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神様になろうか

「あれ? おはようせんせ、珍しいね? 書殿で何してるの?」


「おはよう、メル。ちょっと聖十字教について調べてるんだ。今読んでるのは聖書だよ」


「聖書ぉっ!?」


「なんでそこまで驚いたよ」


 メルがなんだかバツが悪そうに頬を掻きながら視線を逸らした。


 確かに読書している姿は似合わなかろうが、遺憾である。


「いやー……たはは」


「いいけどさ。そういうメルこそ、魔法剣士隊の人たち連れてどうした?」


「魔法の座学、というか意見交換会みたいなものだね。最近から始めたんだ」


 メルの言葉に追従するように後ろで頷く剣士隊の方々。

 中にはなんか感動しているかのようにぷるぷる震えている人すらいるけど、どうしたんだろう。


「なら邪魔になるだろうし俺は行くよ」


「えっ? そんな、全然良いよ。むしろ居て欲しいよ」


 それこそなんでだよ。

 いやまぁだったらこっちとしても助かるんだけどさ。


「けど、今日は一般の人は誰も来ないのか?」


「午前中には誰も来ないよ」


 なるほど、聞くまでもないことではあったな。

 誰か来ることがわかっていたのならこんな大勢では来ないだろう。


 書殿は申請が必要とはいえ、多くの人に解放されている本の集積所みたいな施設だ。

 どの街にも本が好きな人っていうのはいるもんで、中には遠くの街からわざわざ書殿に通っている人もいる。


「そうか。じゃあお言葉に甘えて調べ物の続きをしておくかな」


「具体的には何を調べてるの?」


「ん? あぁ、まぁアストラの遺産魔法になるのかな、たとえばこれだ。堅苦しい言葉だけど、要するに海水を真水に変え大地に緑を与えたって一節。如何にもな奇跡ではあるけれど、一般的な魔法で可能なことなんだよ」


「ふむふむ」


 熱心に聞くのはいいけど、座学は良いんだろうか。


 俺としてはメルの魔法授業にもなるし、口にすることで考えがまとまるしありがたいけど。


「塩水を一瞬で真水に変えるなんざまさしく神級の魔法だけどな。大地に緑を与えるってのならせいぜいが聖級の土魔法か水魔法で事足りる。とまぁ、神とされた存在ってのは相当な魔法使いか、ペテン師のどちらかの場合が多いんだ」


「ペテン師って、でも面白い見方だね。話が逸れちゃうけど、せんせは聖十字教をどっちだと思ってるの?」


「どっちだっていうより、俺は基本的に神様の存在を信じていないからな。あえて言うなら全員ペテン師だよ」


 もちろん神にされた(・・・)ような人もいるだろう。

 類まれなる力や才能を持って生まれてしまったがために神、あるいは神の子として祀り上げられるなんてのはよくある話だ。

 

「流石神級魔法使い様、だね。それで何々? もしかして聖十字教の遺産魔法を習得しようとしてるの?」


「変な持ち上げ方するなって。けど、平たく言えばそうだな。あいつらの神になろうと思ってるんだ」


「……はい?」


 おっと、メルの目が点になった。

 後ろでうんうん言っていた魔法剣士の皆さんもぴたりと動きを止めちゃいましたね。


「これなんかお手頃だと思わないか? 快晴の下で罪人へと雷を落とし裁きとした。フラッシュと衝撃波の組み合わせで何とかなりそうだろ?」


「いやいやいやちょっと待ってすごく聞きたいけどそうじゃなくて。神に? 聖十字教の? なんでまた?」


 珍しく魔法に食いつかなかったなメルってば。

 こんなところも成長なんて言えるんだろうか?


「カタリナは神の妻なんだろ? じゃあ、俺が神になっちまえばあいつを嫁にできるってことじゃないか」


「――」


 あ、固まった。後ろの方々も同じく。


 君たち仲いいね。


「えぇと、さ。せんせ?」


「うん」


「何、考えてるの?」


 恐る恐る、というよりかは訝しげに。


 字面を見れば確かに何言ってんのこいつって感じではあるだろうが、俺はいたって真面目である。


「思ったんだよな。アストラのやつらは神の妻であるカタリナを俺に渡すことをヨシとしなかった。だが、それはあいつらも同じはずだ。枢機卿か教皇かは知らないが、断じてやつらが言うところの神じゃない。つまり、カタリナの夫になっていい立場じゃないはずだ」


 それでこそ道理というものだ、スジが通るというものだ。


 一応聖職者だし? カタリナの美貌に目がくらんでどうのとは思いたくないがな。


「そんなわけで俺が神になる。メル、ペテンでも神になれるってのをしっかり教えてやるからな」


「いやあのね? ちょっとあたしまだ理解がついていけてないんだけど……せんせ、アストラに、行っちゃうの?」


「なんでだよ。俺はメルたちの指南役を降りるつもりはないどころかしがみつくためにそうするんだ。まぁ安心しろ、細部に関しては俺が聖十字教の遺産魔法を再現できるようになってからちゃんというから」


「う、うん」


 どことなく納得できていない様子のメルだが、簡単な話。


 カタリナはもちろん、メルやアルル様。

 それにトリアやアーノイドさんとついでにリアがいるこの街へ居続けるために。


「そうだな、一つメルには覚悟してもらわなきゃな」


「な、なに、かな?」


「新しい弟ができる覚悟をさ」


 そういえば、ようやくメルの身体からこわばりが解けて。


「……くす。大丈夫だよ、せんせ。もう随分前から、できてるから」


「なら何よりだよ」


 小さく笑ってくれた。

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