エピローグ④:好きなタイプ
次に指名されたのはミネットさんだったんだけど、その顔は天真爛漫な笑みってより、何か企んでる時のようないやらしい笑み。
嫌な予感を感じた俺に投げかけられた、彼女からの質問。
「リュウト君って、どんなタイプの女の子が好き?」
「へ? 好きなタイプ、ですか?」
それは、俺を戸惑わせるのに十分なものだった。
「そうそう。例えばー、可愛いとか、綺麗とか。胸がある方がいいとか。そういうのを色々聞きたいなーって」
にっしっし、なんて悪戯っぽく笑うミネットさん。
何となくこの質問に、周囲の女子生徒の視線に真剣味が帯びたような気もするけど、正直真実なんてわからないっていうか、それどころじゃないっていうか……。
好きな子は、そりゃそこにいるんだけど……って、そんなの言える訳ないだろって!
でも、これを答えるのか? ここで!? 本気で!?
顔を赤くしながら、俺はどうにかこの状況を回避できないかとエスティナに視線を向けたんだけど、彼女は気恥ずかしそうに俯きながらも、ただこっちをじっと見てるだけ。
……助け舟なし。
彼女の目を見てそれを察した俺は、頭を掻きながら困った顔をする。
答えない、はできそうにないだろ?
でも、正直あまり考えた事なかったんだよな。
好きなタイプ……好きなタイプ……エスティナみたいな子……エスティナの好きな所って言ったら、外見もそうだけど……。
「えっと、優しい子、ですね」
「え? 優しい子? それだけ?」
「は、はい」
意外な答えだったのか。ミネットさんがきょとんとする。
「例えばリュウト君って、これだけの女子生徒に囲まれてるわけじゃん? この中に外見的に好みの子とかいないの?」
……いる。
けど、それを口にしたら、エスティナに変な気遣いさせちゃうだろ。彼女には好きな人がいるんだから。
ボロを出さないように、周囲をわざと見渡した後、俺はこう語り始めた。
「正直、皆さん可愛いかったり綺麗だったり、素敵だと思います。ただ、こと恋愛ってなった時、どんなに外見が素敵でも、やっぱり優しくない女性といるのは辛いかなって。一緒にいて、この人といたいなって心惹かれるとしたら、自分は優しい子、ですね」
……この答えで、誰かを傷つけたりしないだろうか?
そんな事を考えつつ、周囲の様子を見守ったんだけど、感心してるっていうか、納得している子も多くて、不機嫌になった子はいなそうだった。
「ふーん、そう来たか……」
質問をしたミネットさんもまた、何かを考え込んでいたけど、次の瞬間。
「すっごく参考になったよ。ありがと! リュウト君!」
彼女らしい笑みを見せ、俺にウィンクしてきた。
「あ、いえ。お役に立てたなら良かったです。
思わず条件反射でそう返しちゃったけど。
参考?
俺の好みのタイプが?
……まさか。きっと彼女の悪戯だろうな。
そんな事を考えながら、その日最も難易度の高い質問を乗り切ったんだ。
§ § § § §
その後も幾つかの質問に答えた後、無事交流会という名目の質問攻めも終わり、マナードさんとお手伝いしていた生徒さんお手製の料理を堪能した。
細かな気になる点はあったけど、味は十分美味しくて、毎日これだけの料理が出てくる寮に住めるのはきっとありがたい事だなって思ったっけ。
先に食べ終えた生徒の一部──と言っても、大半って言った方がいいんろうか?
とにかく、わざわざ俺達の所に顔を出し、ミャウを撫でて帰って行く子も多かった。
まあ、勿論そこにはカサンドラさんもいて、ミャウの事を撫でながら、他の生徒の目も気にせず溶けてたんだけど。
「カサンドラさんがあんな風になるの、初めて見たね」
なんてひそひそと話す生徒がいた所を見ると、普段はやっぱりあの高飛車お嬢様っぽいキャラなんだなって改めて思わされた。
ミネットさんやアイリスさんも顔を出してくれたんだけど。
「リュウト君。私も優しいから要チェックだよ?」
なんて謎アピールをしてきた時には、
「ミネット。そうやってリュウトをからかわないの」
なんてエスティナが彼女を咎めようとした。
とはいえ、ミネットさんは全然動じなくって。
「えー。からかってないよ? エスティだってリュウト君に気に入られたいでしょ?」
「それは、そうだけど……」
「アイリスもそうだよね?」
「え? わ、私ですか!?」
「そうそう。リュウト君と仲良くなりたいよね? 絵のモデルになってもらいたいくらいだし」
「えっと、まあ、その、それは、そうですけど……」
「だったらみんなで優しくしてあげよ? 勿論ミャウちゃんにもねー」
なんて、彼女のペースで会話が進んだあたり、完全に一枚上手だったな。
とはいえ、ミネットさんは誰にもあんな感じな気もするし、からかわれてるって思っておくのがいいんだろうけど。
§ § § § §
こうして、賑やかで緊張した夕食を終え、部屋に戻った俺は、ミャウと一緒に風呂に浸かった。
女子生徒達には共用の大浴場があるけど、流石にそれは使えないし、客室だった俺の部屋には個別にやや広いお風呂が付いている。
そこでゆったりとして、ミャウの身体もしっかり洗ってやった後、パジャマに着替えた俺は、あいつと一緒にベッドにごろりとしながらのんびりしてたんだけど、そこに風呂上がりのパジャマ姿のエスティナが遊びに来てくれた。
とはいえ、ほぼ俺に付きっきりだったし、大変だったろうと思って。
「今日は雑務係の仕事もないし、明日は学園に行かないといけないんだから。休んでもらってもいいよ」
って気を使ったんだけど。
「大丈夫。ちゃんと宿題だってやってあるし。それに、私はお祖母様からリュウトを任されてるんだから」
なんて張り切っている彼女を無下になんてできなくて、結局一緒にいる事になった。
少しの間、色々とありすぎてすっかり聞き忘れていた、この場所がどの国のどの都市なのか。そして今の世界の国々はどうなっているのかっていう、世界の話について色々教わっていたんだけど。
あまりそういう話ばかりしててもって思って、途中でエスティナに相談し、俺達は息抜きに場所を移すことにしたんだ。




