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第四章 『海賊との出会い』

 あのあと名前が決まってからも大変だった。ミーシアがお腹を空かせて泣き出し、海賊船には酒はあってもミルクは無い! と料理長が言い出し、それならば、我らの守護神ビッグママにミルクを分けてもらおう。と船長が言い出したのだ。

 ビッグママとは、海賊団のサポートをする守護神的存在だった。

 船長が海面に向けて大きな声でビッグママの名を叫ぶと、海面が大きく盛り上がり、大きな波を立ててその守護神は現れた。

「あたしを呼び出すなんて珍しいじゃないか! ──」

 現れたのは全長三十メートルはあろう大きなシロナガスクジラだった。

「久しぶりにどこかの船でも襲おうっていうのかい」


 どこかの船でも襲う? ビッグママの言葉に、やはり海賊は所詮しょせん海賊なのだと思った。だがその事を吹き飛ばすぐらいクジラがしゃべった事に驚くばかりだった。


「いや違うんだビッグママ、このミーシアに飲ますミルクを分けてもらおうと思って」

「あんたの子かい?」

「俺達海賊の子さ」

「まあ詳しい事情は聞かないが、まさかあんた達、どっかでその子をさらって来た訳じゃ~ないだろうね! あんた達には義理があるから今まで助けて来てやったが、海賊から人さらいにまで落ちぶれたとあっちゃ~、あたしゃ~もうあんた達には手を貸さないからね!」

「ビッグママ、それはひどい言い草だなぁ~。俺達ゃ~船は襲っても人は殺さない! 海賊業の美学ってものを追及している男達だぜ! 困った人がいれば助けはするものの、間違っても人をさらうなんて事はしないぜ」


 私は船長のこの言葉を聞いて少しホッとした。


「それを聞いて安心したよ! ところでさっき何か言ってたね。何だったかねぇ~?」

「だからこの子にミルクをだなぁ~」

「あぁミルクだったねぇ~! それはかまわないけど、でもどうやって飲ませるのさ! その子が水中に潜るのかい? それともあんたが哺乳瓶でも持って水中であたしのお乳を搾るのかい?」

「確かにそれは面倒だなぁ~」

「そんなの初めから分かる事だろ! ほんとあんた達海賊共はバカばっかりなんだから」

 船長は頭を抱え、うぅ~と唸り出し、まるで三日間お通じが出ていないかのような悩ましい顔付きになった。

「無い頭をちょっと考えれば解る事だろ」

 船長はまだ考えているのか、うぅ~と唸ったままだ。

「街までミルクを買いに行けば済む事じゃないか!」

 ビッグママの言葉に、船長はハッと気づいたのか唸るのを止めた。

「よぉ~し、野郎どもぉ~、街までミルクを買いに出発だぁ~ッ!」

 こうして海賊達は、ミーシアのミルクを求めて街まで調達に向かったのだ。


「ケリドウェン様」

「大御婆様でいいよ」

「それでは大御婆様、あのクジラはもしかして大御婆様が話せるようになさったのですか?」

「ほほぉ~う、よう解ったのぉ~!」

「でもどうして……」

「それはわしに未来を視通す力があったからじゃ」

「それではこうなる事がすべて解っていたのですね。ミーシアが海賊達に助けられる事も……」

「いや、わしにも全ての未来を視通す事は出来ん。未来は時として予測不可能な方向に変化して行くものだ。わしがこのクジラに話す能力を与えたのは、未来の一部分を予測したに過ぎんのじゃ。すべては希望をつなぐ為のな……」


 真実の泉は過去に起こった出来事もすべて観る事が出来た。私は時間をさかのぼり、海賊とビッグママが出会った日の事を泉に映し出してもらった。

 水面では、ビッグママが子クジラを連れてシャチの群れから必死に逃げていた。シャチの群れは明らかに子クジラを狙っていた。シャチの獰猛で鋭い牙が子クジラに襲いかかる度、ビッグママは身をていして子クジラを守っていた。ビッグママの分厚い体にシャチの牙が食い込み、いくつもの傷がビッグママの命を削っていった。シャチの攻撃は数が多い為、ビッグママ一頭では防ぎ切れなかった。ビッグママは最後の力を振り絞り子クジラを守ろうとしたが、もはやビッグママにその力は残されていなかった。子クジラは無残にも、ビッグママの目の前でシャチにやられてしまった。次はビッグママの番だった。

   挿絵(By みてみん)

 だがそのとき幾本いくほんものもりが海面から水中を縫って、シャチの群れ目掛けて襲い掛かったのだ。

「この獰猛な海のハンターめッ! 俺の片足では食い足らず、親子クジラまで襲うとは、なんてひでえ野郎たちだッ!」

 現れたのは義足の船長だった。

「野郎ども、もっと銛をヤツらにぶち込んでやれッ!」

「うちの船長だけは、ほんとシャチに対する執念はすごいなぁ~!」

 甲板からシャチに向けて銛を投げながら、若い海賊が言った。

「そらぁ~当たり前じゃてジミー、何せ片足をヤツらに食われたのじゃからなぁ~!」

 赤鼻のじいさんも銛を投げ込む手を止めずジミーに答えた。若い海賊はジミーと言うのがわかった。

「おめえら無駄口叩いてないで、もっと銛をぶち込まねえかッ!」

「やってますよ船長!」

 子クジラまでは救えなかったが海賊達の応戦が功を奏し、シャチは退散たいさんし、ビッグママの命はなんとか助けられた。しかし海面に浮くビッグママの体には、子クジラを守ろうとした無数の傷があり、ひん死の状態だった。

「ひどくやられたなぁ~大きいの。おい誰か下に降りて傷の手当をしてやれ!」

 数人の海賊兵がボートを出し処置に向かった。

「すまなかったな、子供を守ってやれなくて。もう少し早ければ子供を救ってやる事が出来たのによ」

 ビッグママは大きな真っ黒の瞳から、悲しみの涙を流していた。


 私はビッグママの心にどれほど大きな深い傷を負っているのか痛いほどわかった。親というものは子供の命が助かるのなら、迷う事なく自分の命を捧げられるのだ。母親の子を思う気持ちはそれほどまでに寛大かんだいなものである。もし私が生き残り、ミーシアが目の前で殺されでもしていたら、私にはとても耐えられなかった事だろう。


 弱っている母クジラを放って置けばまたシャチに襲われると、船長は二日間その場に碇泊ていはくして母クジラが回復するのを待った。


 海賊にもこんなに優しい男達がいる事に、そしてその男達にミーシアが救助された事に、私は敬愛けいあいと感謝の気持ちで胸が熱くなった。


「さあ、大きいの、もう俺達は行くが達者でな!」

 三日目の朝、海賊船は南に向けて航路をとった。澄み切った青空が広がる天候のよい朝だった。

「船長まだあのクジラ付いて来やすぜ!」

「おーい、大きいの! もう仲間の所に戻れ~っ!」

 船尾から船長がビッグママに向けて言うが、ビッグママは噴水孔ふんすいこうから海水を噴射ふんしゃするばかりだった。

「いいんですかい、放って置いて?」

「好きにさせてやれ」

 その日の夜、碇泊する海賊船の横で眠るビッグママに、大御婆様は会いに行ったのだ。

「この海賊達にずーっと付いて行くつもりか?」

 ビッグママは噴水孔から海水を噴射し返事した。

「そうか、それなら其方そなたに良い物を授けてやろう」

 大御婆様は杖をビッグママにかざした。杖から放たれた閃光せんこうがビッグママを包み込んだ。

「こやつらの力になってやるといい」

 それだけ言うと大御婆様はその場から姿を消した。

 明くる朝、海賊達が目を覚ますと、甲板には食べ切れない程の魚が打ち上げられていた。

「いったいこれはどういう事だ!」

 船長が子分らに尋ねると、男達はさっぱり分からねえ! ときょとんとした顔をして互いを見つめるばかりだったが、その時また海面から甲板に魚が打ち上げられた。

 海賊達は船縁に走って行き海面を見下ろした。そこにはビッグママの姿があった。

「これはお前の仕業か?」船長が言った。

「ほんのお礼さ」ビッグママが答えた。

「おいっ、クジラがしゃべったぞッ!」

 船長は驚きに目を丸くしている。船員達は腰を抜かしその場に崩れた。

 ビッグママは噴水孔から潮をいた。

「そんなに驚かないでおくれ! 話せるようになったあたしが一番驚いているんだから……」

 それから海賊達は、こんな経験は生まれて初めてだと、船縁に酒を持ち込みビッグママと会話を楽しんだ。

「名前を決めねえといけねえな」

「何とでも好きに呼んでくれりゃ構わないよ!」

 大きいお母さん、その名の通りビッグママと名づけたのは片足の船長だった。

 これが海賊達とビッグママの出会いだった。

海賊姫ミーシアとは別に、コメディータッチの自伝、

レッツ ゴー トゥ ザ NY ウィズ 岸和田㊙物語シリーズ1『武士はピンク好き 編』

も同時連載しておりますので、よければ閲覧してくださいね!

作者 山本武より!

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