第十四話:可愛い
「その、今日のアイリスって、凄く着飾ってたでしょ?」
「あ、うん。そうだね」
「その……リュウトは、そんなアイリスを見て、可愛いって思った?」
「えっと……まあ、そうだね。似合ってるなとは思ったよ」
……まただ。
今のエスティナって、昨日の風呂掃除の後と同じ反応をしてる気がする。
そんなに俺の恋愛の事が気になるのか?
別にこっちの事なんていいから、早くエスティナに幸せになってほしいんだけど。
内心そう思っていると、まるで様子を伺うように、エスティナが上目遣いにこっちを見ると、こう尋ねてくる。
「ちなみに、その……変な事、聞いてもいい?」
「えっと、どんな?」
「あ、あのね。今日アイリスが着てた服と、私が今着てるような服だと、リュウトはどっちが好み、かな?」
え? どっちの服?
しかも、俺の好み?
「答える前に、なんで質問されたかって、聞いてもいい?」
戸惑いつつそう尋ね返すと、エスティナが顔を真っ赤にした後、身を小さくして目を泳がせる。
「あ、あの。その、ね。男の人ってどっちの方が好きかなって、色々みんなに聞いてるんだけど。折角だから、ちゃんと男の子の意見も聞きたいなって……」
つまり、例の片想いの男子の心を掴むために、どんな服装が良いか模索してるって事か……。
恥ずかしそうに俯く彼女の心に、想い人がいるんだと思うと胸が痛む。
でも、エスティナの力になって、彼女に幸せになってもらうって決めたんだから。
俺はそう思い直し、自分が決めた覚悟を心に刻み直した。
「えっと。あくまで俺だったら、だけど。エスティナがアイリスさんの着てた服を着ても、似合うと思う」
「そ、そっか」
「うん。でも」
「……でも?」
俺の会話が切れなかった事に、彼女が赤い顔のままこっちに目線を向けてくる。
……やっぱ、可愛いよな、エスティナ。じゃなかった。
「え、えっと。エスティナは今の服装の方が似合ってるし、可愛いと思うよ」
「え!? か、可愛い……」
少し色白に戻ってきていた彼女の顔が、またぽんっと赤くなると、また目を伏せたエスティナ。
……うん。可愛い。
その愛らしい仕草も、恥ずかしそうな顔も。
彼女に釣られ、少し赤くなった俺。
いや、だって。服の話だから間違ってないけど、彼女に可愛いって言ったら、本人が目の前で照れてるんだぞ?
ただ……。な、なんか違う意味に勘違いされてないかっていうのもあって、ちょっと不安だな。嫌がっている感じがないとはいえ……。
エスティナは俯いたまま、何も言わない。
けど、俺も何て言えばいいか分からず困ってしまい、ごまかすように視線を逸らし、頬を掻くしかできなかった。
一気に静かになる部屋。
何となく気持ちが落ち着かなくなっていると。
「……リュ、リュウト」
エスティナがか細い声で、囁くように俺の名前を呼んだ。
釣られてそっちを見ると、彼女は上目遣いのまま、じっとこっちを見つめている。
顔は真剣。目は潤み、顔は真っ赤なまま。
何が起こるのか。そんな気持ちすら忘れ、吸い込まれそうな瞳に魅入られたまま、俺は呆然とし息を飲む。
「あの、あのね。わ、私って、本当に、可愛い?」
「あ、えっと……う、うん。可愛いよ」
彼女の言葉に釣られ、考えなしに本音を漏らす。
それを聞いたエスティナは、少しだけ目を閉じ、大きく深呼吸すると。
「あ、あのね。私、実は──」
コンコンコン
「エスティナー。いるー?」
突然扉の向こうから割り込んだミネットさんの声に、俺達がビクッと身を震わせ背筋を伸ばす。
「い、いるけど。ど、どうしたの!?」
「お。良かったー。これからみんなで食事でもしよーって話してたんだけどー。エスティナやリュウト君もどうかなーって」
慌てて返事をしたエスティナに、相変わらずの元気そうな声をあげる。
っていうか、俺の名前を口にしたってことは、いるのは知られてるって事だよな……。
「ど、どうしよう?」
「え、えっと。食べかけのこれを持って、一緒に食べるでもいいんじゃないかな?」
「そ、そっか。そうだよね。ミャウちゃんもいい?」
「ミャーウ」
俺達のどこかぎこちない会話に首を傾げながらも、いいよーと言わんばかりにミャウはひと鳴きする。
「こいつも大丈夫みたい。一旦それで話してみたら?」
「う、うん。わかった。ちょっと話してくるね」
どこかあたふたしながら、エスティナが席を立つと、部屋の扉の方に向かっていく。
その背中を見ながら、俺は旨を撫でおろした。
いや、安心っていうと変なんだけど。
絶対さっきのエスティナが醸し出した空気は、ちょっとおかしかったと思う。
まるで、俺に告白しようとしてたみたいだったし……。
落ち着いたはずの心臓がまたドキドキ言い出してしまい、俺は慌てて大きく深呼吸する。
さ、流石にそれは考えすぎだろ。俺に意見を聞きたいって言ってたんだし。
だけどあの時、凄く真剣だったような……って、ないないないない!
ぶんぶんと頭を振り雑念を振り払うと、俺は気持ちを落ち着けるため、そっと紅茶を口に運ぶ。
「ミャーウ?」
俺を見たミャウが、また首を傾げる。
そんな相棒に肩を竦めた俺は、
「お前も気にしなくていいから」
なんて言って、気持ちを誤魔化すようにあいつの頭を撫でてやった。
一シーン数話で、と思ったんですが。
気づいたら章の区切りまで書ききっていました(汗)
ということで、次回から新章となりますが、予定通りたの作品と並行で連載を続けますので、すいませんが次回更新はまた間が空く予定です。
次回。
第二巻/第三章「勇者の息子、学園に呼び出される」
更新まで暫くお待ちくださいませ!




