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聖邪の行進

 魔法を発動した瞬間、ぐらりと視界が揺れた。


「オォォォ――お、おぉ……お?」


「なん……? なに、が……?」


 速さ優先で編み上げたせいで、消費魔力軽減の術式が組み込めなかったせいだろう。

 がっつり魔力を持っていかれて気分が悪い。


 しかし。


「キ、キサマ――一体何をしたぁっ!?」


「アンチ・ノルドラ。まぁ、一言で言えばお前の魔法は無効化した。いやぁ、学ばせてもらったよ、おかげでフリューグスの遺産魔法ってやつにも触れられたし、ちゃんと解呪できるものだってのもわかったし。言うことねぇや」


 効果はばっちり。


 魔人化してしまった兵たちの身体が元に戻って、目には理性が帰ってきている。


「よう。気分はどうだ?」


「え、あ……け、剣聖様っ!?」


「な、なぜこのような場所に!?」


「それはお前ら自身がよぉくわかってるだろうよ。記憶消去なんてものは組み込んでないし、落ち着いて思い返してみろ」


 狼狽えるノルドラを余所に、困惑の色を深めながらもじっと記憶を探るような様子を見せた兵たちだが、それもすぐに終わって。


「ノ――」


「ノルドラァッ!!」


「ひっ!?」


 うん、この様子なら無理やり、あるいは知らないうちにはめられ利用されたってセンが濃厚だ。安心したよ。


 腰を抜かして尻もちをついたノルドラへと肩をいからせ、帯刀していたショートソードを抜き放ち歩を進める兵たちだが。


「まぁ落ち着け。気持ちはわからないでもないが、ここでそいつを殺したら計画がおじゃんになるんだ」


「し、しかしっ!」


「お前たちに罪がないかと言われれば首を傾げてしまう部分もある。ここは俺の言うことを聞いてくれ、悪いようにはしない」


「……かしこまり、ました」


 どういう経緯があったのかはわからないが、ここまで腐った司令部になってしまった責任の一端は兵たちにもある。


 大本を辿れば国、つまりはアルル様や前陛下にもあるということだ。

 そこまで考えれば俺がここで下せる沙汰はない。


「さて、ノルドラ」


「ひ、ひぃっ!? あ、ありえない! キ、キサ、キサマは! 一体っ!?」


「あーあ、死ぬチャンスも不意にするか……麻痺(パラライズ)


「か……は……」


 ここですぐさま失敗を悟り死ぬなんて覚悟があればまた違ったんだろうけどな。


「答える義務はないし、あったとしてもお断りだ。なんにせよお前は詰んだ。おとなしく法の、国の裁きを受けるんだな」


 まぁこんなもんだろう。

 生憎とまだやることがある、急がないと。


「ノルドラのことは頼んだ。決して私憤に駆られず、生かしておくようにしてくれ」


「は、はっ!」


「あー……まぁ死なない程度であればボコボコにしてもいいよ。俺がこいつを身動き取れないように必要だったからやったってことにしてもいい」


「……ありがとうございます!!」


「あと、この砦から出たらまたお前らはさっきみたいになってしまう。それだけは注意してくれな」


 そういうと兵たちは一瞬顔を青ざめさせた後、深く頷いた。


 これでよし。

 それじゃ、あわくって逃げてる風を演出しているだろうアルル様のところに向かわないと。




「ふははははっ! どこへ逃げようと言うのですか陛下! お待ちください!」


「くっ――」


「陛下! 大丈夫ですか!? もうすぐ、もうすぐですからね!」


 なけなしの魔力を振り絞り、アジリティブーストを発動しながら予定のポイントへ向かえば。

 乗っていた馬は何処へやら、演技の域を超えて必死になって逃げているアルル様とその手を引くトリアが見えてきた。


 予定ではここにアーノイドさんとカタリナもいるはずだったんだが……あぁ、なるほど。


「どいつもこいつも……楽に人間離れしたがるもんだ」


 魔人化したガイが楽しそうにアルル様たちを追い回している。

 カタリナとアーノイドさんはガイの率いていた部隊を足止めしてるんだろう。


 気分は狩りとでも言いたいのだろうか、それともノルドラが後詰に来ているだろうしどうとでもなると油断を?


 ……はぁ。

 ノルドラも大概だったが、こっちは間違いなくただの脳みそ筋肉やろうだったな。


 っと、まずい。

 行くぞ、テレシア。ちょっと痛いかもしれないけど勘弁してくれな。


「きゃっ!?」


「そこまでのようだなっ! 死ねぇっ!!」


「陛下っ!? くっ、ホーリーベ――」


「――はぁい、ご苦労さんっと」


 ――う、お、もいですぅ……ご主人様、大丈夫ですか?


 転げてしまったアルル様への大剣振り下ろしに割り込み、テレシアで受け止めるが……あぁもう、パワーブーストするしかねぇなこれ。


「師匠っ!!」


「剣聖っ!? どうしてここに!?」


「お待たせしました。とりあえずこいつは……殺すんでしたっけ?」


「……ええ、わたくしが、決して忘れられないほど、凄惨に」


 あーあー。


「まったく、人使い……いえ、剣使いの荒い陛下だ」


「いや! かまうまい! ふはっ! ここであったがひゃくね――」


「うるせぇよ」


 こちとら魔力切れ寸前でキツイんだよ。

 その上凄惨なんてオーダーまで貰ってしまって頭も痛いんだ。


 けど。


「いいのですね?」


「はい。ちゃんと、見届けます」


 立ち上がりながら、ぎゅっと拳を固めたアルル様。


 担い手の成長こそ、我が喜びってね。


「何を――ぁぇ?」


「まずは腕、次に脚だ、交互に行くから覚えておけよ? ――瞬影刃」


「な、ぁ、ぅ、あぁ?」


「言葉通り恨むなら陛下を恨め。陛下もそれをお望みだ」


 魔人化したガイの巨体を、影の刃で輪切りにしていく。

 どんどん短くなっていく自分の腕と脚を、何が起こってるのかわからないと呆然と見るだけのガイは、少し滑稽だ。


「痛みはないだろ? あぁ、安心しろ。ちゃんと苦しめてから殺してやるから……ほら」


「かひゅ?」


 首を切り落として頭を掴み。


「見ろ、お前の身体だったもんだ」


「――」


 血しぶきと共に、自分の身体だったモノが崩れ落ちていく瞬間を見せてやる。


「う、っぷ……」


「……っ」


 トリアが思わずといったように声を漏らして、口を抑えた。

 アルル様は身じろぎせず、ただただ一つの命が自分の剣に奪われた瞬間を見届けようと必死に口を噤む。


「じゃ、お疲れ」


 最後にガイだったモノの頭を上に放り投げ、あえてアルル様の目の前で切り刻んだ。


「……ご注文は以上でよろしかったでしょうか? 我が担い手様」


「……はい」


 顔を青くしながらも、深呼吸を一つした後。


「ありがとう、ベルガ。いえ、我が剣よ」


 頑張って笑顔を作ってくれた。


「ありがたきお言葉。つきましては……そろそろ魔力切れで倒れそうなので、テレシアを顕現し後を任せますことをお許し下さい」


 とまぁ、なんとも締まらないが俺も大概限界で。


「許しますわ。後は任せて、ゆっくりお休みなさい」


「はい……では」


 テレシア、後は頼む。


 口にできたかはわからないけれど。


「――お疲れさまでした、ご主人様」


 そんな声と柔らかい感触に包まれ、湧き上がった安心感へと。


 意識を手放した。

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