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来界者《フォールナー》リュウトの異世界遍歴 ~勇者の息子の最初の仕事は、女子寮の雑務係でした~  作者: しょぼん(´・ω・`)
第一巻/第二章:勇者の息子、人助けをする

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第四話:いきなりのトラブル

 あの後、俺とミャウはエリスさんの案内に沿って魔導学園の校門を出ると、徒歩のまま女子寮の方に歩き続けた。

 学園や寮を囲う高い外壁は、やはり男子や不審者の侵入を警戒するものなんだろうな。


「そういえば、女子寮の敷地から直接学園には行けないんですか?」

「ええ」

「何か理由があるんですか?」

「やはり学生とはいえ、学問一辺倒で表に出ないというのはよくないですからね。登下校の際わざわざ街を通ることで、外を意識させるようにしているのです」

「へえ。全寮制も色々大変なんですね」


 俺は寮生活なんてしたことないけど、確かに登校が便利だと、休みは寮に籠もって平日学校だけ行くみたいな、やや自堕落な生活もできるのかもしれない。

 とはいえ、外壁の道に沿って並ぶ店の数々は、間違いなく女子を意識した洋服屋とか喫茶店とか、そういうお店が多々並んでいるし、この環境なら女子寮に引きこもりって事もあまりなさそうだけど。


 そんな事を考えながら歩いていると、気づけば女子寮の入り口までやって来ていた。

 敷地前の門には、例の獣人族ビゼルのサラさんと、紺色のセミロングの髪が綺麗な、眼鏡を掛けた門番の女性が立っていた。

 談笑していた二人は、エリスさんに気づくと、はっとし表情を引き締め、彼女に敬礼を返してくる。


「サラ。ドルチェ。ご苦労様です。既にデルタから話は聞いていますね?」

「はい。その、彼が例の来界者(フォールナー)なんですか?」

「ええ。今日からこちらで暮らしながら、マナードに付き働いてもらいます。これから何かとお世話になる事もあるでしょうから、仲良くなさい」

「はい」


 ドルチェさんって人が、俺をまじまじと見る。

 サラさんよりは圧を感じないけど、この人も女性ながら、戦いに長けているんだろうか?


「あの、俺、龍斗りゅうとって言います。あと、こっちが愛猫のミャウです。どうぞよろしくお願いします」

「ミャウミャウ」

「私はドルチェ。これからよろしくね」


 俺達が頭を下げると、ドルチェさんも笑顔で頭を下げてくれる。

 どこか優しそうだし、ちょっと安心かも。


「しっかし。あんたがまさか本当に来界者フォールナーだなんてね。あの時は悪かったね」

「あ、いえ。あなたは衛兵としての職務を果たされただけですし、ここに住む生徒達の為に正しいことをされただけじゃないですか。謝らなくて大丈夫ですよ」

「ははっ。捕まえた相手にそれだけの事を言えるんなら安心だね。あたしはサラ。よろしくな。リュウト」

「こちらこそ。よろしくお願いします」


 伸ばされた手を取り握手を交わすと、彼女は快活そうな見た目通りの笑みを見せてくる。


「サラ。マナードは今どちらに?」

「あ、はい。管理人室に──」

「サラ! サラ! 大変よー!」


 エリスさんの問いかけに、ドルチェさんが答えかけた瞬間。

 それに割って入るように、必死にサラさんの名を呼ぶ、どこかおっとりとした女性の声が耳に届いた。

 俺達が声に釣られて寮の中を見ると、ドタドタという足音と共に、廊下からエントランスにやってきた女性がいた。


 彼女も猫耳で真っ赤な髪は頭の後ろでお団子状にまとめられている。

 身長のやや低い、恰幅のいい獣人族ビゼル。その顔立ちはどことなくサラさんに似てるけど……。

 姿を現した相手に、サラさんが困ったように頭を掻く。


「どうしたんだよ、お袋。エリスさんなら今来た所だぜ」


 その言葉を聞いて、はたと俺達の存在に気づいた彼女は、エリスさんに向き直ると笑顔になる。


「あら。エリス。随分早いじゃない」

「マナード。お伝えした時間通りですよ」

「あら? そうだったかしら。ごめんなさいね」


 まるでさっきまでの慌てようが嘘のように、手を顎に当て首を傾げてるけど……何か、妙にマイペースというかなんというか。

 サラさんもそんな母親の事を見て、呆れながら思わず顔を抑えてる所を見ると、何時もこんな感じなのかもしれない。


 と。そんな彼女が今度は俺と視線が合うと、


「あらあらあらあら。可愛い青年に猫ちゃんね。あなた達がエリスの言っていた来界者フォールナーね。私がここの寮母をしているマナードよ」


 なんて、にこにこと挨拶してくれる。


龍斗りゅうとと言います。それからこっちがミャウです。これからどうぞよろしくお願いします」


 俺達が頭を下げると、「はい。よろしくねー」と、やっぱりおっとりした返事を返してくれた。


「それより、何があったのですか?」


 マナードさんのペースに飲まれることなく、エリスさんが落ち着きを払いそう尋ねると、彼女は「ああ」とぽんっと手を叩くと、また困った顔になる。


「それが大変なのよ。地下の貯蔵庫に、水性泥霊ウォータースライムが湧いちゃったって」

「は!? お袋、マジかよ!?」

「ええ。昨晩サーベちゃんに乾燥宝珠ドライクリスタルにヒビが入っているって聞いたんだけど、予備がなかったから今日替えを用意しようと思ってたのよ。それで、朝の仕事も一段落して、一度様子を見に行こうとしたら、もう湧いちゃってて」

「まさか、そんなに早く湧くなんてあるんですか?」


 マナードさんの話に、サラさんやドルチェさんが驚いてるけど、話からすると、早々湧かないって事でいいんだろうか?


 ちなみに、水性泥霊ウォータースライムっていうのは、この世界の精霊の一種。

 様々な泥霊スライムが存在するんだけど、水性泥霊ウォータースライムは文字通り、水場とか湿気が多いところで、かつ魔力が溜まりやすい場所に自然と生まれやすいらしい。


 地下の貯蔵庫って事は確かに湿気が溜まりそうだし、魔導学園を建てるくらいなんだから魔力溜まりも多そうだよな。

 だから、乾燥宝珠ドライクリスタルで湿気対策してたってのは分かる。

 とはいえ。同じような環境でも、湧くかどうかは精霊らしく気まぐれな所はあるって本にも書いてあったし、きっと運が悪かったって事かもしれない。


 ちなみに、泥霊スライム種の中じゃ非常におとなしいので、無害っちゃ無害ではあるらしいんだけど……。


「それじゃ、ささっと倒さねえと、貯蔵庫の食料がダメになっちまうんじゃねえか?」

「確かにそうですね」


 そう。サラさんやエリスさんの言う通り、食べ物とか湿気に弱い物なんかには大敵と言っていい存在なんだ。


「リュウト君は、ミャウとここで待っていてください」


 エリスさんがそう気遣ってくれたけど、俺は首を横に振る。


「いいえ。俺も一緒に行かせてください。この先こういう経験もすることになるなら、経験できる時にしておきたいんで。な? ミャウ」

「ミャウ!」


 俺とミャウは真剣な顔をしつつ、エリスさんにそう志願した。

 まあ、口にしたのも本音だけど、水性泥霊ウォータースライムはそこまで危険な精霊じゃないのも分かってるし、やっぱり見ておきたいってのもあるしさ。


 俺達の事をじっと見ていたエリスさんは、「わかりました」と短く口にした。


「では、参りましょう」

「はい」


 先導して歩き出したエリスさんに、サラさんとドルチェさんが続き、その後をマナードさんが続いていく。

 そんな彼女達を、俺とミャウも追うように付いていったんだ。

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