間接的なアレ
「こんなのでいいかな? これでよかったら使ってもらって大丈夫よ。でもリペアだっけ? 元通りにする魔法が使えるならそれでいいんじゃないの?」
「ありがとう、本当に助かるよ。リペアは文字通り修繕、繕ってるだけだから見てくれだけなんだよ。家具だなんだ程度なら十分なんだけどな……てか、こりゃまた立派な」
テレシアのせいというかおかげというべきか。
カタリナが持ってきてくれたダイアモンドは元々使っていたものに遜色ないどころか、もう一つか二つは上のグレードのものだった。
「そう、なのかな? 私、あんまりこういうのわからなくて」
「俺の給料半年分はゆうに超えるだろうな。一般人からすれば三年分の給料で足りるかどうか」
何とも興味ない様子のカタリナではあるが、宝石好きのマダムはもちろん、魔法使いだって喉から手が出そうなほどに欲しいと思うだろう。
しかも薄っすらと桃色がかっている。
俗にいうピンクダイアモンドってやつだ。
「それにしてもこれ、どうしたんだ?」
「えぇっとこれは確か北方の……レイナスの第二王子だったかな? 贈り物として送られてきたのよ。他にもあるけど、いる?」
「いやそんな簡単に言うなっての。レイナスって確かルクラッセに併合された亡国だよな?」
「うん。私にこんな無駄に高価なものを贈ってばかりいるから財政破綻なんかして付け込まれるのよ」
あ、なんとなくお察し。
金目の物に靡く女だとでも思っていたのかな、それとも純粋に貢ぎ体質の人だったのか。
どちらにせよカタリナの気を引ける行為ではないだろう。
カタリナが呆れているというか、少し怒ってる感じなのは同じ王族として何してるんだって部分だな。
「これでカタリナの好意を買えるなら安いとは思うけどな」
「そそっ!? そういうのはいいのよ! も、もうっ! それで!? あ、アイテムクリエイションだっけ? み、見せてもらっていい?」
「もちろん。見世物にしては物足りないだろうけど、ダイアモンドのお礼になんでも答えるよ。テレシア、それじゃあ錬金台出してくれ」
「かしこまりましたっ!」
ずっとニコニコしながら控えていたテレシアに作業台を出してもらって。
「教えられるほど修めた分野じゃないけど。宝石を使ったアイテムクリエイションはそれなりのもんだから安心してくれな」
「うんっ! 楽しみだわ!」
テレシアの笑顔が伝染したのか、カタリナもにっこり笑った。
「さて、一般的にアイテムクリエイションってのは錬金術と呼ばれているものの一つだ」
「アルケミー。せん……べ、ベルガ、さんは、錬金術師でもあったの?」
「アルケミストと名乗るだけなら誰にだってできる。けど、本当にアルケミストとして認められるためには学ばなければならないことが多い。俺は精々薬草学と魔法、魔術について多少詳しい程度だし、こんなもんで名乗るのは烏滸がましいな」
ほんとにぃ? なんて視線を送られるけど本当です。
俺みたいな人は結構多い、というか魔法使いは付随的にに錬金術がある程度できるようになる。
マナポーションの精製なんかはある意味必須技術だし、精製するために薬草学は学ばなければならない。
時間が足りないのです。
「なんだか大変そうね。アルケミストとして学ばなければならないことって他にどんなものがあるの?」
「そうだなぁ……合金技術に魔法基礎論。魔術式学や薬草学、果ては鍛冶に手を出す人だっている。必要だと思ったら学ぶって姿勢が何よりも大切だ。そういった意味では顔見知りの中ではリアが一番アルケミストに近いかもしれないな」
「あ、そっか。付与魔法を扱うために基礎論なんかも勉強してるもんね。合金技術は言うまでもなく持ってるだろうし」
言ってて思ったけど、リアは鍛冶師と言うよりも真面目にアルケミストの方が向いているのかもしれない。
宝石もだいぶ渡したし、一度相談してみるかな。
「ともあれ今からやるのはアルケミの中でも魔術錬金と呼ばれるものだ。一口に言ってしまえば物質と魔法の合成だな。それじゃまずはこの仮面をつけてみてくれ」
「うん。けどこれって……銅?」
「正解。ま、良いからつけてみてくれ」
音ってのは振動だ。
薄い銅は震えやすい。つまり音を無駄なく伝えてくれる金属の一つ。
若干訝しげな様子で受け取ったカタリナが恐る恐る顔に装着して。
「ど、どう?」
目の部分だけをくり抜いた顔面全てを覆うタイプのものだから、カタリナの声が少しくぐもったように聞こえる。
「どうって言われてもな、それは俺のセリフだよ。特に違和感とかはないよな?」
「うん。ちょっと息苦しいのは、口元が開いていないからよね?」
「あぁ、そうだよ。空間を広く取り過ぎたら意味ないしな。けど、確かにその息苦しさは煩わしいよな……折角ピンクダイヤモンドを使えるんだしもうちょっと改良できるかも」
「え? あ、あのベルガさん? もしかしてこれ、使ったことあるの?」
「うん? そりゃ俺のだし、もちろんあるどころかさっき確認で使ってみたけど」
「――」
質問に答えればピタリと不自然なくらいにカタリナが動きを止めた。
「どうした?」
「そ、それって、あの、その……く、口が、同じとこ――う、ううんっ!? な、なんでもないわよ!?」
なんでもないようには見えないけれど。
まぁいいや。
「声の振動を額部分の宝石で感知し声色を変えて出力する。今まで使っていたダイアモンドには集音と変質の効果を持たせて、仮面部分には出力とコアへと振動が漏れなく伝わる誘導の魔術式を書き込めば、ペルソナボイスの完成ってわけだな」
「か、かんせつ、うぅ……こ、こんな形で、わ、私のぅ……むぐぐ」
言葉にすれば簡単に聞こえるわけだけど……いや、聞いてる?
「じゃ、実際に見てもらうか。カタリナ? 仮面取るぞー?」
「な、なんで全然気にしてないのよ……やっぱり朴念仁……それとも慣れて? うー」
何をぶつぶつ言ってるんだと。
仮面越しだからいまいち聞き取れないぞまったく。
とりあえず、仮面は返してもら――
「……顔真っ赤じゃないか。風邪でも引いたか?」
「ふぇっ!? なななな、なに急に取ってるのよっ!?」
「いやそんなの良いから。ちょっと触るぞ?」
「さ、さわっ!? ど、どこを――ひゃんっ!?」
熱は……結構熱いな。てか、どんどん熱くなってきてるし。
「いかんな、悪いが授業は一旦終わりだ。テレシア、カタリナを頼む」
「かしこまりまーしたっ!」
「ちょちょちょっ!? えっ!? 何!? 何されちゃうの!?」
「落ち着けって。簡単に食えるもん作ってくるから、テレシアに汗拭いてもらってちょっと横になっといてくれ」
味に保証は出来ないけど、許してくれってなもんで。
「えぁっ!? べ、ベルガさ――」
「はいはーい! 黙って落ち着いてこっちにこーい!」
「て、テレシアさ――いや私は――あーれー……」