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来界者《フォールナー》リュウトの異世界遍歴 ~勇者の息子の最初の仕事は、女子寮の雑務係でした~  作者: しょぼん(´・ω・`)
第一巻/第三章:勇者の息子、女子生徒達に印象づく

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第二話:生徒会長とその姉妹

 あの後、もうすぐ日が暮れそうな時間から、女子生徒達との顔合わせが始まったんだけど。


 俺もミャウも、勿論これだけの人と一日で会って交流するなんて経験は初めて。

 しかも、個性的な女子も多くってさ。


 対応する人数も相成って、希望者全員との顔合わせを終えた時には、その日も深夜に差し掛かり、俺達も随分とくたくたになっていた。


   § § § § §


「ありがとうございました!」

「ミャウちゃん、またね」


 最後の組の女子生徒達が、ミャウに笑顔を向けながら手を振りつつ部屋を去り、エスティナが廊下に残る人がいないのを確認すると、部屋の扉を閉じ、ふぅっと大きくため息をく。


 勿論、俺とミャウも流石に気疲れもあったけど、今回の件を色々仕切ってくれた事もあって、振り返ったエスティナの表情には露骨に疲れが見える。

 でも、そんなの関係ないと言わんばかりに、


「リュウト。ミャウちゃん。お疲れ様」


 なんて笑顔を向けてくる彼女の気丈さには恐れ入るな。


「エスティナこそ、お疲れ様」

「ミャウミャウ」


 俺がそう労いの言葉を掛けると、ミャウが気を遣ったのか。ベッドの反対側に移動して膝枕のように俺の太腿に頭を乗せ、彼女が腰掛けられる場所を作る。


「あれ? ミャウちゃん。どうしたの?」

「ここに座って休みな、だって」


 意図を察せないエスティナがきょとんとしたので、俺があいつの心内を代弁すると、


「ありがとう。じゃ、お言葉に甘えようかな」


 そう言って、ベッドの端に腰掛けた彼女は、優しくミャウの頭を撫でた。


「でも、凄い人数だったね」

「うん。クラウディス先輩が全校集会でこの話を出した時、希望者だけで強制はしないって伝えてたんだけど。まさかここまで人が集まるなんて思わなかったもん」


 クラウディス先輩……確か三年生で、学園の生徒会長を務めてた人か。


「でも、エスティナも長時間ありがとう。仕切り役なんて大変だったでしょ?」

「まあね。でも、あまり話した事のなかった先輩なんかの素顔が見れたりもして楽しかったし、あっという間だったかな」


 疲れは隠しきれないけど、それでもエスティナは自然な笑みを向けてきた。

 こういう気遣いから、彼女の性格の良さを凄く感じるな。


「……すぴー……すぴー……」

「ん?」


 そんな会話に割り込んだ寝息に、俺達はふと顔を見合わせると、思わずミャウを見る。

 と、既にあいつは俺の太腿を枕がわりに、心地良さそうに眠っていた。


「……きっと疲れてたんだね」

「まあ、こいつが一番頑張ってたもんな」


 正直、女子生徒達は思っていたよりも俺にも友好的というか、普通に接してくれた人達が多かった。


 それはきっと、俺が来界者フォールナーと認められた事による物珍しさもあったと思うし、校長の孫であるエスティナが間に入ってくれてたのもあると思う。

 でも、こいつがいてくれたことで、彼女達との間の空気が和らいだってのも絶対あった。


 あれだけ多くの人に触りたいとねだられても、ほとんど嫌がりもしなかったミャウ。

 元から人懐っこい奴ではあるけど、それでも嫌なのを我慢してくれた時もあるもんな。


 ……ありがとな。ミャウ。

 俺は優しく、起こさないように身体をゆっくりと撫で、こいつを労ってやった。


「因みに、リュウトは印象に残った人とかいた?」


 ミャウの事を優しく撫でながら、ふと彼女がそんな質問をしてきた。


「そうだなぁ……」


 まあ、正直大人数とたった数時間で会ったからこそ、印象に残らなかったというか、覚えてあげれなかった子もいる。

 でも、しっかり心に刻まれるだけの印象深い子も確かにいた。


 俺は少し考えた後、その時の事を思い返しながら、エスティナにそんな女子生徒達について語り始めた。


   § § § § §


「まず、生徒会長とその姉妹は印象深かったかな」

「あ、そうなんだ?」

「うん。三者三様にそれぞれ個性が強かったし、強く印象に残ってるね」


 さっき話題に上がった生徒会長のクラウディスさんに、転移初日にエスティナを守ろうとしたミレイ。

 そして今日初めて会ったイリアさん。


 この人間の三姉妹が、今日の顔合わせ初のメンバーだったんだけど、その印象ははっきりと覚えている。


 まず、会長のクラウディスさん。

 白髪の短髪の彼女の第一印象はもう、有名どころの劇団の男役って言葉が似合うくらい、中性的な美女。


 しかも俺、勝手に魔術学院は女子生徒しかいないから制服はスカートかと思ってたら、彼女を始めすらっとしたスラックスを履いている子もいたんだけど。

 もう、段違いに似合う。本気で。

 俺なんかと比べてもよっぽど美形にも見えるし、強調された胸がなかったら色々勘違いしそうだ。


 次女でエスティナと同級生のイリアさんは、クラウディスさんとは対の存在とでもいうんだろうか。

 紫の長髪に、エスティナ同様制服はスカート。だけど襟元のリボンはしてなくて、シャツのボタンを幾つか外したラフな格好。

 そしてその表情は……きつい。とっても。

 怒ってるのか。鋭い眼光でこっちを睨んでくる彼女には、内心恐怖を覚えるくらいだ。


 そして最後は三女でエスティナの後輩にあたるミレイ。

 黒髪のポニーテールをしている彼女は、剣を持っていただけあってクラウディス会長同様にスラックスを履いていたけど、何処か生真面目な雰囲気が、これまた長女次女とは違う印象を覚える。


「初めまして。私がこの魔術学院で生徒会長をしているクラウディス。来界者フォールナーにお会いできて光栄だよ」

「そんな。こちらこそ生徒会長にお会いできて光栄です」


 差し出された手を取り、緊張感ありありの顔で握手を交わした俺と、余裕綽々であろう笑顔が眩しいクラウディスさん。


 それを横目で見ていた、腕を組み斜に構えていたイリアさんは。


「……いいか? うちの生徒に変な事したら、ぶっ殺すからな」


 と、俺をキッと睨み、脅しをかけてくる。


「済まないね。この子も緊張してるんだ。非礼は許してほしい」

「いえ。非礼なんてそんな。こちらこそ、ご迷惑をおかけしないよう気をつけます」


 苦笑しながらそんなフォローを入れてきたクラウディスさんに、俺は謙遜しつつペコペコと頭を下げたっけ。

 そう俺が言った後も、ふんっという不貞腐れた態度で睨まれていて、内心超ビビってたし……。


「先日は冤罪だと気づかず、あなたに剣を向けてしまい申し訳ございません。私は一年のミレイと申します。どうかお姉様達。そして先輩共々、よろしくお願い致します」


 ミレイはというと、生真面目な程の真剣さで、俺にすっと頭を下げてきた。

 何処か堅苦しさを感じるけど、まあ真面目な事は悪いわけじゃない。

 うん。悪いわけじゃないんだけど……。


「あれは不慮の事故みたいなものだし。あまり気にしないで。こっちこそこれからよろしく。ミレイさん」

「そのように改まらなくて結構です。私の事は呼び捨てにしていただければ」

「あ、うん。わかったよ。じゃあ、俺の事も龍斗りゅうとって呼び捨てで──」

「そうは参りません! これからはリュウト殿とお呼びさせていただきます!」


 本当に真面目なんだと思うけど、こう強く言われると流石に少し困ってしまった。

 だって殿だぞ、殿。

 どこの時代劇のお偉いさんみたいな呼び方をされると思ってなかったし。


 とはいえ、申し出を突っぱねるのも悪いし、とりあえずそれは素直に受ける事にしたけど……。

 何かそこまで堅苦しいと、こっちもちょっと緊張してしまう。


「こんな奴、そんな大層な呼び方しなくていいだろ」

「まあまあ。ミレイらしいじゃないか」


 イリアさんとクラウディスさんは、そんな末っ子の反応にも相変わらず。

 とはいえ、これがミャウを撫でる時になると、また状況が一転した。


「な、なあ? 本気で触っていいのか? 俺のせいで怪我したりとかしねえよな?」


 なんて妙に気を遣いだし、ミャウを恐る恐る撫でようとするイリアさん。

 正直どんな触り方をする気なのかと不安になったけど、ミャウが大人しく彼女の手を受け入れ、頭を撫でた途端。

 その感触を味わえたのがよほど嬉しかったのか。少しずつ顔が綻びかける。


 ただ、俺と目が合った途端。

 はっとした彼女は、


「な、何見てんだよ!」


 なんて叫びながら、顔が緩むのを必死に堪えようとして、怒りとも喜びとも言いづらい、何とも言えない顔になっていた。


 より大胆になったのは、まさかのクラウディスさん。

 それまでの落ち着いた態度の片鱗すらなく、にこにことしながら、何も言わずミャウの身体に顔を突っ込み、ひたすらに匂いを嗅いでいた。

 その姿に、生徒会長の威厳なんてまったく感じやしない。


「まったく。イリスお姉様もクラウディスお姉様も……」


 そんな二人を頭を抱えながら見守っていたミレイ。

 彼女はミャウを撫でる時も、


「この肌さわりの良さは確かに堪りませんが、お姉様達はもう少ししゃんとしてください」


 なんて、苦言を二人に呈する落ち着きっぷりだった。


 この、それぞれ個性の違う三姉妹。

 彼女達は俺にとって、十分衝撃を与える存在だったな。


   § § § § §


「私は家族ぐるみで付き合いがあったから、そこまで違和感はなかったんだけど。やっぱりリュウトみたいに知らない人から見たら、結構印象深いのかな?」

「そうじゃないかな。まあ、男子相手だからとか、出逢いが特殊だったとかもあるから、一概に同じではないかもしれないけど」


 不思議そうなエスティナに、俺は素直にそんな感想を述べる。


 確かに、近くにいないからこその違和感っていうかはあるんだろうけど、こっちの世界でも中々こんな三姉妹いないと思うんだよね。

 だからこそ、彼女達の印象は間違いなく俺の心に残ったんだ。

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