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来界者《フォールナー》リュウトの異世界遍歴 ~勇者の息子の最初の仕事は、女子寮の雑務係でした~  作者: しょぼん(´・ω・`)
第二巻/第二章:勇者の息子、約束を果たす

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第八話:予想外の話題

「そういえば、二人に聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」

「え? 私達に?」

「うん」


 俺の言葉に、エスティナとカサンドラさんが顔を見合わせ、思わず首を傾げる。


「リュウト様。一体どのようなお話かしら?」

「あ、えっと。アイリスさんの事なんだけど」

「アイリスの?」

「うん。彼女の話の好き嫌いとかあれば、ちょっと聞いておきたいかなって」


 エスティナの疑問の声に答えるべくそんな理由を説明すると、二人は少し困惑した顔をした。


「何故リュウト様は、そのようなことを気になされているのかしら?」

「ああ。えっと、この後アイリスさんと二人で会う予定があるんだけど。どんな話をしたらいいか考えてて」


 俺が素直に理由を答えると、カサンドラさんが「えっ」という声と共に、驚いた顔で口に手を当てる。

 ……って、何でそんな顔に?

 自然と首を傾げた俺に対し、彼女は目を丸くしたままこう叫んだ。


「ま、ま、まさか貴方。既にアイリスに手をお出しに──」

「ち、違います! 彼女のお願いで、絵のモデルになるって話を受けただけです!」


 そっちの勘違いかよ!?

 慌てて全否定したけど、昨日の事情を知らない彼女からすれば、俺とアイリスさんが付き合うとか勘違いされても仕方ないか。


「リュ、リュウトがいきなり、そんな事をするわけないでしょ! 変な勘違いをすると、ミャウちゃんに嫌われるわよ!」

「べ、別にリュウト様を蔑んだわけじゃありませんわ! た、ただ、突然の質問に戸惑っただけ。ミャウ様。勘違いなされないでくださいまし!」


 エスティナの言葉を必死に否定したカサンドラさんが、慌ててミャウを見てそんな言い訳をする。

 ちらりと顔を上げ、彼女と視線を合わせたミャウは、そのまま大きくあくびをすると、また床にごろりと丸くなった。


 何となくあの反応。あいつはこのやり取りに興味ないし、どうでもいいって感じだな。

 だけど、カサンドラさんはそれで嫌われたと判断したのか。露骨にショックを顔に出し、顔を青ざめ身を震わせている。

 まったく……。


「カサンドラさん、大丈夫ですよ。こいつは今少し眠いんで、そっとしておいてほしいだけだと思います」

「ほ、本当ですの?」


 おずおずと、普段の冷たさなんてどこかに忘れてきたかのように、心配そうな顔で問いかけてくる彼女に、俺は安心させるように笑う。


「ミャウを信じてください。こいつが意地悪をする奴じゃないのは、カサンドラさんも知ってるでしょう? あなたが泣いた時、許して撫でさせてくれたんですから」

「……そ、そうでしたわね。リュウト様。お心遣い、感謝しますわ」


 流石にあの日のことを思い出してか。

 正気に戻ったカサンドラさんが、お嬢様らしく頭を下げる。


 ふぅ……。なんか、この人といるのはやっぱり大変だな……。

 心の内でそんな愚痴を零していると。


「それより、アイリスの事だよね」


 と、エスティナが話を戻してくれた。


「うん。エスティナ達といる時とかには話してるのを見てたけど、まだ彼女の事全然わからないし。変な話を振っちゃって、無理に聞いてもらうみたいな事になったらいけないかなって……」


 正直、アイリスさん相手で一番困っているのはそこだ。

 嫌なものは嫌って態度を示してくれるような子──例えばカサンドラさんとかの場合、その場である程度嫌な話を判断して、避けたりはできると思う。

 でも、アイリスさんってどこか内気な感じがするから、嫌な話も断れず、無理に聞いてくれたりしそうでさ。


「あの子って、好きな話はわかりやすいよね」

「そうですわね。絵画については、触れたら最後。彼女が現実に返るまで話を聞き続ける事になりますわ」

「確かにそうだね。あと、この間のリュウトの活躍みたいに、あの子に()()()内容だと、話が止まらなくなるかな」


 あー。

 確かに昨日のアイリスさんが、何故か俺の活躍を熱弁してたけど、あれは彼女に刺さったって事なのか。

 でも、絵画か……。


「流石にこの世界の文化は全然わからないし、絵画の話は流石に無理かなぁ」

「言われてみれば、確かにそうだよね……」


 俺が少し困った顔をすると、エスティナも頭を悩ませる。

 と、そんな中。はっとしてこっちを見たのはカサンドラさんだった。


「エスティ。確かあの子は、マンガという物に興味があると話しておりませんでしたこと?」

「え? 漫画?」


 彼女の口から出た聞き覚えのある言葉に、俺は思わず唖然とする。

 

「あ、そうそう! リュウトって、マンガって知ってる?」

「えっと、確かに俺の世界にも漫画があるけど、それと同じ物?」

「それはちょっとわからないんだけど。昔、ある来界者フォールナーがここディアローグの世界で広めようとした、絵画文化なんだって」


 漫画が絵画文化……。

 絵画文化って事は、ただの漫画ってより、イラストとかそっち寄りって事なのだろうか?


「そうなんだ。ちなみにマンガって、この世界でも流行ってるの?」

「そんな事はありませんわ。写実的でない絵画はこの世界では不人気。実際あの砕けた絵柄はわたくしの好みにも合いませんでしたもの」

「私も、あんまり好みじゃないかな」


 おおっと。中々に辛辣な評価だな。

 でもこういう美術的観点って、歴史的に認められるまで結構かかりそうなイメージもある。

 何時この世界に広まったのかはわからないけど。テレビみたいなメディアもないこの世界じゃ、多くの目に止まり認めてもらうのも大変そうだしな。


「今のお話からしますと、リュウト様はマンガを知ってらっしゃいますのね?」

「あ、うん。さっき話した通り、同じ物かまでは分からないけど」

「だったら、困ったらそういう話をしてみたら? きっと異世界のマンガの話を生で聞いたら、アイリスも凄く喜びそうだし」


 確かに、この提案はかなり良さそうな気がする。

 流石にスマホアプリに入っている漫画は、認証できないだろうから見せてあげられないけど。画像フォルダに多少残してあるイラストや漫画とか、ちょっとした物なら見せてあげられるし。


「そうだね。それだったら俺でも話ができそうかも。参考にしてみるよ。二人共ありがとう」

「ううん。役に立ててよかった。ね? カサンドラ?」

「べ、別に。わたくしにとって、このようなお悩みを解決するなど、造作もないこと。リュウト様。お気になさらず」


 光明が見えたことで、自然に笑顔になった俺がそう感謝を口にすると、エスティナはいつもの素敵な笑顔で。カサンドラさんはすまし顔をしながらも少し顔を赤らめそう言ってくる。


 朝から色々あったけど、これで少しは何とかなりそうかな。

 俺は少しほっとしながら、残った朝食を食べ進めたんだ。

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