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来界者《フォールナー》リュウトの異世界遍歴 ~勇者の息子の最初の仕事は、女子寮の雑務係でした~  作者: しょぼん(´・ω・`)
第一巻/第二章:勇者の息子、人助けをする

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第一話:緊張の朝

 豪華なだけある寝心地の良いベッドと、ミャウというこれまた寝心地の良い枕のお陰もあったんだろう。

 俺は予想以上にあっさりと眠りに付いて、すっきりとした目覚めを迎えた。


「ふわぁー」

「ミャーウ」 


 俺が上半身を起こし伸びをすると、釣られて目を覚ましたミャウも、大きく欠伸をすると、手で目を擦る。


 勿論、こいつが一緒にベッドで寝るのは一度や二度じゃない。けど、流石にこの大きさでってのは初めて。

 普段よりはっきりとわかる愛らしい表情に、自然に顔が綻ぶ。


「おはよう。ミャウ」

「ミャウミャウ」


 軽く頭を撫でてやると、嬉しそうに目を細める。

 こういう仕草は本当に癒されるし、寝起きも最高だ。


 えっと、確か今日のスケジュールはっと。

 昨日エリスさんから聞いた段取りは、朝食をご馳走になった後、一旦エリスさんと魔導学園に行き挨拶をして、それから女子寮に入って、色々説明を受けるんだったっけ。


 今まではずっと両親と暮らしてたから、何処か一人暮らしの新生活が始まるような感じがして、緊張で少し背筋が伸びる。


 とはいえ、ただの新生活ならまだ気分は楽だけど、これからは女子寮暮らしか……。

 この間の騒動で向けられた白い目を思い出し、内心不安になるけれど。

 エスティナやミャウもいてくれる。そんな心の拠り所を頼りに、何とか不安をごまかした。


   § § § § §


 流石に肌着や下着は変えたものの、仕立てた服が出来上がるのはもう数日先らしくて、俺は普段通りの学ラン姿に着替えると、メイドさんに案内され食堂にやってきた。


 今日はエリスさんとミャウと朝食を共にする事になったんだけど。この先彼女と落ち着いて話せる機会もそうないだろうと思って、今朝は俺の疑問に色々答えてもらう事にした。


「あの、女子寮で()()()()()なんて話を聞いたんですけど、最近は来界者(フォールナー)がやって来る事って多いんですか?」


 パンを食べ終えた俺がそんな事を聞いてみると、エリスさんは心当たりがあるのか。何処か呆れた顔を見せる。


「いえ。この大陸全土で見ても、異空嵐フォールストームの発生は年に一、二度。しかも毎回来界者(フォールナー)が現れるわけじゃないですから、数年に一度あるかないかですね」

「え? そんな状況なのに、異世界詐欺が横行するんですか?」

「横行というか、ただの言い訳ね」


 一旦口をナプキンで拭ったエリスさんが、紅茶を口にすると、またもため息を漏らす。


来界者(フォールナー)という存在は昔から知られています。ですが、異空嵐フォールストームを予知し、先回りして出会うというのを知る人間は国の上層部のみ。一般的には先日の貴方あなたのように、突然現れると信じられているのです。そのせいで、私利私欲で屋敷などに忍び込んだ犯人が見つかった時、よく言い訳に使われるのですよ。勿論、女子寮でも」


 ……ああ、そういう事か。

 それを聞いて合点がいった。


 何かを盗んだとかの証拠があれば、それは言い逃れなんてできないだろう。

 だけど、例えば女子寮に好きな女の子がいて、逢うため忍び込む、なんて話になれば、バレた時の言い訳にはなるって事か。


 まあ、とはいえ来界者(フォールナー)だと証明するのに、俺みたいに物的証拠でもなけりゃ、早々話は通らないんだろうけど。


「女子寮に男子が忍び込むって、結構あるんですか?」

「頻繁にというわけじゃありませんが、たまには。しかも、盗賊のように物を奪うというより、恋焦がれた相手に告白するだとか、それこそすでに相思相愛になった二人が、ひっそり逢うために行動する子もいるのがまた厄介で」


 困ったものね、と言わんばかりに視線を逸らし、三度目のため息。

 まあ、魔導学園の校長だし、生徒を守るって点でも苦労しているって事だよな。


「そういえば、男子も魔導学園のような施設はあるんですか?」

「ええ。デイルバード戦騎学園。我が校と対になる、男子専用の学園ね」

「もしかして、城の近くにあるあの施設ですか?」

「ええ。あちらには男子寮があるの」


 男子寮がある、か。

 俺が生活するなら本来はそっちが普通だよな。

 幾ら何でも、女子寮に男子が暮らすなんて、異例中の異例なはず。


「でも、本当にいいんですか? 女子寮に男子が住むなんて例外を作って」

「例外も何も、近年来界者(フォールナー)に対しての対応は変えているのに、法については昔のままで困っていない事を理由に、各国とも改善しないのが悪いだけ。貴方あなたはちゃんと法で守られているのだから、堂々として構いませんよ」


 そうやって笑ってくれるエリスさん。

 年老いた顔であっても、母さんに似ているだけで、その安心感は随分と違うな。

 内心ほっとした俺は、彼女に釣られ微笑むと、


「堂々とできるかわかりませんけど、そうします」


 なんて言いつつ、食べかけのサラダを口に頬張った。


   § § § § §


 朝食を終えた後、女子寮に持ち込む荷物についてはメイドさん達が準備してくれて、俺はほぼ手ぶらでミャウとエリスさんと共に馬車に乗り込んだ。


 行き先はミレニアード魔導学園。

 さっき彼女が話していた通り、俺は来界者(フォールナー)と認められた為、ミャウと共に女子寮の雑務係として一緒に生活する。

 その報告に合わせて、みんなの前で挨拶をして欲しいって依頼を受けたんだ。


 基本的にここの学園は全寮制らしく、全員が寮から学園に通う。

 つまり、ここでの挨拶は寮の女子全員に挨拶するのと同じってことなんだけど。

 さっきっから何を話すかをずっと考えているものの、全然いいアイデアも浮かばなくって。

 刻々と迫る挨拶の時間も相成って、俺は無口になったまま、ずっと考え込んでいた。


 やっと車窓から見られるようになった、何処かシックでレトロな西洋風の街並みも、残念ながら今は感動を与えてはくれない。


 こっちの空気を察してか。

 エリスさんは静かに車窓からの景色を眺め、声を掛けないでいてくれるけど、それが余計に俺に緊張感を与えてくる。


 ……挨拶一つで、また白い目を向けられるんだろうか。

 そんな不安を抱えたまま、俺は止まらぬ馬車に揺られながら、悩むことしかできなかった。 

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