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来界者《フォールナー》リュウトの異世界遍歴 ~勇者の息子の最初の仕事は、女子寮の雑務係でした~  作者: しょぼん(´・ω・`)
第二巻/第二章:勇者の息子、約束を果たす

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第四話:妨げられた眠り

 あの後、俺の部屋で洗濯物の袋をエスティナに渡し、俺達はそこで別れた。

 その後、ささっと風呂を済ませた後、やっと長いようで短い一日を終え、俺は相変わらず心地よいミャウを枕代わりに、ベッドで横になった。


 明日は学園も休みだし、俺も仕事はなし。

 アイリスさんとの約束も午後だし、エスティナには明日は俺に構わずゆっくりしてって話しておいた。


 これで、明日は少し遅くまで寝られるかな。

 俺は、ほっとした気持ちで目を閉じ、ゆっくりと眠りについた……はずだった。


   § § § § §


  ドンドンドン!


 ……ん……。


  ドンドンドン!


「リュウト殿! リュウト殿はおられませんか?」


 ふわーっ。うるさいなぁ。

 今は何時……って、まだ朝の六時じゃないか。


「ふわーい」


 欠伸をしながら上半身を起こし、気の抜けた返事をすると、


「おはようございます! ミレイにございます!」


 と、元気な彼女の声が届いた。

 声のトーンから、何か問題がおきたというより、普通に挨拶されたように感じるけど……。


「ミャーウ?」


 何だろう? そう言わんばかりのミャウに、俺も首を傾げる。


「さぁ。予定も何もないはずなんだけど……」


 あの事件の後、ミレイと話す機会もなかったし、アイリスさんみたいなお願いをされる機会もなかった。

 なのに、こんな朝から何があったんだろう?


 とりあえず顔を出さないわけにもいかないよな。

 何ともすっきりしない頭のまま、俺はパジャマ姿のまま入口に向かいドアを開けた。


 そこに立っていたのは、身体の線がわかりやすい、半袖のシャツに長ズボンを履いたミレイだった。

 ぱっと見体操着っぽさを感じるけど、デザインは学園の制服に近くて中々かっこいいな。


「おはようございます!」

「おはよう、ミレイ。こんな朝早くに、一体どうしたんですか?」

「はい! クラウディスお姉様が、リュウト殿と朝稽古で色々とお話したいと仰っていたので、お声掛けに」

「朝稽古って……剣の?」

「はい!」


 こっちの問いかけに、快活な返事をするミレイ。

 クラウディスさんって、そんなに突拍子もなく人を誘う人なんだろうか?

 ミャウの事を除けば、何かもっとこう、落ち着いているイメージがあるんだけどなぁ。


 流石にここで断るとクラウディスさんだけじゃなく、呼びに来てくれたミレイにも申し訳ないか……。


「わかったよ。ちゃちゃっと着替えて向かうよ。場所は?」

「衛兵詰所の隣の訓練場です! では、お待ちしております! では!」

「え?」


 衛兵詰所の隣? なんて疑問を覚えた時にはもう頭を下げ、すぐさま駆け出して行ってしまったミレイ。


 っていうか、衛兵詰所ってどこにあるのかも知らないんだけど。まあ、門でサラさん達にでも聞けばわかるか。


 思わず頭を掻いた俺は、そのまま部屋に戻ると、仕方なく身支度を整えたんだ。


   § § § § §


 ミャウと共に一旦女子寮の門まで行き、そこにいたサラさんとドルチェさんに場所を聞いて、俺は女子寮の敷地内にある訓練場へと足を運んだ。


 寮の敷地の隅にある詰所は、サラさん達、衛兵の宿泊施設にもなっている。

 ちなみに、何気に寮母の母屋もすぐ近くにあって、マナードさん達は基本住み込みで働いているんだとか。

 寮で何かあったらすぐ動けないといけないし、それも納得ではあったけど。


 訓練場の敷地に入ると、聞こえてきたのは心地良くも感じる剣と剣のぶつかる小気味良い音。

 詰所に併設している割に、中々広い敷地。

 壁沿いに矢の的だったり、武器を打ち込むための人形なんかもある。

 そんな中、中央ではクラウディスさんとミレイが、互いに髪をなびかせながら、素早く動き剣を打ち合っていた。


 肩で息をしながら、一呼吸置いては連斬で仕掛けるミレイ。だけど、クラウディスさんはそれをうまく剣で弾いたり往なしている。

 ぱっと見る限り、やっぱりクラウディスさんが一枚上手。だけど、二人とも中々良い動きをしてると思う。


 近くでは、腕を組んで稽古を見守っているイリアさんもいる。

 手の甲に見えるのは手甲ナックル

 それが妙に似合って見えるのは、きっと俺の偏見だよな……。


「お待たせしてすいません」


 戦っている二人が互いに距離を置き、肩で息をしたのを見計らい声を掛けると、それに気づいた三人がこっちに顔を向けた。


「おはよう。わざわざ来てくれたのか」

「はい。クラウディスさんが俺と話したいって伺いましたが……」


 クラウディスさんにそう返すと、大きなため息を吐いたのはイリアさん。


「ったく。悪い。それ、ミレイの早ちとりだ」

「……へ?」

「も、申し訳ございません!」


 きょとんとした俺に、ミレイが黒髪のポニーテールを振り回さんとする勢いで頭を下げ、クラウディスさんも銀髪を軽く掻くと苦笑する。


「本当にすまない。この間見せた剣技も素晴らしかったし、一度リュウト君と落ち着いて剣の話をしたてみたいなと口にしただけだったのだが……」

「それを聞いた瞬間。ミレイが『私が呼びに行ってきます!』なんて言って、あたし達の制止も聞かずに飛び出して行っちまってよー」


 まったくと言わんばかりに、イリアさんが大きなため息を吐く。

 そう言われると何となく納得。とはいえ、それで起こされたのか……。

 やるせなさを感じるものの、それで怒ったって仕方ないか。

 そう自分を納得させ、心の平静を保っていると、クラウディスさんがゆっくりとこっちに歩いてきた。


 額に汗を滲ませている姿は、本気できらきらとしている。

 多分、この凛とした立ち振舞い。男女問わずファンがいてもおかしくないよな……なんて思っていたんだけど。


「起こしてしまったのはすまないと思う。だが、折角の機会だ。その……」


 俺から目線を逸らした彼女は──。


「ミャウに、触れても良いだろうか?」


 ──って、そっちかい!

 俺は思わずずっこけそうになった。

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