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メイドさん、あるいはメイド様

 離宮に向かう帰り道。

 考えることはカタリナはどう思っているんだろうかということ。


 恐らく言うまでもなく本音の部分としては行きたくないと思っているだろう。

 ただ、勝ち気な性格をしているけれど、責任感はとても強く立派な姫の顔を持っているカタリナだ。

 命じられれば、ちゃんと姫として頷くのは想像に難しくない。


「俺はどう思っているか、ねぇ」


 問われて改めて考えてみるけれど、アルル様が言ったように大事に想っている相手という言葉がしっくりきた。


 自分の良い訓練相手なんて思っていたけれど、剣という舞台においてなら俺を凌駕し得る存在。

 それはつまり、あの人に高みまで至る可能性がある人とも言える。


 大事にしたいし、大事にしなければならないだろう。

 大切に強くなってもらって、俺と同じ域に……なんていえば上から目線となってしまうが、実力伯仲と言える間柄になってもらうのだ。


「やっぱりカタリナ次第、でしかないんだよな」


 かといってそんな思いはエゴだともわかっている。

 剣聖になったからこそ義務とでもいうのか、姫様たちの剣術指南役となった。

 つまり俺をそうしたのは国で、前国王。そして現在の上役はアルル様なのだ。


 アルル様の決断次第で、俺はカタリナとは離れなければならないし、それに否を唱える権利は俺にない。


「ままならないもんだ……って、あれ?」


 なんでこんなこと悩んでるんだ?

 別に、はいそうですかって話ではあるよな?


 こんなにわがままだったっけ、俺。


「ベールガ様っ! だぁれだっ!」


「……これはまた新しい。まさか目隠しをナイフでされることになるとは思わなかったよ、シェリナ」


 いかん、気を抜きすぎだろう。

 まさか背後の気配に気づけないほど考え込んでいたとは。


「失礼しました。あまりに隙だらけでございましたので」


「いや、むしろありがとうって言っておくよ。改めてお疲れ様、シェリナ。そんなに間は開いてなかったはずだけど、なんだか久しぶりだな」


 ナイフが首筋から離れていったのを確認してから振り向けば、恭しく一礼してくれたシェリナがいた。


「はい、お久しぶりです。またお会い出来ます日を一日千秋の想いで待ち焦がれておりました。ですので今晩あたりどうですか」


「俺はがっつかない女の人のほうが好きだなぁ」


「では閨を温めておきますので」


「今カタリナと住んでるからな? 離宮に忍び込む宣言はどうなんだ?」


 実に絶好調なシェリナである。


 ノルドラの件から諜報メイド部隊は大忙しだった。

 国内各地にいたダストコープス中毒者の回収であったり、中毒者が起こした事件の収拾であったりと大活躍してくれたみたいで。


「把握しておりますとも。ですので私をカタリナ様と一緒に可愛がるという選択肢をご提案致します」


「夜の労い以外なら喜んでって言っておくよ」


「つれませんねぇ……経験がないわけでもないでしょうに」


「そこらへんは想像に任せる。っていうかこんなこと言うのはデリカシーがないなんてまた朴念仁呼ばわりされるだろうけど、お前だって――」


「それを捧げたく思っていますが?」


 あ、はい。


 ほんとに俺はシェリナに何をしたっけか。

 正直何もっていいくらいにしてないから、これだけ言い寄られる理由がわからない。


「……やれやれ、相変わらず朴念仁でいらっしゃる」


「むぅ。いよいよ否定できなくなってきたな」


 オーバーに肩を竦めてながら呆れたように言われてしまった。


「確かに私はベルガ様を女として愛しているかと問われれば……失礼ながら、今の所まったくと言い切ることができます」


「あぁ、そりゃそうだろうな。惚れられる理由がわからない」


「私という存在を全て捧げたくは思っております。それこそ、この場で靴を舐めろと命じられればすぐさま喜んで。今ここでおっぱじめるぞと申されれば――」


「はいはいストップストップ。それ以上は色々いけない」


 言いながら服のボタン外し始めるんじゃないよ。


「失礼致しました。しかしながら、失礼を重ねてしまいますが、ベルガ様とて私と似たような人種ではないかと愚行しているのです」


「うん? どういう意味だ?」


「過程に感情を左右されない人間という意味です」


「――」


 それは。


 実に俺の本質を捉えた言葉で。


「あるいは利己主義者(エゴイスト)と言ってもいいでしょう。理性や良心を持ち合わせていても、最終的には自分のためという言葉に帰結する。私で言うなら、メル様が幸せであるために百人の犠牲が必要だというのなら、笑って贄を用意します」


 仮にカタリナやトリアが、人間の死体を積めば積むほど強くなるというのなら。


 俺も笑って、あるいは無感動に淡々とそうするだろう。


「なるほど、似た人種だ」


「解釈が間違っておらず安心致しました。安心したところで一つ、ベルガ様」


「うん」


「その上であなたは間違えない。私だけではなく、陛下やメル様。そしてカタリナ様やトリアさんもそう確信しているでしょう。思うがままに振る舞い下さい、あなたはわがままで良いのです」


 なんだそれ。


 俺だって人間だ。

 間違えることだって当たり前にあるし、間違った過去がある。


 でも。


「なぁシェリナ」


「はい。如何なさいましたか?」


「色々落ち着いて、後は皆が強くなるだけなんて時が来れば。ちゃんと俺のメイドになってくれ」


「もちろん喜んで」


 笑って頷いてくれたシェリナは、初めて会ったときよりも随分とキレイで強い女になっていた。


「あ、契約内容にベルガ様のこだ――」


「それがなきゃなぁ!!」


 何にせよ腹は決まった。

 俺は俺のやりたいことをするために、やらなくちゃならないことをしよう。

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