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来界者《フォールナー》リュウトの異世界遍歴 ~勇者の息子の最初の仕事は、女子寮の雑務係でした~  作者: しょぼん(´・ω・`)
第二巻/第一章:勇者の息子、仕事を始める

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第二話:賑やかな朝食

「いっただっきまーす!」

「い、いただきます」

「いただきます」

「ミャーウ」


 四人がけの正方形のテーブルに向かい、俺の右手にエスティナ。正面にミネットさん。左手にアイリスさんが席に着き、みんなで挨拶をすると、全員が迷いなく朝食を食べ始めた。


「じゃ、いただきます」


 俺も一人遅れて挨拶をすると、朝食に目をやる。

 今日はブレッドの間に野菜や肉を挟んだブレッドサンドと、温かなシチュー。

 どちらも見た目は凄く美味しそうだ。

 ちなみに四人全員同じってことは、今日の食堂のメニューがこれって事なんだろう。


 ちなみにミャウはといえば、俺とエスティナの間に置かれたミルクをペロペロと舐め堪能している。


 さて。俺もいただくとするかな。

 ブレッドサンドを手にして、一口かぶりつく。

 ……うん。これはこれでありかも。

 肉の味気はいいし、野菜とも合ってる。俺が住んでた世界よりちょっと味付けがあっさりしてるのが個人的に少し物足りないけど、女性向けと考えたらヘルシーさもあるし。


「やっぱりマナードさんのこれ、最高だよねぇ」

「うん。凄く美味しい。アイリスもこれ好きだよね?」

「う、うん」

「リュウトはどう?」

「あ、うん。俺も美味しいと思うよ」

「だよねー! 来界者フォールナーも唸らせる味。やっぱり凄いよねー」


 味を納得しながら、笑みを浮かべブレッドサンドを頬張るミネットさんに、アイリスさんと顔を見合わせたエスティナはくすっと笑う。


 正直、朝からこんな風に女子と会話しながら朝食を一緒に食べるなんて、まともに経験がないから、正直困惑してる。

 雰囲気を悪くしないよう、自然に振る舞ってるつもりだけど。

 うまく話せてるのかな、俺……。


 内心不安になる俺を他所に、三人の会話は進んでいく。

 

「そういやさ。この間のリュウト君、めっちゃかっこよかったよねー」

「この間って、ミネットを助けてくれた時の?」

「そうそう。突然空から降ってきて、ばーん! って剣を振ってあいつを退けた時とか。思わずきゃーって叫びそうになっちゃった。ねえねえ、あの時リュウト君って、怖くなかった?」

「え? まあ、流石にちょっと怖かったですね」

「だよねー。あたしもめっちゃ怖かったけど、リュウト君はあいつと戦ってるんだもんね。でも、最後走り込んでズバンって剣振って、ばーんってあの狼人ワーウルフを倒した瞬間とか、マジ神ってたよねー」

「あ、あれは本当に、かっこよかったです!」


 ミネットさんが感心しながら話していると、そこにやや興奮気味に目を輝かせ反応したのは、意外にもアイリスさんだった。


「互いに沈黙して身構えて、リュウトさんが鋭く踏み込んだ瞬間、相手を斬り伏せて振り返った時の凛々しい顔なんて、もう本当にすっごくかっこよくって、目が離せなかったです! しかもその後ほっとした時の顔なんてもう、まさに救世主って感じでした! でも、そこまでの戦いも凄かったですよ! 狼人ワーウルフと展開する素早い攻防とか、傷つけられながらも怯まず挑む真剣な表情とか! それから──」


 それまでのおどおどした雰囲気から一転、目を輝かせ俺の戦いっぷりを熱弁するアイリスさん。その熱量に思わず圧倒されたけど、エスティナとミネットはそんな彼女を微笑ましく見てるだけ。


 ……んー。何となくこれで、アイリスさんの性格、分かった気がする。

 彼女は多分、普段は内気だけど、興味ある話題になると会話が止まらなくなるタイプだ。

 きっと他の二人はそんな彼女を理解しているからこそ、こうやって落ち着いてるんだろうな。


 とはいえ。熱を入れている会話の対象が俺っていうのが、また何とも言い難いんだけど……。


 誰も止めないと延々と盛り上がりそうなアイリスさん。

 とはいえ、楽しく話している所に、俺が割って入って止めるのも申し訳ないよな……。

 恥ずかしさをごまかしながらスープを口にしていると、それを見ていたミネットさんの表情が、ふっと彼女らしい悪戯っぽい笑みに変わる。


「ふーん。ここまでアイリスが男子の事を語るのって、珍しいよねー。ってか初めてじゃない?」


 テーブルに肩肘を突いた彼女の意味深な言葉に、アイリスさんがはっとすると、


「あ、その……あの………ごごごご、ごめんなさい!」


 申し訳なさを全面に出しながら、さっと椅子に座り直し身を縮み込ませた。


「そんなにリュウト君の事気に入ったんだ?」

「え!? ちちち、違うんです! ただその、まるでいにしえに謳われた勇者様みたいに、その……かっこよかったので……つい……」


 ミネットさんの言葉を両手を振り否定したアイリスさんは、両手の人差し指をつけ、恥ずかしそうにもじもじとしだす。

 そんな大それた事をしたつもりはないんだけど、予想外過ぎる例えと格好いいという言葉に、俺も恥ずかしさをごまかし頭を掻いてしまう。


 エスティナといえば……ん? なんかちょっと不満というか不安というか。

 複雑な顔でこっちを見てたんだけど、目が合った瞬間、さっと目を逸らされた。


 何だろう? 今の反応……。

 心に何か引っ掛かったんだけど、まるでそんなのを忘れろと言わんばかりに割り込んだ声があった。


「リュウト様! リュウト様!」


 扉をノックするでもなく、いきなり俺の名前を呼ぶ声。

 それを聞いた瞬間、ミャウはミルクを飲むのを止め、げっという顔で俺を見つめてきた。アイリスさん、ミネットさん、エスティナの三人も、ちょっと面倒くさそうな顔になってるし……。


「ねえ。居留守使わない?」

「私も、それが良いと思うな」


 急にひそひそ声になった二人の提案。

 それもありかな、と思ったんだけど……。


「先程ミネットとアイリスが部屋に招き入れているのは拝見しておりますわ! 素直にわたくしを招き入れたほうがよろしいのではなくって?」


 なんて口にされると、流石に逃げ道なしか……。


「マジかー。うまく巻いたつもりだったんだけどなー」


 げんなりした口調でミネットさんが口にしたけど、まあこれ以上放っておくと後々面倒か。



「ちょっと行ってくるよ」

「うん。リュウト。ごめんね」

「気にしないで」


 俺は小声でそう伝えると、「ちょっと待って」とカサンドラさんに返事だけして、そのまま扉まで歩み寄り、ゆっくりと開けた。


「お待たせしました」

「お気になさらず。この程度、ミャウ様にお逢いする為なら些細な事ですわ」


 やはり制服姿のカサンドラさんの第一声は、やはりミャウの事。

 ほんと、心許してくれたとはいえ、よっぽど気に入ったんだろうな。

 ただ、それは流石に……。


 俺は彼女が手にしている、なみなみとミルクが注がれた大きめの皿だけが載っているトレイを見て、また面倒な事になったなと頭を掻く。


「ミャウ様はどちらに?」

「あー。えっと、今は奥でみんなと食事中です」

「そうですの。ご一緒してもよろしくて?」


 表情からはっきりと感じる、ミャウに会わせろという圧。

 思わず助けを求めるように部屋の奥の三人に顔を向けると、みんな何処か困ったような苦笑い。

 ミャウも正直乗り気じゃない顔をしてるんだけど……。


 そんな中、三人が顔を見合わせひそひそと話した後、エスティナがこっちに頷きいいよという合図を送ってくれる。


「どういたしましたの?」

「あ、いえ。どうぞ」

「ありがとうございます」


 俺が脇に外れると、カサンドラさんは貴族らしく姿勢を崩さず、澄まし顔で部屋に入り、みんなの方に向かう。

 ……トレイにミルク皿を載せてなければ、様になってるんだろう。


「おっはよー。カサンドラ」

「お、おはようございます!」

「おはよう」

「おはようございます、皆様。そしてミャウさ──」


 テーブルの近くまで寄った彼女が足を止めると、少し震えてる。

 後ろ姿からじゃ判断できないけど、きっとミャウが既にミルクを飲んでいるのが気になったんだろう。

 この間質問された時に釘を刺したから、そこは気にしたんだと思う。持ってきたミルク皿の大きさ以外は。

「こちらは何方どなたが?」

「私、だけど……」

「エスティ。明日からミャウ様の朝食はわたくしがご用意しますわ」

「え?」

「聞こえませんでしたの? わたくしが、明日からミャウ様の朝食をご用意しますわ」

「そんな。別にカサンドラがリュウトに頼まれたわけじゃないよね?」

「確かに。ですが、わたくしとミャウ様の出逢いは、運命の女神セーラ様のお導きによるもの。そう! これは運命、いえ。宿命なのですわ!」


 ……いやいやいやいや。

 熱弁してるけど、それってただの思い込みだろ。

 実際ミャウだって、俺と同じ白い目を向けてるし……。


 呆れるエスティナ達を他所目に、ミャウの側でしゃがんだカサンドラさんは、エスティナが持ってきたミルクの脇に、自分が持ってきたミルクの皿を丁寧に置く。

 こうやって並べると、倍は違う大きさに驚かされるな……。


「さあミャウ様! わたくしが真心込めてここまでお持ちしたミルク、どうぞお飲みくださいませ!」


 立ち上がった彼女が、声高らかにそう言ったんだけど。


 それが本当の運命だったのか。

 はたまた、勝手に神の名を語った天罰か。


 ちらりとカサンドラさんを一瞥したミャウは、興味なさそうにふんっとそっぽを向くと、エスティナの用意したミルクをペロペロと舐め始めた。

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