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来界者《フォールナー》リュウトの異世界遍歴 ~勇者の息子の最初の仕事は、女子寮の雑務係でした~  作者: しょぼん(´・ω・`)
第一巻/第二章:勇者の息子、人助けをする

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第六話:この世界にない魔法

「さてと……」


 俺は改めて部屋を一瞥する。

 広さはそこそこ。ダメになった食べ物は結構あるけど、問題ない野菜もあるって言ってたっけ。


 流石にその選別はちょっと大変だし、乾燥宝珠ドライクリスタルは運良くエリスさんが持っていってくれたから、今回は部屋の物をまとめて対象にするか。


 問題は散らかった水だけど…… 水性泥霊ウォータースライムは言わば生物。

 俺の理論が正しければ、この水や、水のせいで凍った霜なんかは、多分途中で消えて無くなるはずだ。


 後は、この寮に術の制限がされているかどうか、か。

 そもそもそんな事ができるのかといえば、できるのは知っている。

 母さんが持ってたこっちの世界の本に書かれてたんだけど、術制限の魔方陣や宝珠クリスタルを使えば可能だって書いてあったし、実際幾つかの施設ではそういった制限を掛けている場所もあるってあったらしい。


 術制限の方法は意外に単純で、魔方陣や宝珠クリスタルに、制限する魔法を個別に登録していくというもの。

 現代風にいえば、ウィルス対策ソフトのウィルス定義ファイルみたいに、そこに登録されている魔法は制限されるって感じかな。


 まあ、魔法ってジャンルも数も多いし、口で言うほど簡単な作業じゃないんだろうけど。

 実際そこまでしてでも魔法の制限をしたいって時には有効だ。


 四百年前からこの施設があったかはわからないけど、学生が悪戯にやばい魔法を使うのも危ないだろうし、この辺はあると仮定するか。

 ……って、よくよく考えたら、再会とかに気を取られ過ぎて、ここがどの国のどの街かをすっかり聞き忘れてたな。

 後でエスティナにでも聞いてみよう。

 

 でだ。

 問題は、これから使う魔法が制限対象かどうかって話になるんだけど、これは多分対象外のはずだ。


 使おうとしている術は、当時は存在すらしてなくて、両親が元の世界に戻ってから研究を始めた物を形にした術。

 だから、時代が進んで、実は術制限の仕方が変わってるとか、既に同じ魔法が生み出されていたらアウトな可能性もある。


 だけど、エリスさんは大賢者とまで言われた人であり、魔導学園を預かる校長。

 そんな彼女が落胆するマナードさんに対し、それ系の魔法ですぐに何とかする提案をしなかった。


 昔の知識通りなら、術制限は一時的な解除もできるはずだし、そこまでして上級の魔法でこの状況を解決しようとしなかった事を考えると、多分まだそんな便利な魔法、こっちの世界にはないんじゃないかって踏んだんだ。


 とはいえ、そもそもここまで多くの物を、同時に対象とした経験は俺にもない。

 上手くやれるだろうか……。


「ミャーウ……」


 緊張した俺の気配を察し、ミャウが不安そうな鳴き声をあげる。

 っと。流石に気負い過ぎたか。


「大丈夫だよ。それより悪いんだけど、俺が術を掛けたら、お前も寝たフリをして欲しいんだけど。いいか?」

「ミャウ」


 しゃがみ込んで、顔を覗き込みながらそう頼むと、ミャウはこくりと頷いてくれる。

 それに微笑み返すと、軽く頭を撫でると俺はその場で立ち上がった。


 ……さて。

 じゃ、やってみるか。

 俺は大きく深呼吸した後、胸の前で両手で球体を持つかのように構える。


 ……まず、頭に思い浮かべて、足元にとある魔方陣を描き出す。

 普通の人は魔方陣を描くも詠唱がいるけど、俺なら問題ない。

 気づかれにくいよう、無詠唱で発動する。


 描き出した魔方陣。

 それは、時間制御クロノスコントロールの術を発動する陣だ。


 この術はさっき話してた通り、当時この世界にはなかった魔法で、両親が現代世界で研究し生み出した物。

 母さんはこれを、魔術と付与術の中間にあたる術とか言ってたっけ。


 中々凄そうな名前だけど、やれる事は至ってシンプル。

 指定した道具や食べ物に対し、最大一日まで時間を巻き戻せるって物だ。


 この対象になる物が、神様の匙加減さじかげんなのかってくらい曖昧なんだけど。自分がちょこちょこ試した感じ、感覚的には道具や食べ物って認識している物は戻せて、生き物を生き返らせたり、若返らせるみたいな事はできないって感じだった。

 勿論既にそこから消えている物は、生き物じゃなくても戻せない。

 だから、細かな破片が残っていても、乾燥宝珠ドライクリスタルが元に戻る事もないんだ。


 で、俺は今この術を使い、この貯蔵庫にある食べ物の時間をある程度巻き戻し、無事な状態に戻そうと思い立ったんだ。


 ただ、これを普通に魔方陣を描いで発動すると、強度がいじりにくい。

 っていうのも、この世界の魔法の効果は、術者の力と術強度に依存するから。


 例えは、エスティナも使っていた下級魔術の火炎フレイム

 これは下級だからこそ、威力も一定以上絶対にはできない。

 じゃあ威力をより高めたいならどうするかというと、上級魔術の業炎ヘルフレイムを使えばいいんだけど。

 業炎ヘルフレイムで威力を下げようとすると、今度は術自身の下限までしか手加減ができないんだ。

 つまり、本来は下級、中級、上級の術を使い分け、強度を変更しなければいけないって訳。


 そして、これは本来、魔方陣を描く魔法も同じ。

 時間制御クロノスコントロールも、そのまま使えばその物も時間を一日分きっかり巻き戻してしまう。

 これが地味に痛くて、例えば麻袋がここに運び込まれた時間が被ったりすると、その通り戻り出して、横になって溢れたり、変な場所に移動したりと酷い事になったりもするんだ。


 そこで、二人が生み出した新たな魔法技術。

 それが複合魔方陣だ。


 一つ目の魔方陣は術自体。

 そこに重ねる二つ目の魔方陣は、補助効果をコントロールする物だったりする。


 例えば、範囲縮小と範囲拡大。威力強化と威力弱化。こういった事を魔方陣で制御し強度を変えようって方法なんだけど。

 こっちの世界じゃさっきの等級の使い分けで賄えてしまっていたからこそ、当時こういった発想はなかったらしい。


 まあ、二つの魔方陣を互いに邪魔にならないよう描き出し、しかもそれを制御するってのは結構非効率な部分もある。

 けど、この複合がより新たな魔法を生み出せるかもしれないし、何気に馬鹿にできない技術なのは間違いない。

 ほんと、父さんも母さんも本気で凄いよ。


 ……さて。

 じゃ、この世界での初お披露目だ。

 俺は一つ目の魔方陣の外周を覆う、新たな魔方陣を生み出した。

 これの効果は強度調整。つまり、ある程度戻す時間の制御が可能になるってこと。


 今がまだ朝から昼の間くらい。

 確かマナードさんの話じゃ、昨晩はヒビが入っていたものの、乾燥宝珠ドライクリスタルは機能してたって言ってたから、だいたい半日よりもう少し前、日が沈んだ頃まで戻せれば良さそうかな。


 魔方陣を生み出した段階では、まだ魔力消費はほとんどない。

 けど、ここから実際に術を行使すると、魔力を一気に消費する。


 この術は複合魔方陣にしてるのもあるけど、そもそも時間を制御するなんて恐ろしい術だからこそ、向こうで遊びで試した時も結構魔力を消費した。

 けど、ここはお誂え向きに魔力溜まりにもなっている。であれば、補充も早いしいけるはず。


 ……よし。いくぞ。

 俺は範囲を強く意識し、時間制御クロノスコントロールで部屋全体を対象とする。その瞬間、一気に魔力が持っていかれる感覚を覚えた。

 けど、この程度なら何とかなりそ……うっ!?


 瞬間、俺を襲ったのは気持ち悪さ。

 何だ、これ……。今までに経験がない感覚に、ふらりとする身体を無理やり抑え込み踏ん張る。


「ミャウ!?」


 思わず心配そうな声をあげるミャウ。


「大、丈夫!」


 俺はその声に応え、必死に意識をつなぎとめると、時間を戻し始めた。

 外周の魔方陣が、俺が時間を戻そうとするのに合わせ反時計回りに動き出す。

 同時に、周囲に見えている貯蔵庫も少しずつ変化していった。


 撒き散らされていた水は、途中ですっと消える。

 元々は水性泥霊ウォータースライムという生物だったからこそ、生物に戻ろうとした瞬間に存在しない扱いになったんだろう。これは、読み通り。

 濡れていた麻袋も、俺が時間を戻すのに合わせ、みるみる内に乾いていく。

 このまま、水気がない状態まで戻しきれば……ぐっ!?


 強度を変更するため動かすごとに、がくっと魔力が減り、すぐさま一気に回復する感覚を覚える。

 それと同時に強くなる、頭痛に目眩、そして吐き気。

 これ……魔力で、酔ってるのか!?


 クラクラとする頭。

 だけど、俺は必死に術を維持し、時間を戻していく。

 これで、半日。後、もう少し……!


 ぐっと歯を食いしばり、俺は何とか時間を戻し続ける。

 ゆっくりと、少しずつ回る外周の魔方陣。それに合わせ、目に映る物の水気っぽさが一通り消えて暫くした所で、俺は時間を戻すのを止めた。


 これで、いけたか?

 何とか結果を確認しようと、麻袋に近づこうと一歩踏み出した瞬間。

 俺は強い目眩共に、気づけばその場に倒れ伏していた。


「はぁ……はぁ……」


 正直、吐きそうなほどの気持ち悪さ。

 ひどい頭痛と目眩に、意識が遠のいていく。


「ミャウ! ミャウミャウ!」


 悲痛な顔で必死に俺に鳴くミャウ。

 そんな、心配そうな顔、するなって。


「だい、じょ……」


 俺はそこまで口にした瞬間、何も考えられなくなった。

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