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来界者《フォールナー》リュウトの異世界遍歴 ~勇者の息子の最初の仕事は、女子寮の雑務係でした~  作者: しょぼん(´・ω・`)
第二巻/第一章:勇者の息子、仕事を始める

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第三話:ミャウの気持ち

「な、何故ですの!?」


 背後から見ててもあからさまに分かる、ショックを隠せないといったリアクション。

 ……うーん。

 彼女の空回りっぷりが原因なのは間違いない。でも、どう伝え、どう納得してもらえばいいんだろう?


 内心頭を抱えていると、この状況を一変させたのはミネットさんだった。


「カサンドラって、相変わらず空気読めてないよねー」


 肩を竦め笑う彼女に、横を向いたカサンドラさんがむっとする。


「あら。何がいけないというのかしら?」

「単純だよ。あたしから見たって、今の行動は()()()()

「遠回しにする必要はございませんわ。遠慮せず、はっきりとお言いなさい」

「うん。じゃあ聞くけど、カサンドラって、好きな男子とかいないって言ってたよね」

「え?」


 予想外の質問に、エスティナとアイリスさんが思わず顔を見合わせる。


「え、ええ。そ、それがどうかしたのかしら?」


 問いかけられた本人でさえ、流石に戸惑いを隠せない。

 そんな変な空気の中、ミネットさんは普段通りの軽い口調で話を続けた。


「今カサンドラがミャウちゃんにしてる事って、その経験不足が露骨に出てるんだよねー。好きな人相手に、ただただ押し付けがましく、自分のわがままをぶつけてるだけ。さっきちらっとミャウちゃんの顔見たけどさー。どう考えても『余計なお世話』って顔してたよ? 気づいてる?」

「そ、そんな事ありませんわ! ねえ、ミャウ様?」


 声を掛けられたミャウは、面倒くさそうにカサンドラさんを見ると、露骨にため息をき、ふて寝し始める。

 あいつを見た事で彼女の顔が隠れたけど、ふるふると震えが大きくなったのを見れば、その態度が望んだ反応じゃないショックから来るものだって、はっきりと伝わってくる。


「ほらね。ミャウちゃんって、すっごく頭いいの。だから、好きになった人、気に入った人にはニコニコするし甘えてくれる。勿論エスティに心を許してくれてるのだって、気に入ってるからこそなの。でもカサンドラは今、自分のわがままの為に、エスティにキツく当たってたじゃん。気に入ってる子を無下に扱う、押し付けがましい人の事、ミャウちゃんが気にいると思う? あたしはないと思うなー。どう? ミャウちゃん?」

「ミャウミャウ」

「……」


 しっかりミャウが頷いたせいか。カサンドラさんは顔を真っ赤にし俯いている。でも、やっぱり何も言い返せない。


「カサンドラが、みんなと仲良くできないって言うならそれでいいよ。でもー、ミャウちゃんに本当に気に入られたいなら、行動する前にちゃんとミャウちゃんの事を見て、ミャウちゃんの事を考えてあげなってー。じゃないと、一生触らせてもらえなくなるよ?」


 言葉の真剣さとは裏腹に、ミネットさんはずっと笑顔。何ていうか、こういう裏表のなさが彼女の凄さなんだろうなぁ……。

 感心しながらその話を聞いていたんだけど、最後に付け加えられた一言が、俺をきょとんとさせた。


「それこそ、リュウト君とか見習うといいと思うよー。そうすれば色々わかると思うし」

「え? 俺ですか?」

「そうそう。ミャウちゃんと一番長く一緒にいて、これだけ好かれてるんだもん。きっとミャウちゃんの心を射止める魅力、たっくさんあるだろうし」

「いやいや。ただ長く暮らしてただけで、特段凄いこともないですよ」

「そんな事ないでしょー。そういう謙虚な所もそうだけどさ。講堂での挨拶なんかも、ちゃんとミャウちゃんの事も考えてあげてたしさー。ほんと、優しいよねー。エスティやアイリスも、そう思わない?」

「え? あ、うん。リュウトって本当に優しいと思うよ。ね?」

「あ、あの。私も、何となく、そう思います」


 ミネットさんが唐突にみんなに話を振ったから、二人も俺と同じでちょっと戸惑ってる。

 特にアイリスさんなんて、完全に面食らってるじゃないか。俺の事ほとんど知らないのに……。


「……はぁ……」


 と。突然蚊帳の外になったカサンドラさんから、大きなため息が聞こえたかと思うと。


「ミャウ様。この度はお騒がせしてしまい、申し訳ございません」


 そう言って、うやうやしく頭を下げた。


「エスティ。わたくしも考えなしでしたわ。先程の件は水に流しなさい。今後の事は、後ほど相談させていただきます」

「あ、うん……」


 顔を上げた後に突いたエスティナへの言葉は、正直謝罪とは言いにくい気もする。

 とはいえ、元々ここまでの事を言うようなタイプでもないのか。エスティナがちょっと驚いてる。


「ミネット。助言、感謝いたしますわ」

「ううん。いいよー」

「それから、リュウト様」


 振り返ったカサンドラさんは、既に普段の何処かツンケンした雰囲気。

 その圧に緊張しながらも彼女をじっと見つめ返していると。


「ひとつ、お伺いしても?」

「はい。何でしょう?」

「ミャウ様に好かれる秘訣など、ございません事?」


 いきなりストレートに聞いてくるのか。まあいいけど。

 とはいえ、秘訣かぁ……。


 ほんと、カサンドラさんの口からでるミャウに関する言葉には驚かされる。

 何かあるかというと、別に普通にしてたら嫌われもしないと思う。

 とはいえ、そんな理由は流石に彼女を馬鹿にしてる気がして嫌だし。かといって、何も返さないわけにもいかないよな……。

 多分、あいつだったら……。


「……えっと。さっきミネットさんが言ってた通り、みんなと仲良くしてくれたら、少しは好かれるかもしれません」

わたくしが、皆様と?」

「はい。初めての顔合わせでも、俺にキツくあたってミャウに嫌われそうになってたじゃないですか。あれと同じです。ミネットさんが言っていた通り、ミャウはエスティナを気に入ってますし、そんな彼女にきつく当たったカサンドラさんにイラッとしたんだと思います。裏を返せば、ここにいるみんなや他の学生の皆さんに、仲良く、優しくしているのを見せていったら、少しはミャウも見直して、カサンドラさんにも気を許してくれるかもしれないです」


 俺なりの言葉で真剣にそう口にすると、彼女は少しだけ考え込んだ後、


「ありがとうございます。心に留めておきますわ」


 そう言って、お嬢様らしく優雅に頭を下げた。


「お騒がせしましたわね。では、お先に失礼いたします」


 頭を上げた後、さっきまでの醜態なんてなかったかのように、肩にかかった金髪を払うと、颯爽と歩き去っていくカサンドラさん。

 そんな彼女は扉から出る直前に足を止めると、最後にこう言い残していった。


「そういえば、そろそろ良いお時間ですわ。ゆっくりと食事も良いですが、遅刻なさらぬように」

「えっ!?」


 エスティナ達の驚きの声など関係なしに、颯爽と去っていったカサンドラさん。


「やばっ! このままじゃ化粧の時間なくなっちゃうじゃん!」

「いいい、急ぎましょう!」

「まったく! あの子に引っ掻き回されて、ゆっくりできなかったじゃない!」


 三者三様に焦りや怒りを見せながら、食事を進めていく光景。

 確かに、今回はカサンドラさんに振り回された感じだよな。

 俺は思わず苦笑しながら、みんなが食事する席に戻ったんだ。

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