第七章 『真夜中の会合』
スマートと船長が甲板でこっそり話し合ったその日の夜遅く、ミーシアが寝静まると男達は食事場に集まりテーブルを囲んだ。ミーシアの前では見せない硬い表情を男達はしていた。
「船長、みな揃いました」皆に伝達を回したスマートが切り出した。
「おう、それじゃあ始めるとするか。お前らも承知の通り、近頃俺達ゃ~海賊らしい事は何もしちゃいねえ。これもわかっていると思うがあえて言わせてもらう。理由はミーシアだ!」
船長の言葉に男達は小さく頷いた。
「ミーシアが物心つき始めた頃から、教育上、船を襲っている所を見せるのは良くないと言い出したのが事の発端だが、ここ最近俺達がした事と言えば、難破船の救助、食い繋げるためビッグママに大量に取ってもらった魚を市場に降ろす事、その他諸々、ハッキリ言って俺達ゃ~漁師じゃねえ!」
「そうだそうだ!」男達は同調した。
「そいでもって俺達ゃ~救難艇を目指している訳でもねえ!」
「そうだそうだ!」
「しかもご丁寧に、難破船に乗船していた人達からは感謝状が届く始末だ!」
ブーイング音頭なのか男達は机を叩き鳴らした。
「街を歩けば『これは先日救って頂いたお礼です』、などとおばちゃんが果物までくれる始末だ。このままではいかん! 腐っても俺達ゃ~海のギャングとまで言われた海賊だ!」
「そうだそうだ!」皆が相槌を打った。
「海賊には海賊の本分ってものがある。このまま海賊業を怠れば、俺達ゃ~干上がってしまう!」
確かに! と男達は無言で頷いた。
「そこでだ! また海賊業を再開しようと思う!」
「OHォ~~~ぅ!」と男達の感動の声が上がった。
「待ってました!」堪らずジミーが口を挟んだ。
「しかしだ!」
船長の言葉に男達の表情が険しくなった。
「ミーシアは幼いから今のところ、海賊とは俺達のような、世のため人のために働く正義の味方のように理解している。そしてまたそんな俺達を誇らしくさえ思ってくれている。さあどうするべきか、俺は考えた! ──」
男達は目を大きく見開いて船長の次の言葉を待った。テーブルの脇で腕を組み、じっと目を閉じて船長の話を聞いていた料理長でさえ、船長の次の言葉に注目した。
船長がニヤリと笑みを浮かべ切り出した。
「極悪非道な海賊船を襲おうと……」
男達の口の端がニンマリと上がった。眼の奥には間違いなく喜びの炎が宿っている。
「だがこれには危険が伴う。まず、海賊船を襲うとなれば明らかに殺し合いになるのは目に見えている。そしてミーシアを乗せたまま海賊を襲うとなればミーシアに危険が及ぶ!」
「確かにそうだ!」そう言ったのは赤鼻のじいさんだ。
「じゃあ船長どうするんですかい?」ジミーが堪らず質問した。
船長はジミーの眼を見たあと一つ頷き話し始めた。
「最近入った情報によると、襲った船に乗り合わせていた人達を皆殺しにする海賊が、ジブラスタ海峡によく出没するらしいのだが、俺達はまず手始めにこいつらを襲おうと思う。そして遠征の期間はミーシアをマッシュの所に預けようと考えているんだが、お前らの意見を聞かせてくれ!」
マッシュとは、早くにこの海賊団を引退した、赤鼻のじいさんと変わらない年齢の男だった。今は妻を娶って街で細々と暮らしていた。
「極悪非道な海賊を襲うなら、大義名分も果たせますし、胸張ってミーシアに会えますものね。オレは賛成ですよ!」とジミー。
「でも会えない間ミーシアが淋しがりはしませんかねぇ~」とこれはジョンだ。
「それは俺も考えたが、幸いミーシアはマッシュ夫妻に懐いている」ジョンに顔を向け船長が言った。
街に買出しに行く時には、ミーシアを連れてよくマッシュ宅に遊びに行っていた。
「ミーシアより船長の方が淋しくなるんじゃないですかい? 俺は淋しいもんなぁ~」
と料理長。「確かに!」と皆も同調した。
「勿論、俺もミーシアと長く会えないのは心が痛む。だがそこはグッと我慢する!」
船長は会えなくなるのを想像して早くも我慢したのか、興奮気味に鼻から息を吐いた。男達も船長に続いて鼻から息を吐いた。
「これは提案なんですけど……」不意にスマートが話し始めた。「今までミーシアに勉強を教えて来た私から言わせてもらえば、ミーシアはとても賢く利口で起点も利く。今あの子は吸収の時期でもあるので、どうせなら遠征に行っている間、学校に行かせるっていうのはどうですかね」
「おぉ~う!」赤鼻のじいさんが右拳で左手を打ち鳴らした。「それなら友達も出来てミーシアも淋しがりはしないじゃろう」
これほどまでミーシアを第一に考えてくれているみなさんに、私は感謝しきれない思いだった。
「よし、学校に行かそう。他に異論のある奴はいるか?」
船長の言葉に、男達は打ち合わせしていたかのように息ぴったりと首を横に振った。
「じゃあ決まりだ! 次の議題に入るが、我々のシンボルマークを変えようと思うのだが」
「えっ、今までの『熊ヒゲ海賊団』を名乗らないんですか? て事は船長その熊ヒゲをお剃りになるんですかい?」ジミーが訝しげな顔をした。
「この際ハッキリ言っておくが、お前達がこの名前を付けてくれたおかげで、俺はここ数十年髭を整える事はあっても、一度も髭を剃った事はなかった。いや、鬱陶しいので剃りたいと思った事は何度もあったが、シンボルマークのおかげで剃れなかった。今ではこの髭が身体の一部になっているから剃るつもりはねえが、とにかくそんな理由でシンボルを変える訳じゃねえ!」
「じゃあまたどうして」またまたジミーが言った。
「さあそこさぁ~。よく聞いてくれ! これまで数々の船を襲撃した時、難局を打開出来たのは誰のおかげだ!」
「そらぁ~我らの守護神ビッグママさ!」
「そうだ! ビッグママは船に体当たりする時どうなる?」
「決まってらぁ~、赤くなって皮膚を鉄のように硬くするのさ!」
ビッグママにこの能力を与えたのも大御婆様だ。
「そこでだ! ビッグママを我らのシンボルにしようと思う。名前もビッグママにちなんで『紅鯨団』ってのはどうだ!」
「それいいっすねぇ~っ、めちゃめちゃカッコいいと思いますよ!」
早くもジミーは賛成を唱えた。
「ほほぉ~う、船長にしちゃあ~洒落たネーミングを考え出したもんだ」
赤鼻のじいさんもどうやら気に入ったらしい。
「シンプルでいいと思いますよ」
スマートも乗り気のようだ。
男達の中で異議を唱えるものは誰一人としていなかった。
「じゃあ旗には赤いクジラが入るわけですね!」
「そういう事だ!」
「クジラに海賊帽を被せるっていうのはどうです?」
「いいじゃねえか!」
「その海賊帽の真ん中にドクロのマークも入れましょうよ! それからクジラの口には葉巻を吸わせる感じで!」
「ジミー、お前ぇ結構センスあるなぁ~、よし旗のデザインはジミーに任せる!」
「で、船長。具体的にはいつから計画を実行するんですかい?」
「新しい旗が完成しだい決行だ!」
海賊姫ミーシアとは別に、コメディータッチの自伝、
レッツ ゴー トゥ ザ NY ウィズ 岸和田㊙物語シリーズ1『武士はピンク好き 編』
も同時連載しておりますので、よければ閲覧してくださいね!
作者 山本武より!