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来界者《フォールナー》リュウトの異世界遍歴 ~勇者の息子の最初の仕事は、女子寮の雑務係でした~  作者: しょぼん(´・ω・`)
第一巻/第三章:勇者の息子、女子生徒達に印象づく

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第三話:小さな双子

 そして小人族チルドニアン

 その名の通り、外見や大きさが子供のような種族で、成人でもあまり背が高くないのが特徴。また、この種族も結構長寿らしい。

 身体が小さいだけあり力はあまりないものの、獣人族ビゼルより身軽な人も多いのと、子供の純粋さを持っていて信心深いとかいう言い伝えもあって、魔法の中でも治癒術のような、神の力を借りる魔法なんかに優れた種族でもあるんだって。


 で、俺が思い出したのはその、小人族チルドニアンの姉妹だったんだけど。

 あの子達の幼さのある顔と、何処か可愛い反応()()()()()()魅力は、印象に強く残っていたんだ。


   § § § § §


 彼女達の順番となり、部屋の扉が開いた後、横からひょこひょこっと二人が顔を出した。

 そのアクションがミーアキャットみたいで、最初からちょっと心が和んだのはここだけの話。


 二人共、髪の色は栗毛色で、セミロングくらいで切り揃えている。勿論双子だから顔も同じだったし、一見すると見分けがつかない……かと思いきや。


「お姉ちゃん! 大きな猫ちゃん、発見です!」


 と、一気に表情を変え、目を爛々とさせた子に対し、


「うん。いるね」


 と、恐ろしく落ち着きを払った表情を見せるもう一人の子。


 二人共童顔なんだけど、そのあまりの反応の差は、二人を区別させるのに十分だった。


「リナちゃん。ラナちゃん。こっちにいらっしゃい」


 ベッド脇の椅子に座ったエスティナの声に、「うん」と頷いた二人がてとてとと部屋に入ってきた。

 お姉ちゃんの方が部屋の扉を閉めてるあたり、彼女のほうがしっかりしてるのかもしれない。


 ベッドの前まで来た二人の大きさは、俺の背丈の三分の二くらい。

 小人族チルドニアンらしい小柄さもあって、小学生低学年くらいにしか見えないな。


 彼女達が顔を上げ、じーっとベッドの上の俺を見上げる。

 流石に俺の存在に、少し緊張した顔をした妹ちゃん。

 対するお姉ちゃんの方は、全然動じる感じはなかったかな。


「あの。私、リナです! えーっと、その、リュ、リュ……」

「リュウト」

「そうそう! リュウト! 私達、えっと、ミ、ミ、ミャン?」

「ミャウ」

「そう! ミャウちゃんに乗りたいです!」

「……へ?」


 お姉ちゃんに色々と訂正されながら、リナちゃんがそう願いでたんだけど。俺は予想外の言葉に、思わずミャウやエスティナと顔を見合わせた。


 多分、彼女達の大きさからすれば、乗せるのは苦労しないと思う。

 だけど、それは体格はって話であって、重さまでは分からないし、そもそもミャウだって以前は小さな猫。背中に誰か乗せてきたわけじゃない。

 前に自分も俺が乗れるかも? なんて考えはしたけど、実際試してはいないしさ。


「えっと……ミャウ。大丈夫か?」


 俺は、素直にこいつに聞いてみた。

 自信がないなら無理させないほうがいいと思ったし。

 流石にミャウも、この問いかけには少し迷いを見せ、ちらりと側に立つ二人の小人族チルドニアンを覗き込む。


 ゆっくり迫ったミャウの顔に、流石に少しびくっとなったリナちゃん。

 それでも、期待も捨てられないのか。必死にミャウを見つめている。


「ミャウ。お願い」


 と。彼女の隣に立っていたラナちゃんが、ぽつりとそう言うと、すっと頭を下げる。

 楽しげな頼み事とは真逆な真剣さを見せる彼女。

 ラナちゃんに顔を向けたミャウは、ふぅっとため息をつくように鼻を鳴らすと、ゆっくりとベッドの上で立ち上がった。


 って事は、いいって事だな。

 予想以上に大きいミャウの立ち姿に、二人が少し緊張している。


「リナちゃん。ラナちゃん。ちょっとエスティナの隣に行ってもらっていいかな?」

「う、うん!」

「わかった」


 俺ができる限り優しくそう声をかけると、期待に目を輝かせたリナちゃんは、相変わらず落ち着いたラナちゃんと一緒に移動して場所を開けた。

 しなやかな、だけどゆっくりとした動きでミャウが床に降りると、その場でゆっくりとしゃがみ床に伏せる。


「えっと、ミャウは構わないって。ただ、今から言うことを守ってくれる?」

「うん!」


 リナちゃんが声を上げ、ラナちゃんが頷くのを待って、俺は軽く説明を始めた。


「ミャウも誰かを背中に乗せたことってないんだ。だから、慎重に動くと思う。軽快に走ってとか、そういうのはできないけど許してあげてね」

「うん!」

「あと、身体に乗っている時、下手に毛を引っ張ったりしない事。ミャウがびっくりして二人を振り落としちゃうかもしれないからね」

「わかった。他には?」

「もし怖くなったら、身体にしがみついて怖いって声を出してね。すぐにしゃがんで降ろしてもらうから」

「う、うん」

「それだけ?」

「だいたいは。ミャウ。一人ずつがいいか?」


 俺がそう問いかけると、あいつは首を横に振る。

 一気に二人行く気か。

 大丈夫かな? なんて少し不安になるものの、まあそこは信じないと。


「じゃあ二人共ゆっくり背中に乗って。後ろの子は前の子にしっかり掴まってね」

「リナ。後ろ。私が前に座るから」

「う、うん。お、おじゃまします」


 案外度胸があるのか。あまり迷いを見せず背中によじ登ったラナちゃん。

 それに倣い恐る恐る背中にのったリナちゃんは、何とか背中まであがるとラナちゃんにしがみつく。


「リュウト。準備いいよ」


 ラナちゃんが俺にそう声を掛けて来たのを見て、俺もミャウに目配せをする。

 と、あいつはゆっくりと両足を伸ばし、その場で立ち上がった。


 ぬるりと立ち上がった瞬間、ぎゅっと姉を抱きしめ目を閉じるリナちゃん。

 対するラナちゃんは、しっかりと背筋を伸ばし、落ち着いた顔のまま。


「少し歩かせてみる? それともそのままがいい?」

「どうする? リナ」

「あ、歩いてほしいです!」

「じゃあ、お願い」


 リナちゃんが目を開け何とかそう答えると、ラナちゃんが俺にそう促してくる。


「わかった。ミャウ。頼む」


 こっちを見るミャウに頷いてやると、あいつも小さく首を縦に振り、ゆっくり部屋の中を周回し始めた。


「お……おおー! 凄い凄い!」


 まるで乗馬のように、部屋をゆっくり回るミャウの上で、緊張していたリナちゃんの表情がみるみる興奮の笑みに変わっていく。 


「お姉ちゃん! ミャウちゃん凄い!」

「うん。凄いね」


 妹の喜びように、少しだけラナちゃんも微笑んで見せた。


「ラナちゃんが笑うの、初めて見たかも」

「そうなんだ」


 へぇ。まあ確かに、あまり笑いそうな雰囲気は感じなかったから、意外と言われたらそうなのかも。

 少しの間、マイペースにぐるぐると周回している彼女達を微笑ましく見ていると、リナちゃんが、


「ねえねえ! お外まで散歩に行こう?」


 なんて言ってきた。 

 流石にそれは色々問題かな、って思ったんだけど。


「ダメ。ミャウも初めて。危ないから」

「えーっ!?」

「それにみんなの番もあるから、そろそろ終わりだよ」

「むぅ……」

「リナ。良い子にしないと、お母さんに怒られるよ」

「……はーい」


 しっかり者のラナちゃんの厳しい言葉に、残念そうな顔をしながらも受け入れるリナちゃん。


「ミャウ。ありがと。降ろしていいよ」

「ミャーウ」


 ラナちゃんの言葉に、あいつもほっとした顔でその場でしゃがむと、二人がうんしょっと背中から降りた。


「ミャウ。ありがとう」

「ミャウちゃん! また今度乗せてね!」


 二人はミャウの頭を撫でると、俺の方に向き直る。


「リュウトお兄ちゃんもありがとう!」

「あ、いや。俺、全然何もしてないから」


 お兄ちゃん。

 その言葉のくすぐったさをごまかしつつ何とか笑みを返すと、彼女達は互いに向き直ると、うんっと頷き合った。


 ん? 何かあるんだろうか?

 俺がきょとんとすると、その反応に気づいたエスティナが意味深な笑みを浮かべた後、こんな事を耳打ちしてきた。


「これから、すっごく素敵な物が見れるよ」


 素敵な物?

 そんな疑問が浮かんだ瞬間、双子がまったく同じ真剣な顔で、両手を高々と上げた。


『世界の花々よ! 幸せな時をくれたみんなに感謝を!』


 可愛らしいハモり声。

 と、その瞬間。


「うわぁ……」


 俺は思わず目を丸くし、声を失った。


 突然、この部屋の天井から舞い散る、色とりどりの様々な花の花びら。

 その華やかさは、俺だけじゃなく、ミャウも思わず天井を見上げ目を奪われる。


「これは凄いな……」


 俺がぽつりと漏らすと、


「えっへへーん」


 なんて、リナちゃんの自慢げな声がした。


「今日はありがと。次の人に変わるね。リナ」

「うん。じゃ、またね!」


 神秘的な光景に目を奪われている内に、二人はまたとてとてと扉まで行くと、一度だけ俺達に振り返って手を振り、そのまま部屋を出ていく。

 と、それに合わせて、春を感じさせる感謝の花びらも、部屋からすーっと消えていったんだ。

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