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来界者《フォールナー》リュウトの異世界遍歴 ~勇者の息子の最初の仕事は、女子寮の雑務係でした~  作者: しょぼん(´・ω・`)
第二巻/第一章:勇者の息子、仕事を始める

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第五話:雑務係の仕事

「まさかこんなに早く終わるなんて。やっぱり若い子は凄いわねー」

「いえ。道具が凄かっただけですよ」

「謙遜しないで。普段ならもう一時間は掛かっちゃう所よ。それにミャウちゃんも。お手伝いありがとねー」

「ミャーウ」


 あれから少しして、軽く額の汗を拭ったマナードさんは、綺麗になった食堂を見渡しながら、()()を褒めてくれていた。


 結局、テーブルをピンクと白のモルットをそれぞれ手に持ち、一席ずつ交互に手を動かし素早く汚れを取り乾拭きを繰り返したんだけど。

 ほんとこれが楽しくて、次は? 次は? ってやっている内に、気づけば全席終わってたんだ。


 で、時間持て余すのもなんだし、マナードさんに次にやることを聞いて、床の掃き掃除とモップ掛けを始めたんだけど。こっちは流石に毎日はモルットを使わないらしくて、ここは素直に掃き掃除。

 で、やっと出番と言わんばかりに、ミャウが器用に口に咥えた箒でさっさっとゴミを集めて、その後を俺がモップで磨き上げた。


 実は向こうの世界でも、あいつは小さいなりに、身体にあった小さなはたきを口に咥えて、高い段や机の上の埃を取ったりしてたんだよ。

 だから箒がけもお手の物。大きくなってもそれを器用にこなし、マナードさんがキッチン周りを一通り終えた頃には、俺達が食堂の半分以上の掃除を終わらせていて、残りも全員でささっと済ませた結果、かなり時間短縮ができたらしい。


「さて。それじゃ一旦休憩しながら、雑務係としてお願いしたい仕事について、ささっと説明するわね。そっちに座って」

「はい」


 彼女に促され、俺が食堂のカウンター席に座ると、その隣の席にひょいっと乗ったミャウも姿勢を正す。


「あら。ミャウちゃんは本当に器用なのねー」

「ミャウミャウ」

「はい。ご褒美よ。この後もあるから、ちょっとだけだけど」


 それほどでも、とちょっと自慢げなミャウに、カウンター越しにマナードさんがミルク皿を置いてくれる。

 朝にエスティナやカサンドラさんからもミルクをもらっていたし、結構飲んでいたけど大丈夫か?

 そんな俺の不安をよそに、あいつは差し出されたミルクを見てにっこりすると、ペロペロと舐め始めた。


「リュウト君も、これどうぞ」

「あ、すいません。ありがとうございます」


 俺に差し出されたのは、赤みの強いジュースっぽい物。

 一応これでも術やら歴史やらの知識はあるけど、流石にさっきのモルットみたいな道具と同じで、こっちの世界の食べ物の知識までは持ち合わせていない。

 これは何のジュースなんだろう? 色味からすると、この間のファランって果物かな?


「じゃ、いただきます」


 あまり恐る恐るになってもいけないよな。

 俺はコップを手にすると、ぐびっと一杯飲んでみた。


 ……うん。やっぱりこれはファランだな。

 ただ、ケーキの時より甘さは控えめで飲みやすいな。他に何か混ぜてるのかもしれない。


「どう? お口に合うかしら?」

「はい。飲みやすくて美味しいです」

「そう。良かったわー。これ、ファランって果物とアラナンって野菜を合わせたジュースなのよ」

「へー。そうなんですね」

「これね。近所のアニアさんが昨日わざわざ届けにきてくれたのよー。あ、アニアっていうのは、私の家のお向かいさんなんだけどね。夫婦で果物屋を経営しているんだけど、本当に二人は仲が良くって──」


 ……ん?

 笑顔で雑談を始めたマナードさんだけど、ここから仕事の説明じゃなかったっけ?

 どこかで話の区切りが来るかと思って様子を見ていたけど、一向に話が終わる気配がない。


 どうする? と言わんばかりに、ミャウがこっちを向き首を傾げる。

 うーん……確かに放っておいたら延々と話をして、そのまま時間が過ぎそうだな……。


「それで、二人の馴れ初めがまた凄いのよー」

「マ、マナードさん」


 あまりに自然に話しているし、表情から楽しんでるのも伝わってきてたから正直心苦しかったけど、俺は意を決して彼女を呼び止めた。


「あら。どうしたの?」

「あ、はい。色々とお話も気になるんですけど、その……雑務係の仕事についての話を……」


 おずおずとそう申し出てみると、彼女はぽんっと手を叩く。


「あーら、ごめんなさいね。すっかり話に夢中になっちゃって」

「あ、いえ。こちらこそすいません」

「良いのよー。じゃ、改めてお仕事の話をするわね」


 笑顔を崩す事なく、マナードさんはこっちに向き直ると色々説明をしてくれた。


 まず、一日の流れとして、朝六時頃から食堂の朝食を仕込み、七時から食堂を開ける。

 八時半で食堂は終了し、さっきみたいな後片付けをすれば朝食時は終了。


 で、ここで少し休憩しつながら遅い朝食を取った後、女子寮内の掃除や庭の花壇への水やり。毎日じゃないけど、週に一度は天授の塔も掃除するらしい。


 そして午後三時頃に大浴場の湯船を張り、その後流れで夕食の仕込みをして、食堂で夕食を配膳する時間が六時から八時まで続く。

 で、後片付けをしたら、最後に夜の十時頃に女子寮の大浴場を清掃するんだそうだ。


 ちなみに学生の大浴場の利用は九時まで。

 そこから清掃に入って、終わったら乾燥宝珠ドライクリスタルで自然乾燥させるんだって。理由は湿気によるカビなんかを防ぐためらしい。


 大浴場の掃除に関しては、流石に俺が踏み入れていい領域じゃないかなと思ってたんだけど。


「流石に一人では任せられないけれど、私やエスティナが忘れ物とか、残っている人がいないか確認して、問題ないのを確認したら手伝って欲しいのよ。色々手が掛かって大変なのよー」


 との事。まあそこまでしてもらえば事故もなさそうだし、断る理由もなくて素直に「わかりました」って答えておいた。


 あと、各自の部屋の施設は勿論、それぞれ住んでいる生徒達に委ねられているらしい。

 まあそれは当たり前か。俺も、今日みたいにエスティナ達が来るかもしれないし、自分の部屋も綺麗にしておかないとな。


 で。

 この世界の一月は、週八日の五週で四十日。

 で、学校は三日授業があって一日休むというローテーションらしいんだけど、この学生が休みの日は、俺達やマナードさんもお休みになるらしい。


「え? それじゃ皆さんの食事ってどうしてるんですか?」


 休みになると色々問題が出るんじゃって思い、そう尋ねてみたんだけど。そこは流石にちゃんと考えられてるみたいだった。


「女子寮の目的には、彼女達の自主性を育てるって目的もあるのよ。だから、休日の食事は食堂を使って自炊してもいいし、外に食べに行ってもよいの。勿論、キッチンや食堂を使った生徒は、彼女達自身で後片付けや清掃をしっかりしてもらうけれど」

「へー。そうだったんですね。じゃあ寮内の掃除なんかも……」

「ええ。そこは生後達にやらせているわ。クラウディスを始めとした生徒会が率先してローテーションなんかも組んで、上手くやってるわー」


 へー。

 なんか生徒会って勝手に学園内の事だけしているイメージを持ってたから、寮の事までやっているのはちょっと意外だな。


「ちなみに、リュウト君は雑務係だけど、私同様休日はお休みよ。生徒の頼みで休みの日に雑務係として協力してもいいし、勿論ゆっくり羽を休めるのも自由だから、そこはお任せするわ」

「わかりました」

「ただし。寮として事が大きくなりそうな話があったり、何か問題が出た時は、できる限り私に相談してちょうだい。じゃないと、エリスに怒られちゃうかもしれないから」

「はい。わかりました」


 エリスさんがマナードさんを怒る、か。

 温和なマナードさんに落ち着いたエリスさん。この組み合わせでそういう事が起きるイメージは浮かばないんだけど、過去にそういう事があったんだろうか?


「あとは施設に破損とかがあれば、私達で直せそうならそうするけれど、ダメな物は業者を手配するわ。見つけたらちゃんと報告してね」

「わかりました」

「でも、こういう面倒な時にこの間みたいな奇跡が起きて、壊れたのがささーって直ってくれたらいいのにねー」


 隠す事なくそんな願望を口にするマナードさんに、俺は思わず苦笑する。

 まあでも、ちょっとした事ならこっそり直しても怒られないだろうし、彼女の負担が減るなら、その方がいい気もするもんな。


「まあ、大体こんな感じかしら。朝早いし夜も遅くまで仕事があるけれど、毎日それじゃ大変だろうから、お風呂の掃除は交代でやりましょ。その代わり、朝食や夕食の準備は手伝って欲しいのだけど。リュウト君は、料理とかはできる?」

「あ、はい。向こうの世界でも料理はそこそこしてたんで。ただ、流石にこっちの食材とか調理法はわからないんで、色々教えていただけますか?」

「勿論。頼もしいわー。じゃあ、夕食の仕込みの時間から色々お手伝いを頼むわね」

「はい」


 実は今回の雑務係。何気に料理関係が一番楽しみだったんだよな。

 個人的に自宅で親の手伝いもしてたし、バイトで飲食店を選んだのも料理に触れられるからだったしさ。


「じゃあ、一息ついたら寮内のお掃除を始めましょう」

「わかりました」

「ミャウミャウ!」


 俺以上に元気な声を出すミャウに、俺とマナードさんは顔を見合わせた後くすっと笑い合う。

 さて。この後の掃除も大変そうだけど、まずは色々と慣れないとだし、頑張っていかなきゃな。


 俺は貰ったジュースをぐびっと飲み干すと、改めて気合を入れ直したんだ。

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