第六話:お手伝い
あの後、俺達は寮の廊下やエントランスの掃除を始めたんだけど、ここでもミャウが何気に大活躍だった。
ざっと床の掃き掃除を済ませた後。
「ミャウ! ミャーウ!」
床を拭くため俺が手にしたモップを見て、まるでそれを自分の前足につけろと言わんばかりのアピールをしてきたから、マナードさんに頼んで代わりに床を拭くタオルを与えたんだけど。
器用にそれを前足の下に敷いたあいつは、そのまま勢いよく廊下をまっすぐ走り、拭き掃除を始めた。
「ミャウちゃんって、ほんと器用なのねー」
なんてマナードさんも感心してたけど、正直俺もここまでの事をするとは思ってなかったし、流石に驚かされた。
とはいえ、俺も負けてはいられない。
ミャウは広い面を大胆に拭いていくけど、流石に身体も大きくなっているし、廊下の隅なんかを拭くのまで気が回ってないから、そういう部分を俺がフォローしつつ拭き漏れがないようにする。
同じ理由で階段なんかもミャウじゃ難しいだろうから、そこもこっちで綺麗にした。
マナードさんはその間に窓や壁、棚なんかを拭いてくれて、自然と分担して掃除を進めて行き。掃除を始めて約一時間半。 昼前には寮内の共用部分の掃除が一通り完了した。
エントランスに集まった俺達。
「ほんとに綺麗になったわねー」
マナードさんは寮内を軽く見渡すと、感嘆の声を漏らす。
「まさか、こんなに早く終わっちゃうなんて」
「きっとミャウのお陰ですね」
「ミャーウ」
俺が褒めると、背筋をぴんっと伸ばし座っていたミャウが自慢げな顔をする。
「ふふふ。そうね。でも、リュウト君も手際が良かったもの。二人のお陰よー」
「きっとそこはマナードさんのフォローが素晴らしかったからですよ」
「あーら。おばさんを褒めても、何も出ないわよー」
俺の素直な感想に、マナードさんはほくほくの笑顔を見せている。
この人はほんと、表情が柔らかいし、学生みんなに好かれそうだな。
「それじゃ、何時もより早いけど、今日のお昼の賄いでも作っちゃうわね。リュウト君。悪いんだけど、門にいるデルタさん達に三十分後に食堂に来るよう伝えてもらえるかしら」
「はい。伝えたら食堂に行けばいいですか?」
「ええ。それでいいわー。それじゃ、また後でね」
耳をピンッと立てたマナードさんは、ご機嫌な笑顔でそのままドタドタと食堂の方に走って行く。
「じゃ、俺達も行くか」
「ミャウ」
そのまま俺達は彼女と反対。寮の門の方に進んでいった。
§ § § § §
門を守っていたデルタさん達に昼食の伝言を伝え、その後美味しい賄いをいただいた俺達は、思ったより早く掃除が終わったということで、夕方までのんびりしていいと言われた。
疲れは全然そこまでじゃなかったんだけど、
「夕方食堂を手伝ってもらわないといけないし、夜のお風呂掃除もあるんだから。また頑張ってもらうから、今のうちに休んでおいてちょうだい」
なんて優しい笑顔で言われたら、流石に断れなくってさ。
だから、お言葉に甘えて一旦部屋に戻って休むことにした。
本当は女子がいない間に寮内をもう少しうろつこうか迷ったんだけど、何となく勝手に動いて変な物見つけちゃったりしてもいけないし。それならエスティナが一緒の時のほうが安心だと思ったんだ。
で。じゃあちょっとだけ休もうってミャウと一緒にベッドに横になったんだけど、あいつの柔らかさが気持ちいいなぁって思ってたら、あっさり眠りに落ちちゃって。
結局目が覚めたのは、授業を終えて俺の部屋にやってきたエスティナが、ドアをノックした時だった。
§ § § § §
ミャウを挟んで俺とエスティナは廊下を歩き、食堂に向かっていた。
一階は居住スペースは俺の部屋以外にないからほとんどいないものの、窓の外の中庭とかには既に他の女子生徒達もちらちらといるし、夕焼け空の下、女子寮らしい活気を感じるな。
「しかしまさか、こんな時間まで寝ちゃうなんて……。ミャウ。お前は起きなかったのか?」
「ミャーウ」
俺の問いかけにコクリと頷くミャウを見て、くすっとエスティナも笑う。
「ふふっ。きっとリュウトもミャウちゃんも頑張って疲れたんだね。廊下とか凄く綺麗だったし」
「ミャウが一番頑張ってたかな。床はほとんどこいつのお陰だし」
「ミャウミャーウ」
でしょでしょ? っていう声と共に、ふふーんという自慢げな顔。
ミャウの愛らしさに、俺とエスティナは自然と笑顔を交わす。
「そういや、エスティナはこの後はどうするの?」
「え? 勿論一緒に料理作るのを手伝う予定だけど」
「そうなのか。普段も手伝いをしてるの?」
「たまに。だけど、今は私、リュウトの面倒を見る役回りだし。一緒に色々手伝おうと思って」
その申し出は嬉しくもあるけど、何となく申し訳なくもなる。
だって、学園で授業を受けてきたわけだし、疲れだってあると思ったし。
「でも、大変じゃない? 俺って学園ある日は毎日寮の手伝いになるし、無理しなくっても……」
「心配しないで。リュウトと一緒にいられるのも嬉しいし。勿論、辛いと思ったらちゃんと言うから。ね?」
俺といれたら嬉しい……。
その言葉に内心ドキッっとしたけど、まあこれは旧知の仲だからだもんな。
「わかった。とにかく無理だけしないでくれたらいいよ」
「うん。一緒に頑張ろうね」
「ああ。と言っても、まだ全然料理の事はわからないから。エスティナ先生に色々教わらないとね」
「うん。ちゃんと教えてあげるから、安心してね」
笑顔でそう言ってくれる彼女を見て、やっぱり可愛いなと再認識しながら、俺達は食堂へと入っていったんだ。




