど、身長や体重を測るくらいしかしてないわね。特殊なことって言えば、聖書の暗記試験みたいなのはあったわ。何章の何節を諳んじろなんてね」


 キナ臭い、と思ったんだけど。


 ……うーん。


「落ち着いた? 急にどうしたのベルガさん。アストラでのことで何か気がかりがあった? 自分で言うのもなんだけど、特におかしなことはなかったわよ?」


 本人がそう言うなら……なんて納得したい気持ちはある。


 けど。

 何か引っかかる。


 アーノイドさんがもしかしてと口にした時背中に嫌なものが奔り抜けた。

 第六感としか言いようがない感覚だが、自分の勘を信じたい。


「カタリナ」


「え? え、あ、えぇ? う、あ?」


 つかつかとカタリナに近寄って、両肩に手を置く。


 視線を彷徨わせながら頬を赤らめていくカタリナには、唐突にこんなことをして申し訳ないと思うが。


「頼みがある」


「ひゃっ、ひゃい!?」


 すぐに露見するようなものであるわけもない。

 簡単にバレてしまわないからこそ、今まで問題になっていないのだから。


 だったら徹底的にやるしかない。


「服を、脱いでくれ」


「――え」


 そうともこれしかない。

 テレシアにも手伝ってもらって、カタリナの身体を隅から隅まで調べ尽くしてやる。


「お前の、全てを暴きたい」


「ベル、ガさ――きゅぅ」


「カ、カタリナッ!?」


 どういうわけか。


「お、おい!? カタリナ!? どうした!?」


「ふぇへ……こ、こんじぇん、こーしょー……らめなのぉ……ふきゅぅ」


 頭から湯気を出して、その場にカタリナは崩れ落ちた。




「こぉのっ! 朴念仁! おバカ! 乙女の敵っ!!」


「はい……本当に、申し訳ないです……」


 頬が痛い。

 きっと鏡を見るまでもなく立派なモミジが浮かんでいることだろう。


「ほんっっっとぉにっ! 反省しなさいよね! 焦っていたのはわかるけど! ちゃんと物事には順序ってものがあるでしょう!?」


「はい、仰るとおりでございます」


 いや、流石にどころか明確に俺が悪い。

 仰るとおりの朴念仁が過ぎた、なんだよ全てを暴きたいって。

 性犯罪に片足つっこむってレベルじゃねぇぞ。


「心配してくれたのは嬉しい! ありがとう! けどね! 私は子供じゃないし結婚適齢期の女なの! ベルガさんの妻になる気マンマンだけど! まだ色々片付いてないし! そういうことは手順を踏んでから!」


「あ、はい」


 なんだか話がズレてきたけど大丈夫か?


 いやいや、俺が悪いんだ、何も言うまい。


「もうっ! ほんとにもうっ!」


「――その辺にしておけ、カタリナ」


「あっ――テレシア」


 え? 何? いつの間に呼び捨て合う仲になってたの?


 というかテレシア、勝手に顕現されると魔力がキツイんですけれども。


「ご主人様? 先程の迫りは是非わたしにお願い致しますと申し上げますと共に、今回ばかりは流石に擁護出来ませんこと、お許しください」


「う……そうだよな、うん。わかってる」


「カタリナも。この前言ったばかりだ、ご主人様が心配されていたのは本当だしいい加減許してくれ」


「わ、わかって、る。ごめん、ベルガさん。ちょっと、カッとなった」


「いや、良いんだ。本当に悪かった」


 あれぇ……? いやほんと、二人共どうしたの?


「それで? 改めて元の話に戻すがカタリナ。本当に何もおかしなことはなかったのか?」


「え? あ、うん。集団生活だったし、一人だけ別のことをやったりすることも、呼び出されたりすることもなかったから私だけじゃなく、誰も思い当たることはないと思う。何なら、当時の知り合いに聞いてみてもいいわよ?」


 ……ふむ。

 なら杞憂、なんだろうか。


「テレシア?」


「わたしとしてもご主人様の勘を信じたいところですが……少なくとも、カタリナの身体に魔法的な異常は確認できません」


 身体に異常はなしか。

 身体強化魔法の自動発動はテレシアだって把握している、それ以外のっていう意味だ。


「カタリナ? 何でも良いんだ。たとえば洗礼の儀式であったりとか、そういう儀式を受けたことがあるとか。アイテムを受け取ったであったりとか。些細なことでいい、少しでも引っかかることはないか?」


「うーん。洗礼なんかは受けたことないし、儀式は……思い当たらないわね」


「なら何かアイテムは?」


「アイテム……あっ」


「何かあるか!?」


 何かに思い当たったのか、カタリナは手を叩いて。


「アイテムじゃなくてアクセサリーを貰ったわ。この右耳のイヤリング、修了の証として私と他の子も貰ったわよ」


 ほら、と。


 髪をかき分け十字(クロス)を見せてくれた。

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