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来界者《フォールナー》リュウトの異世界遍歴 ~勇者の息子の最初の仕事は、女子寮の雑務係でした~  作者: しょぼん(´・ω・`)
第一巻/第三章:勇者の息子、女子生徒達に印象づく

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幕間:勇者の子

「俺がいますから、ですか」


 彼が去った部屋で、私は自然に微笑んでしまいました。


 ──「大丈夫です。俺がいますから」


 リュウジさんがこの世界を救う為の旅で、口癖のように言っていた言葉。

 それをこんな所で聞けるなんて。本当に懐かしいですね……。


「流石は勇者の子、と言うべきでしょうか」


 テーブルに並べた道具を片付けたデルタもまた、あの言葉に思うところがあったのか。微笑みを浮かべています。


「彼は不思議な青年ですな。己は強くなどない。そう思っている節があります。にも関わらず、エリス様の心の内を感じ、安心させるかのように、はっきりと決意を言葉にした」

「……きっと、両親からちゃんと優しさを学んだのでしょう」


 ……そうね。

 リュウジさんと姉様ねえさまの子。優しくないわけがないものね。


()()()()()()の目から見て、あの子の実力はいかほどですか?」


 敢えてデルタを本当の名で呼ぶと、彼はぴくりと眉を動かした後、真剣な顔を見せました。

 それは、普段の己の素性を隠した優しさなど皆無の、武人としての顔。


「……そうですね。末恐ろしい若者、といった所でしょうか」

「何故そう感じたのですか?」

「不審者騒ぎを聞き付け駆けつけた私が、彼の起こした奇跡を目の当たりにしたからです」

「奇跡……ですか?」

「ええ。剣聖と呼ばれた私でさえ、未だ極めることの叶わぬ勇者の剣技、勇技。彼はそれをいともあっさりと繰り出していたのですよ」


 そう口にしたデルタは、少しだけ口角を上げ、目を細めました。


いにしえより語られし技、電光石火ライトニングスラッシュ。私ですらその剣の閃きを見切るのが困難なほど、鋭く疾きやいば。きっと他の者では、ただの一閃にしか見えていなかったでしょう」


 胸の前で自身の拳を握り、じっとそれを見る彼の表情。

 そこにある笑みの理由を感じ取り、私は肩を竦めます。

 彼もきっと認めたのでしょう。リュウト君が強き者だと。


「……デルタ。剣聖の顔が出ておりますよ」

「……失礼しました」


 その興奮に気づいていなかったのか。私の言葉にはっとしたディールは、執事らしく慌てて姿勢を正します。


「リュウト君は、この世界に来てまだ間もありません。だからこそ、この先世界の現状にも、己の力にも多くの迷いを持つでしょう。もしもの時は、力を貸してあげてもらえますか?」

「はい。私でできることであれば、何なりと」


 私が願いを語ると、衛兵姿のまま、執事らしいお辞儀をする。


「では、今日は下がっても結構です。明日で構いませんので、それらは城の術師技団に調査を依頼しておいてください」

「承知しました。では、失礼いたします」


 改めて一礼したデルタは、そのまま静かに部屋を去って行き、応接間には私だけが残されました。


「ふぅ……」


 自然と漏れるため息は、この先への不安の表れ。

 

 ……慈愛の女神、サレナよ。

 まさか、貴女様あなたさまが彼を導いたのでしょうか。

 この世界に迫る危機に挑む、新たな勇者を。


 ……いえ。考え過ぎですね。

 私は自然と自嘲します。


 まだ、何かがはっきりとあった訳でも、確証を得た訳でもありません。

 何よりリュウト君の異世界生活はこれから。

 あれだけ若い子に、そこまで気負わせては可哀想でしょう。

 私は晴れない心を、息と共に吐き捨てます。


 ……もしもの時。

 きっとリュウト君の力も借りる必要があるでしょうが。その時には、私が命を懸けてでも、彼を護らなければ。

 でないと、リュウジさんや姉様ねえさま。何よりエスティナが哀しみますものね。


 ……そういえば。

 リュウト君は、あの子の事をどう思っているのでしょうか。

 エスティナは間違いなく、気があるでしょうが……。


 ふと、リュウト君だと分かった後、この屋敷でエスティナと二人で話した時の事を思い返します。


  ──「エスティナ。貴女あなたはリュウト君をどう思っているのですか?」


 率直な質問に、あの子はすぐ頬を赤らめました。


  ──「え? あ、その、だ、大事な恩人だよ」


 必死にそう答えておりましたが、そこにあったのは間違いなく恋心。

 これでも酸いも甘いも経験しているのです。

 それくらいお見通しですよ。エスティナ。


 既に老い、枯れ木となった私には無縁の世界。

 であればせめて、あの子が幸せに歩めるよう、協力してあげなければなりませんね。


「ふふっ」


 若い二人の恋物語がどうなるのか。

 それを考えているうちに不安だった心も薄れ、自然に笑みを浮かべると、私もまた一人、応接室を後にしたのでした。

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