やっぱりもう遅いされる男
どうしてこうなった。
「アルル陛下万歳っ!! ベルガ様万歳っ!!」
「あ、はは……あはは?」
魔力切れで眠っていたのは二日程。
ガチガチに拘束されてすっかり消沈しているノルドラはどうでもいいにしても、やけにキラキラした目を向けてくる兵の皆さんはどうしたんだと。
まぁアンチ・ノルドラもしっかり働いているみたいだし? 時間がかかるとはいえあの砦で療養すれば完璧に治療されるだろう。
ダストコープスへの依存は本人の意思次第だけど。
可能性が生まれたことで感謝されていると思えば納得もできる。
だけど、だ。
「ベルガ様ー!! きゃー! こっちを向かれたわー!!」
「違うわよ! 私のほうを向いてくれたのよ! あんたなんかじゃないわ!」
「はぁ、はぁ……カタリナ様、凛々しい、可愛い……」
カタリナとトリアが馬に乗って先導し、その後ろをアルル様と馬車に乗りながらついていく。
そうとも、一言で言えば凱旋パレードってやつだ。
先の戦いがどういう風に伝えられたのかはわからないが、これもメルの仕業らしく帰ってくるなり大歓声に迎えられた。
「そろそろなんでこうなってるのか教えてもらっても?」
「あら~? どうしても何も~。国賊を排し、フリューグス軍へ痛撃を与え、戦場に安定をもたらしたのはベルガじゃありませんか~」
あ、久しぶりに見たなそのニコニコ笑顔。ははは、何しやがったちくしょうめ。
「剣聖様ー! 素敵―! 抱いて―!!」
「あぁんっ!?」
「か、カタリナ様、落ち着いて……」
あぁ、カタリナの額に青筋が見える。
いやほんとに何が伝わったってんだよ、アルル様を守ったって功績を称えられるならまだわかるけど、どうしてこうも黄色い声を向けられているのやら。
なんか一部は違ったような感じもするけど、気のせいだろ。
「ほらほら、民の声に応えてくださいまし~」
「え、あ……はい」
促されて、開けられたままの馬車から身を乗り出して手を振れば。
「きゃああああああっ!!」
「うおっ!?」
音波魔法でも使われた!? それとも衝撃系!?
「ぷっ」
「わ、笑わないで下さいよ。アルル様は忘れられているかもしれませんが、俺は平民ですからね? こんなの慣れてないんですから」
声に押されて尻もちをついてしまった、情けない。
「では~これを機に慣れてくださいませ~。こういった機会も、多くなってくるかと思いますので~」
「……アルル様?」
「うふふ~」
あー……これはあれじゃな? 逃しませんよ作戦の一部じゃな? そうだよね?
「別に、こんなことしなくても。仕事を放り投げたりはしませんよ?」
「でしょうね」
んん? 雰囲気変わったな? え、なんで?
「ここでお話しすることでもないのですが、先にこれだけ言っておきますわ」
「な、なんでしょうか?」
……あー、めちゃくちゃ嫌な予感がするー。
「後悔は先に立ちませんのよ? ベルガ、あなたはわたくしを本気にさせました。これから、覚悟しておいてくださいまし」
「ひぇっ……」
なんですか? 私を本気にさせたと気づいてももう遅い?
なんでまたもう遅いされてるんですかね俺ってば。
悪い事なんかしてないよ? いやほんとだよ?
今ここで逃げたら……駄目だよなぁ……。
「――改めて。皆の働きあってこそではありますが、ベルガ」
「はっ」
「我が剣よ。あなたの働きのおかげで、ダストコープス中毒者が再び日常生活へ戻られる可能性が生まれ、逆賊ノルドラを拿捕、ガイの討伐が為ったことに疑いは持てません。よって、その働きを称え褒美を授けます」
「ありがたき幸せ」
なんで城内じゃなくてバルコニーなんですかね?
なんでこんな一般の方々が押しかけてるんですかね?
こういうことがありましたーっていうのはさ、こんな形でやるもんじゃないよね?
これさ、もしかしてさ。
「カタリナ」
「――はい」
詰んでない?
いやだってさ、呼ばれてどこからか出てきたカタリナがさ、正装して出てきたんですよ。
お姫様モードの時に着ているドレスじゃないよ、ほらこう、大事な式典とかさ、そういうときに着るやつだよあれ。一目見て豪華ってわかるし、相当な時に纏うドレスだよ。
あの勝ち気なカタリナがさ、お澄まし顔でさ、しずしずとこっちに向かってきてさ。
「ベルガ。あなたに、わたくしの大切な妹を託します」
「――」
詰んだわ。
託すってあれだよね、結婚? いや婚約? そういう意味だよね?
まじかよ。
……い、いやまて! ま、まだ慌てるような時間じゃない!
ほら、カタリナって別に俺のこと好きとかそういうわけじゃないじゃん!
「恐れながらも陛下、よろしいでしょうか?」
「許しますわ」
「私は平民です。いわゆる恋愛感情の下、こういった契りが結ばれるものと考えております」
「カタリナでは、不服だと?」
そういうことじゃない!?
「私には勿体ないと申し上げております。カタリナ様に相応しき御方は星の数ほど――」
「ベルガ様」
「は、はい……え? 様?」
声に振り向けば、少し潤んだ瞳のカタリナが居て。
「私があなたに足る女ではないこと、重々承知しております。しかし、なればこそあなたの近くで、もっと傍で。あなたから学び、相応しき女となりたく思っています」
だからそういうことじゃなあああいっ!?
俺! 俺が相応しくないって話!
なんでカタリナが自分を下げてるの!? お前そういう人間だっけ!?
あ、てか口端持ち上がってるぞ!?
わかった! 相応しき女って生徒的な意味でだな!?
そんな言い方しとけば確かにもっともらしいよなぁ!?
「ベルガ」
「へ、陛下……?」
恐る恐るアルル様へと振り向きなおせば、にんまりと笑っている陛下と……後ろで笑いを堪えているのかぴくぴくと震えるメルが見えて。
「わたくしの本気。まだまだこれからも、味わって頂きますからね?」
なんて腹黒いことを仰られた。




