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来界者《フォールナー》リュウトの異世界遍歴 ~勇者の息子の最初の仕事は、女子寮の雑務係でした~  作者: しょぼん(´・ω・`)
第二巻/第一章:勇者の息子、仕事を始める

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第一話:朝食前のひと時

 ……でだ。 

 俺、朝食どうしよう?


 朝日を眺め満足した俺は、ミャウと自分の部屋に戻りながら、はたとその現実に気づく。

 確か九時から授業って聞いてたから、生徒達が魔導学園に登校するのは大体八時台。


 流石に寮の女子達と一緒に食事っていうのはみんなも気を遣うだろうし、登下校なんかの人の流れが多い時に歩き回るのも、流石に邪魔になりそうだよな……。

 ま、別にすぐに朝食を食べなきゃ死ぬってわけでもないし、まずはのんびり待つとするか。


 そのまま部屋に戻った俺は、そのまま部屋の隅にある本棚に向かう。


「ミャウ?」

「ああ、ちょっとこの街の地理を把握しておきたくて。お前はクッションで横になっててもいいぞ」


 何となくミャウの言いたい事を察してそう伝えると、あいつは短く「ミャウ」と返事をすると俺から離れ、床のクッションに向け歩いて行く。

 何だかんだ付いて来たけど、やっぱり朝早くって眠かったんだろうな。


 ええっと、確かこの間貰った首都の地図はっと……あったあった。

 机に備え付けられた本棚から、この街の見取り図手にした俺は、席に着くとそれを机に広げてみた。


 ──ライルザー王国の首都、ラザール。

 来界者フォールナーとなった父さんがこっちの世界に転移してきた場所の近くで、ここで母さんと出会ったって聞いたな。

 確か、薬草を採りに行った母さんが、近くの森で倒れてる父さんを見つけたんだったっけか。


 今思い返しても、二人共ほんとラブラブだったよなぁ。

 そんな想い出話を俺に聞かせながら、いっつもニコニコとしてたっけ──ん?


 思い出し笑いをしていた俺の足に触れた、柔らかな感触。

 足元に目をやると、そこにはクッションを咥えてやってきたミャウがそれを置き、俺の足に押し付けている光景だった。


「ん? どうしたんだ?」

「ミャウ!」


 決まってるでしょ! 的なアピールで、目をキラキラさせているミャウを見て、俺は思わず呆れ顔になる。

 あいつが言いたいことはわかる。足元で寝させろって事だよな。


「はいはい。ちょっと待ってな」


 行儀よく座っているミャウを横目に、俺はクッションを整えて、足に寄り添いやすくしてやる。


「これでいいか?」

「ミャウ!」


 うん! と言わんばかりににっこりとしたミャウは、そのままクッションに上がると俺の足に身体を寄せつつ、そのまま丸くなって寝に入る。


 まったく。ほんとわがままなんだから。

 苦笑しながら、俺は再び地図に目をやった。


 首都の東寄りに位置するラザール城は、勿論国王が住んでいる城。

 ラダルス王って人が今の国王で、人当たりの良い優しい人だってエスティナが言ってたっけ。


 城の広大な敷地を囲う堀。

 それを跨いで西にあるのがデイルバード戦騎学園とその男子寮。

 ここミレニアード魔導学園と対の施設で、戦士、騎士、闘士なんかを育成する学園か。


 城から南側。

 ミレニアード魔導学園のあるこの辺一体は主に商業区で、色々な買い物に重宝するって言ってたな。

 で、デイルバード戦騎学園の南側、商業区の西にあるのが倉庫街。そこから更に西側の広範囲が居住区で、まるでシンボルのように闘技場もある。


 城の北側も居住区だけど、そっちは主に貴族達の住む地域だって聞いた。

 馬車での移動中は土地勘がなかったからわからなかったけど、エリスさんやエスティナの屋敷もあっちの方だったって事かな。


 でも、天授の塔から見た時も思ったけど、首都とはいえ、ここは相当広いよな。

 しかも、立ち並ぶ建物を見ても、凄く栄えている印象がある。

 街に出たら、活気に溢れているに違いない。


 こうやってただぼんやり地図を眺めているだけなのに、まるで旅行で行き先の地図を広げ、何処に行こうか考えている、そんなワクワク感を覚える。

 でも、こうやって余裕を持てるようになったのは、エリスさんやエスティナのお陰だよな。

 ほんと。

 二人がいなかったら、今頃どんな事になっていたか……。


 恩人とも言える二人に感謝している内に、ちょっと眠気が襲ってくる。


 ふわー。少し、うとうとするか。

 そのまま俺が机に突っ伏し、うとうととしていると。どれくらいしてからだろう。


  コンコンコン


 と、ちょっと遠慮気味な、ノックの音が耳に届いた。


「ふわーっ。はい」

「あ、リュウト。もう起きてる?」


 扉の向こうから聞こえたのはエスティナの声。

 って、こんな時間に? 学園に通う準備もあるんじゃないのか?


「うん。開けるからちょっと待ってて。ミャウ。ちょっといいか?」

「ミャウ」


 ミャウがクッションから離れるのを待って、俺は椅子から立ち上がると、クッションを跨いで足早に移動し、すぐに扉を開けた。

 そこに立っていたのは、トレイに食事を乗せた、既に制服に着替えているエスティナだった。


「おはよう。入ってもいい?」

「あ、うん。構わないけど」

「ありがとう。それじゃ、お邪魔しまーす」


 にこっと微笑んだ彼女は、俺が道を開けるとそのまま部屋の奥のテーブルにトレイを置き、席に並べていく。


「それってもしかして、俺とミャウの朝食?」

「うん。何となくリュウトって、みんなと食堂で食べるの遠慮しそうかなって。違う?」


 もうそこまで分かっちゃうのか。


「うん。正直どうしよかって困ってて」


 頭を掻きながら答えると、彼女はくすっと笑った。


「そっか。良かった。私のも持ってきたから、一緒に食べよう」

「え? エスティナのも? 」

「うん。学校行っちゃったら、リュウトのお世話もしてあげられないし。だから、こういう時に色々とお世話しようと思って」


 よく見ると、ミャウのミルク以外に二人分の食事が載っている。

 こういう気遣いは、エスティナらしい優しさだと思う。

 だけど折角の朝食なんだし、俺達に気を遣わなくってもいいんじゃないか?

 まあ一緒に食べれるのは、勿論嬉しいけど……。


「いや、そこまで気にしなくても。朝食を持ってきてくれただけで十分だし。朝食くらいみんなと食べてきたら?」


 喉元まで出かけた本音を飲み込み、俺は敢えてそう伝えたんだけど、彼女はそれを聞くと、少し寂しそうな顔になる。


「確かに、みんなと朝食を食べるのも楽しいよ。でも、その、私ね。久々にリュウトと逢えたし、折角だったら少しでも一緒に──」

「リュウトくーん! いるー!?」


 へ? 今の声は?

 突然ドアの向こうから聞こえた俺を呼ぶ元気な声。

 それがエスティナの言葉を遮り、俺達は思わず顔を見合わせる。


 今のは間違いなくミネットさんだよな?


「あれ? いないのかな? エスティの事だし、絶対ここにいると思ったんだけどなぁ……。アイリスもそう思わない?」

「た、確かに、そんな気はしますけど……」


 アイリスさんも一緒なのか。

 別に悪いことはしていない。

 けど、二人と一匹のこの空間は、正直気まずさもある。


「えっと、どうする?」

「あ、うん。返事してもいいよ」


 何となく小声で尋ねてしまった俺に、エスティナがはっとすると、笑顔でそう言ってくれたけど……その直前、一瞬不貞腐れたように見えた気が……。

 ま、まあ、今はいっか。


「あ、ごめんごめん。どうしたの?」

「あ、良かったー。ドア開けてもらってもいい?」

「分かった。ちょっと言ってくるね」

「うん」


 ミネットさん達にやや大きな声で返事した後、小声でエスティナと話をした俺は、さっきと同じように、部屋の入り口まで行くと扉を開けた。


「リュウト君。おっはよー」

「お、おはよう、ございます」


 そこに立っていた二人もまた、エスティナと同じスカートの制服姿。

 ミネットさんは相変わらずギャルっぽさ全開の元気さで。アイリスさんもまた、相変わらずおずおずとした感じで、彼女達らしい挨拶してきたんだけど。彼女達もまた、トレイに朝食を載せて立っている……って、え?


「おはよう。二人ともどうしたの?」

「いやねー。折角だし、みんなで朝食を取ったほうが楽しいでしょ? エスティもリュウト君の朝食を運んでたし、きっとここにいるよね?」

「あ、うん。来てるけど……」

「じゃ、決まりだね! おっ邪魔っしまーす!」


 え? え?

 俺がOKを出す暇もなく、ミネットさんが笑顔で部屋に入っていくと、


「やっほー! エスティ!」


 なんて自然と挨拶をし始めた。


「やっほーじゃないでしょ! リュウト君、まだ部屋入って良いって言ってないでしょ!?」

「まあまあ。エスティだっているんだし、みんなでご飯食べたほうが楽しいよ? ね?」


 流石にここまでのやり取りに苦言を呈したエスティナ。でも、それすらもさらりと流し、話をまとめようとする強引さは、ある意味感心するけど、ある意味呆れもする。


「……ミネットさんって、何時もあんな感じ?」

「は、はい。その、すいません……」


 思わず呆れ顔になりながら、アイリスさんにそう尋ねると、彼女も眼鏡の下の表情を曇らせ、申し訳無さそうに頭を下げてくる。

 別に、彼女が悪いわけじゃないんだけど……。

 友達の行動に謝る彼女の気遣いを見て、ちょっと微笑ましくなる。


「折角だし、アイリスさんもご一緒しませんか?」

「え? そ、そんな、私……お邪魔にしか……」


 俺が声を掛けても、遠慮気味に俯くアイリスさん。

 とはいえ、エスティナやミネットさんがいる以上、彼女だけ置いていくわけにもいかない。本当はよくないかもだけど、ここだけはミネットさんの積極性を見習うか……。 


「大丈夫ですよ。それ持ちますね」

「……え? え!? そそそ、そんな!」

「いいからいいから。それじゃ、行きましょう」

「あ、ああ、ありがとうございます!」


 トレイを預かり笑顔を返すと、アイリスさんは藍色の髪を振り乱し、ばっと勢いよく頭を下げてくる。

 随分大袈裟だな、なんて思うものの。

 きっと彼女は彼女なりに本気で感謝してくれてるんだろうし、素直に受け止めておくべきかな。


 俺は自然と笑みを浮かべると、トレイを持ったまま部屋の奥に歩き出したんだ。

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