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イイ笑顔

「……正気ですの?」


「うわ、まじかよありえねぇこいつ何言ってんだって顔ありがとうございます。俺は至って真面目です」


 聖十字経典から読み取れる遺産魔法に関しては十分に再現可能な範疇だった。

 あくまでも再現であって、完璧に同じではなかろうが結果が同等のものなら文句はないだろう。


「はぁ。メルが物凄く楽しそうにしていた理由はこれですか」


「何か問題がありますか?」


 そう聞けばアルル様は形の良い顎に指を添えながら瞑目した。


 我ながらの名案は誰かにとっての愚案であることはままあることだ。

 個人的にはこれ以上の案が思い浮かばなかったこともあり、反論やツッコミは是非欲しいところ。


「ベロニカでカタリナの結婚式を挙げる……当たり前ですが、当日厳重等という言葉ではぬるい程の警備が敷かれます」


「でしょうね」


「でしょうねじゃありませんわ! この朴念仁! そんな中から花嫁を攫うなんてしたらベロニカの名が地に落ちると言っているのです!」


 いや、わかってますってば。


「そんな楽しそうな顔しながら言われましても」


「う」


 自覚があるのか言葉に詰まるアルル様、多分さっき目を閉じたのは先見したんだろうな。


「どういう光景が見えたのかは聞きませんけど、アルル様にとっても愉快なものとなっているのなら何よりですね」


「王として万歳三唱出来ませんが、アストラの高圧的な催促状にはいい加減腹を据えかねる部分もありますし? 一人の姉として言うのならカタリナが幸せそうで何よりと言いたいところですわね」


 なら良かったというものだ。


 そう、考えたのは花嫁であるカタリナを攫うということ。

 アストラ教国の誰かは知らないが、カタリナとの結婚式をベロニカで挙げ、その途中で俺が乱入するというもの。


「その場で俺を神として奴らは認めざるを得ないでしょう。少なくとも経典に出ていた魔法は全て再現できるようになりました。その上で認めないというのならヤツらの信心が疑われる」


「ええ。流石に一国の姫、それも神の妻として認められているカタリナとの結婚式です。聖十字教の重鎮や熱心な信徒は参列するでしょうし、悪知恵を働かせた誰か程度だけでは止められないでしょうね」


 それでも認めないというのなら逆に聖十字教自体が疑われることになるわけだ。


「懸念があるとすれば。この理屈は奴さんらにも適応されるということです」


「わかっておりますわ。流石に神を自称するような愚か者は教国にいないとは思いたいですが……強硬的とも言える今回の話、一考は挟んでおくべきですわね」


 神の力を扱えるから神を名乗っても良いというのなら。

 教国の連中に同じことができるやつも名乗っていいということになる。


「まぁその時はどっちが本物かってのをしっかり教えてやりますよ」


「式場は決闘場ではないのですが。いえ、反対するわけじゃありませんわよ? ですが……うぅ、お金がまた飛んでいきますわね……」


 その辺りはもうね、ごめんなさいとしか言えないですけどもね。


「演出という意味も込めて派手にやるつもりではありますから申し訳ないとしか」


「ええ、大丈夫ですわ。この際結婚式と言う名の、極めて実戦的な王都防衛演習とでも考えることにします」


「ありがとうございます」


 ふんにゃりと困ったように笑ってくれたアルル様だった。


「ただ」


「ただ?」


「カタリナの夫となるのなら、わたくしやメルの夫にはなれないですわね」


「……はい?」


 そんな困った笑顔を一転させて、にやりと悪い顔をしてきたけども。


「それ、本気でした?」


「そういうことを言うから朴念仁と言われるのですよ? 冗談で言ったつもりはありませんわ」


「えぇ……」


「むしろ、今回の件が上手くいけば、あなたの価値は更に高まるのです。聖十字教が退く、それはつまりあなたが神として認められるということ。神の血を国に求めるなんて、当たり前の発想でしてよ」


 あ。


 う、迂闊だった、やりたい放題やったれって勢い重点で考えすぎてた。


「あ、あのぅ?」


「それに、です。わたくしにしてもメルにしても、今後あなた以上の男を見つけることは難しいでしょう。政略的な結婚という選択肢が消えたわけではありませんので、何処かに嫁ぐ、夫を迎える可能性はあるにしても。新婚生活に深刻な影は既に生まれてしまっているのですよ」


 過大評価ってやつなんですけどそれは。


「過大評価? ベルガは自分を過小評価しすぎですわね。あなたがわたくしたちに将来性を込みで見出しているものがあるのと同じことですわ。わたくしたちとて、あなたを将来性込みで囲いたいと思っているのです」


 うひぃ、だからアルル様は苦手なんだってばさ!

 この人ホント見抜いて来るんだよなぁ! 困っちゃうよ!


「……申し訳ありません」


「精彩に欠けますわねベルガ。とりあえず謝っとけは情けないですわよ?」


「ぐぅ」


 ぐぅの音は出たから良しとして下さい本当に。


「まぁ、いぢめるのはこの辺りにしておきますわ。ですが、覚えておいてくださいませ? 感情的にも理性的にも、あなたを欲している女はカタリナ以外にもいます。そして、それをなんとかして叶えようとしているわたくしがここにいることを」


「い、いやぁ、はは……」


 覚悟しておきますと言ってしまえば言質を取られてしまうし、曖昧に笑うしかない俺に対して。


「ええ、その調子ですわよ? 未来の旦那様」


 すこぶるいろんな意味でイイ笑顔を向けてきた、アルル様だった。


 

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