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バレンタインアプリの欠点

作者: ウォーカー

 新年が始まり定着して間もない一月。

学校で女子学生たちがおしゃべりをしていた。

「もうすぐバレンタインデーだね。」

「そっか、今年ももうそんな時期かぁ。」

「バレンタインって面倒くさいよね。

 本命チョコを渡す相手もいないのに、

 義理チョコなんてものを用意しなきゃいけなくて。」

「わ、わたしは、今年は本命チョコを用意するけど。」

「えっ、誰にあげるの?うちのクラスの男子?」

「そんなの内緒。

 でも、バレンタインに二人っきりになれるかわからないし、

 本命チョコを用意しても渡せないかも。」

「どっちにしても、バレンタインは大変だよねぇ。」

「・・・ねぇ、こんなのはどう?バレンタインアプリだって。」

一人の女子学生がみんなにスマートフォンの画面をかざして見せた。

そこには、チョコレートのアイコンが表示されていた。


バレンタインアプリ。

このアプリケーションをあなたとお相手のスマホにインストールしておけば、

義理チョコでも本命チョコでも、バレンタインデー当日にお届け致します。

義理チョコであれば、最も簡単なものはチョコレート画像を送信するだけ。

本命チョコであれば、一流メーカーの最上級チョコレートを当日早朝にお届け。

二人っきりになるのが難しいお相手でも大丈夫。

あなたが直接チョコを手渡しに行く必要はありません。

バレンタインの準備から本番当日まで、指先一本で全てが済ませられます。


説明を読み終えて、女子学生たちは、わっと色めき立った。

「これ、いいじゃない!

 義理チョコなんて用意しなくても、写真で済ませてくれるって。」

「直接手渡ししなくていいなら、本命チョコも無駄にせずに済むかも。」

「早速、みんなで使ってみようよ。このバレンタインアプリ。」

そうして、女子学生たちは、バレンタインアプリをスマホにインストール。

すると、耳聡みみざとい男子学生の幾人かが、わらわらと寄ってきた。

「何だ何だ?お前ら、何をしてるんだ?」

「ちょっと、男子には関係ないでしょ。」

「待って、そうでもないんじゃない?

 バレンタインアプリを使うには、相手も登録してないといけないから。」

「あっ、そう言えばそうだね。

 ・・・男子のみんな、よく聞いて。

 わたしたち、今年のバレンタインデーは、

 このバレンタインアプリで済ませることにしたから。

 義理チョコでも本命チョコでも、

 チョコが欲しければ男子も登録しておくこと!」

こうして、学校の学生たちは、ほぼ全員が、

バレンタインアプリをスマホにインストール、登録した。

登録しなかったのは、たった一組の男女学生のみ。

その二人は古くからの付き合いで、学校の誰もが知っている公認カップル。

今更お互いがバレンタインに本命チョコをやり取りするのは当然だし、

義理チョコは貰えなくても構わないということだった。

公認カップル故に手出しする者もなく無害だろうと、

バレンタインアプリの輪からは除外されたのだった。


 バレンタインアプリは学校中にあっと言う間に広まった。

これで男子学生は、後はバレンタインデー当日を待つのみ。

しかし一方、本命がいる女子学生はここからが正念場。

本命チョコはどんなものにしよう。

予算はどのくらいあればいいのだろう。

大きさは形はどうしよう。

チョコの種類や風味フレーバーは相手の好みに合わせなければ。

用意しなければならないことは山とある。

しかしこれらは全て、バレンタインアプリがやってくれた。

バレンタインアプリに登録した男子学生は、

各々のチョコレートの好みから要望まで登録を求められる。

女子学生は、誰に本命チョコを渡すのか登録するだけで、

どんなチョコを選べばいいのかアプリから提示されるというわけ。

もしも、本命チョコを渡したい相手が学外の人だったとしても、

名前などがわかれば検索し、その人が登録していないか調べてくれる。

登録されていれば手間はかからない。

もしも登録されていなければ、

相手にそれとなくバレンタインアプリの登録を促すのも一手。

こうしてバレンタインデーの準備は、

バレンタインアプリによって劇的に変わった。


 万能に思えるバレンタインアプリだが、できないこともある。

バレンタインの準備をしていた女子学生たちは、ふと気が付いた。

自分と同じ相手に本命チョコを渡そうとしている女子がいるのではないかと。

バレンタインアプリは、本命チョコを渡したい相手の好みまで教えてくれる。

しかし、誰がその相手に本命チョコを渡そうとしているか、

そこまでは教えてくれない。

男の人気というものは集中するのが常。

女にモテる男には複数のファンがいておかしくない。

もしも本命チョコが他の人と被ってしまったら、

きっとお互いに気まずい思いをすることになるだろう。

そんな思いをするくらいなら、本命チョコなんて渡さない方がましかも。

できれば自分以外の人が同じ相手に本命チョコを渡すのを阻止したい。

あるいは誰かが同じことを考えているかも。

疑心暗鬼。

バレンタインアプリを使って事前に情報が整理されたことで、

逆に心配の種が増えてしまった。

それだけでは済まず、実際に女子学生同士が、

誰に本命チョコを贈るつもりなのかと問い詰めるような事態まで起こった。

このままでは本格的な喧嘩になってしまう。それは避けたい。

そんな思惑で、有志の女子学生たちが対策を講じることにした。

名付けて、バレンタイン非公式予定表。

これは、学校の女子学生たちが各々誰に本命チョコを贈るつもりなのか、

バレンタインアプリが教えてくれない情報をリストアップしようというもの。

もしも本命チョコを贈る相手が被っているのが見つかれば、

他の女子学生たちの仲裁の下、話し合いで解決する。

そのはずだったのだが、しかし、

いざバレンタイン非公式予定表を作ろうとすると、中々思う通りにはいかない。

そもそも、バレンタインアプリを使うことにしたのは、

誰に本命チョコを渡すのかを他人に知られたくないから。

事前に誰に本命チョコを渡すつもりなのか、

尋ねられても素直に答える女子学生は少ない。

正直に打ち明けたところで、自分よりも強い女子学生と同じ相手だったら、

無理矢理譲らされてしまうのが目に見えている。

弱い者にとっては、答えないことが唯一できる抵抗だった。

あるいは、恥ずかしがって答えないだけならまだしも、

邪魔されたくないという理由から、

嘘の答えを言う女子学生すらいるような状態だった。

この中に嘘の答えを言う者がいる。その可能性は更なる疑心暗鬼を生む。

その結果、バレンタイン非公式予定表を作るために、

返って押し問答や口論になってしまうような有様だった。

苦労してバレンタイン非公式予定表を作っても、それで完璧とは言えない。

人の心は移り変わるもの。

バレンタインデーが近付くにつれて本命チョコを渡したい相手が変わったり、

バレンタイン非公式予定表で人気が集中した男子学生を見て、

それがきっかけで本命チョコを渡したくなった、という女子学生まで出現。

誰が身を引くかの交渉は、より多くより難しくなって、

結局、バレンタイン非公式予定表は混乱を増すだけの結果となった。

男子学生を蚊帳の外にして、女子学生たちの策謀は、

バレンタインデー前日になってもなお続いていた。


 二月十四日。いよいよバレンタインデー当日。

バレンタインチョコを待ち望む男子学生に対して、

女子学生たちは既にクタクタ。

前日まで続いた、バレンタイン非公式予定表の調整のためだった。

結局、本命チョコの被りを全て解消するには至らず、

バレンタインデー当日を迎えた。

早朝、幾人かの男子学生の元には、バレンタインアプリ経由で、

立派なバレンタインチョコが届けられた。

中には、複数の本命チョコが届けられた男子学生もいた。

いずれにせよ、本命チョコが届いた男子学生たちはホクホク顔。

一方、本命チョコにありつけなかった男子学生たちはというと、

バレンタインアプリを通じて、義理チョコと言う名の、

バレンタインチョコの写真がスマートフォンに届けられただけだった。

たった一欠片の義理チョコにもありつけず、

写真で済ませられた男子学生たちは、恨めしそうな顔をしていた。

しかし、そんなモテない男子学生たちも、学校に登校すると、

自分たちはまだ平和な方だということを実感させられた。

バレンタインデー当日の学校は、一言で言うならば阿鼻叫喚。

そこかしこで女子学生たちが口論に留まらない喧嘩をしていた。

バレンタイン非公式予定表のせいで、

本命チョコを渡したかったのに邪魔されただとか、

事前の予定に従わない女子学生がいただのと大論争。

髪を引っ張り合ったりの取っ組み合いまでしている。

その姿には、本命チョコを貰った男子学生も思わず真顔になるほど。

そこには、かつての優しくて穏やかな教室は存在しない。

・・・いや、よく見ると、一箇所だけは違った。

争い合い大騒ぎの教室の片隅で、

一組の男女が仲睦まじく語らい合っていた。

それは、バレンタインアプリに登録しなかった、あのカップル。

その二人は、周りの喧騒など気にならない様子で、

女子学生が持ってきたと思われるバレンタインチョコを、

二人で仲良く一緒に食べていた。

手作りであろうそのバレンタインチョコは、

見た目はちょっと不格好で、高級店のチョコとは比べるまでもない。

でもそんなことはお構い無しで、二人は美味しそうに食べている。

はい、あーんなんてやっちゃって、それはそれは楽しそうに。

そんな二人の姿を見ていたら、

他の学生たちは急に冷静にさせられてしまった。

バレンタインデーにアプリとチョコと予定表で一喜一憂させられて、

自分たちは何をしているのだろう。

バレンタインデーに想いを伝えるのなら、

想いとバレンタインチョコさえあればいい。

他に何が必要だというのか。

恋に事前調整は利かない。

バレンタインデーにはデジタルよりアナログこそふさわしい。

そうして、今更ながらに事実を悟った女子学生たちは、

バレンタインアプリが入ったスマホを放り出すと、

今からでもバレンタインの本命チョコを用意しようと奔走するのだった。


こうして、バレンタインアプリは、あっと言う間に廃れてしまった。

アプリというデジタルは、アナログのチョコには敵わなかった。

しかし、バレンタインアプリ上のことだけとはいえ、

写真だけでも義理チョコを受け取った男子学生たちは、

後日、ホワイトデーには、

実物のお返しをすることを迫られることになるのだった。



終わり。


 もうすぐそこに迫ったバレンタインデーの話でした。


バレンタインデーにチョコレートを贈るという習慣は、

人為的に作られた可能性があるということで、

そうであれば今後、バレンタインデーの風習が更に変わるかも知れない。

特に多くの人が使うスマホがバレンタインデーに関わってくるかも。

そんな場合を空想してみました。

結果は、バレンタインを事前に準備しようとするあまり、

リストアップすることなどの不都合の方が勝ってしまいました。


バレンタインデーをアナログからデジタルに入れ替えるのは大変そうです。


お読み頂きありがとうございました。


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