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来界者《フォールナー》リュウトの異世界遍歴 ~勇者の息子の最初の仕事は、女子寮の雑務係でした~  作者: しょぼん(´・ω・`)
第一巻/第三章:勇者の息子、女子生徒達に印象づく

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第九話:感謝

 俺が剣を下ろした直後。


「リュウト君!」


 どんっと勢いよく俺に飛びついてきた子が……って、ミネットさん!?


「ありがとう! 本当にありがとう!」


 感極まった声をあげながら、彼女が首に手を回しぎゅっと強く抱きしめてきたけど、それは俺の顔を真っ赤にするのに十分だった。


 いや、だって……制服越しにすらはっきりと分かってしまう、彼女の大きめの胸の感触。

 そ、そりゃ俺だって、そんなのを感じたらドキっとするだろ!


 こ、この事実、伝えた方がいいのか?

 う、うん。きっとそうだよな。


 緊張で渇いた喉を誤魔化すように唾をごくりと飲み込んだ後。


「あ、あの。ミ、ミネットさん」


 と、なんとか言葉にする。

 すると、彼女は俺の方に顔を向けてきたんだけど、泣いてるかと思ったらそうでもない。


「え? どうしたの?」

「あ、その、えっと……む……」

「ん?」


 くりくりっとした綺麗な瞳。まだ何も疑問に思っていない、不思議そうな顔。


「あ、うん。その……む、胸が、当たってて」


 改めて言葉にする恥ずかしさを堪えられず、俯きながらなんとか言葉を絞り出す。

 そして、ちらっと彼女を見ると……にんまりして耳元でこう囁かれた。


「あー。リュウト君。そういうのがいいんだー」

「い、いいんじゃなくって! ミネットさんが嫌がると思って──」

「やっさしー! でも、遠慮しなくっていいよ。助けてくれたご褒美に」


 俺の気遣いなんてどこ吹く風。

 再び彼女が俺をぎゅーっと抱きしめてきたんだけど。


「ミネット! リュウトが困ってるでしょ!」


 いつのまにか俺達の脇にやって来たエスティナが、不貞腐れた表情で俺達を引き離した。

 いや、不貞腐れてるってより、なんか怒ってる?

 どっちにしても、ちょっと怖い感じがするけど……。


「えー!? いーじゃん! これも感謝の気持ちだしー」

「ダメに決まってるでしょ!」

「あー。もしかして、嫉妬してる?」

「してません! リュウトが可哀想って思っただけ!」


 にやにやと笑うミネットさんに、おかんむりのエスティナ。

 それが俺を唖然とさせたものの、同時にみんなが無事なんだと改めて感じられて、俺は内心ほっとする。

 ……勿論、ミネットさんの胸が離れたのもあったけど。


「……つっ!」


 と、瞬間。

 気持ちが緩んだからか。ズキリと腕が痛み、俺は咄嗟に反対の手で爪で裂かれた傷を抑えてしまう。


 制服越しにべトリと感じる血。

 戦いに必死ですっかり忘れてたけど、結構血が出てるじゃないか。


「リュウト!?」

「リュウト君!?」


 俺の歪んだ顔を見て、二人の顔が一変し、一気に不安そうな顔になる。


「ミャウ!?」


 流石にそれが心配を煽ったのか。

 ミャウも勢いよく俺の前に駆け込んで来た。


「だ、大丈夫。ちょっと痛んだだけだし」

「ダメだよ! ちょっと待ってて。ミネット。いくよ」

「うん!」


 二人は互いにこくりと頷くと、俺に向け両腕を伸ばす。


『慈愛の女神よ! の者に癒しを!』


 綺麗に重なった詠唱。

 二人の初級治癒術、回復ヒール

 同時に放たれた光が俺の傷を包み、痛みを和らげ、傷を塞いでいく。


 そして、傷がすっかりなくなった所で、二人は腕を伸ばすのを止めた。


「どう? リュウト君」

「あ、はい。もう痛みも全然。ありがとう」

「良かった。ミネット、ありがとう」

「いーのいーの。これくらいじゃお返しにならないかもだけど。ありがとね。リュウト君」


 俺の笑みを見て、二人も互いに安堵の笑みを交わす。

 さっきの気まずさはどうしようかと思ったけど、何とかなったみたいだ。


「ミャーウ」


 おっと。そういやこいつも頑張ってくれたんだよな。


「ミャウ。お前もありがとな」

「ミャウミャウ」


 俺がしゃがんで頭を撫でてやると、嬉しそうな顔になるミャウ。


「でもほんと凄かったー。空中で私を咥えて、背中に乗せてくれるなんて思わなかったし。ミャウちゃーん! ありがとー!」


 ミャウの脇にしゃがみこみ、頬をすりすりしてスキンシップを取るミネットさん。

 それは嬉しくもあるけど、きっとやり過ぎ感もあり、少しだけ困った顔をしていたミャウ。

 そして、こいつを更に困らせるかのように。


「ミネット! 抜け駆けは許しませんことよ!」


 なんて、三階からカサンドラさんの叫び声が聞こえた瞬間、ミャウはげっと言う顔をした。

 その何とも言えない顔を見て、俺とエスティナは思わずくすっと笑いあう。


「まったく。衛兵であるあたしが、あんたに助けられるなんてね」

「本当、情けないです。でも、リュウト君は本当に凄かったですよ」


 と、そんな俺達の元に、サラさんとドルチェさんが笑顔でやって来た。


「あの、さっきの男は?」

「あの通りだよ」


 サラさんがこっちを見たまま親指で後ろを指し示すと、そこには慌てて駆けつけたであろうデルタさんによって、奴が枷をされロープで身体を縛られていく姿が見えた。

 俺の時と違うのは、やっぱりあれだけ暴れたからだろう。

 一歩間違えれば、俺もああなってたのか。大人しくしててよかった……。


「悪いけど、剣を返してもらえるかい?」

「あ、すいません。ありがとうございました」


 サラさんに促され剣を渡すと、彼女は刃先をじっと眺めると、はぁっとため息を漏らす。

 あ。もしかして、俺の無茶で剣が折れたのか!?


「あの、もしかして、剣に何かありましたか?」

「あ、いや。逆だよ。あたしも精進が足りないなって思っただけ」

「逆ですか?」

「ああ。あの男との攻防の時、あたしは正直、この剣じゃ心許ないって感じてた。だけどあんたはその剣で、あいつを殺さず倒しきったんだ。この剣を折られる事すらなくね」


 剣を腰の鞘に戻した彼女は、参ったと言わんばかりに肩を竦め笑う。


「あんたみたいな若い子に、ここまでの腕を見せられるなんてね。……ありがとう。あたしやドルチェ。そして、みんなを守ってくれて」

「いえ、そんな。俺は大したことなんてしてません。この間だって、サラさん達に迷惑をかけたばかりですから」

「いんや。あんたは何も悪くないさ。……あんたは雑務係なんだろうけど。もしもの時は、また力を貸してくれるかい?」

「……はい。俺なんかでお役に立てるなら、喜んで」


 俺にすっと手を伸ばしてくるサラさんの爽やかな笑みに答え、俺も笑顔で握手を交わした。


「リュウト君。さっきは本当にありがとう。私、あのままだったらきっと、もう生きてなかったと思う」

「いえ。間に合ってよかったです」


 ドルチェさんとも握手を交わした後、彼女は何かを閃いたのか。

 ぽんっと手を叩く。 


「ねえねえサラ。どうせだったら、リュウト君を衛兵に転属してもらっちゃう?」

「おいおい。それであたし達が首になったらどうすんのさ」

「あ、それは由々しき問題かも……。リュウト君。今のは聞かなかった事にしてくれる?」

「あ、はい」


 ドルチェさんが慌てて前言撤回する姿が面白くて、俺達はまた思わず笑顔になる。


 でも。

 本当に、みんな無事で良かったな。


 俺は戻ってきた平和を感じながら、誰かを護る為と、厳しく鍛え込んでくれた父さんに感謝したんだ。

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