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創造の魔導書<未完の完>  作者: 十三岡繁
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新しい朝

 翌朝ソフィアが結衣の部屋に行くと、既に起きたいたデリーターもその部屋にいた。そうして結衣は朝食前であるのになにやら器に入ったものをうまそうに食べている。


「おはようございます。まだ朝食前なのに何を食べてらっしゃるんですか?」ソフィアは聞く。

「アイスです。ん?分からないかもしれませんね。甘くて冷たい食べ物です。なんかデリーターに聞いたら、この世界でも他の国では食べている所があるとかで、魔導書を使って創造しても、100ポイント位使っただけで実現化出来ました」結衣はアイスを食べながらそう話した。


「デリーターさんがどう創造されたのかは置いておいて、創造の魔導書で初めて実現化したのがそれですか?」ソフィアはなかばあきれ気味にそう言った。

「あ、違います。アイスより先にこれを出しました」そう言って結衣は二つ折りの財布を取り出した。


「何ですかそれ?」ソフィアは聞く。

「私の世界のお財布です。無限にお金が出てくるという設定なんですが、札入れの部分からは何も出てこなくて、小銭入れのところからしか出てきません。この世界には紙のお金が無いって知らなくて間違えちゃいました。でもデリーターに聞いたら、ここでは金貨なんかが紙幣以上に価値が高いみたいですね」ソフィアは固まっている。それを見てデリーターはソフィアに声をかける。


「いや、ポイントの無駄使いはしない方がいいんじゃないかとアドバイスはしたんですけどね。彼女には彼女なりの考えがあるようです」そう言って苦笑いをした。それを聞いて結衣は話し始めた。


「この世界には魔法という、私たちの世界とは違う常識があるようですね。それが普通であるなら武器屋や防具屋でもそれに関したものが売られているはずです。あなたが昨日着ていた魔道着を見て確信しました。短期間にデリーターの戦闘力を増すには、それらを装備するのが一番手っ取り早いと考えたわけです。それには際限なくお金が出てくる財布なんかがあるといいのかなと。この世界にもお金という概念がある事はデリーターに確認しました」ソフィアには分かったような分からないような話だった。


「でも多分召喚された7人の人たちは、この世界の常識に捉われないスキルを持った存在や装備を創造してくると思いますよ。だからこそ異世界から召喚されたわけですし…」ソフィアはそう言った。


「昨日現れた魔王の一派はこの世界の常識に捉われていると感じました。なのでまずはそこを対策する必要があるでしょう。その上でまぁまだ10日間あるので、この世界の様子も見ながら調整して行こうと思います。とりあえずここでは常識とされる攻撃や防御に関して、この財布一つで対策完了です。この世界が積み上げて来た技術の全ては手に入れたも同然ですよね。ただ、無限に出てくるというのが常識はずれみたいだったみたいで、残っていたポイントはほぼ使い切ってしまいました」最初はなんて無駄な事をするんだろうと驚いていたソフィアだったが、確かに話を聞けば一理あるなと納得してしまった。


「とりあえず朝食を用意していますので、それを食べてから街へ行きましょう。ご案内いたします。その財布を使えばこの町で手に入る最高の防具と武器を手に入れられるというのは確かです」そう言って二人を引き連れて部屋を出ようとしたソフィアに、結衣は質問する。


「昨日言ってたトーナメントの優勝者は、元の世界で何でも願いがかなえられるというのは、例えば死んだ人を生き返らせるというのもありなんですか?」

「私も神託を聞いただけなので正確には分かりません。ただ神様が何でもいいというのであれば、言葉通り何でもいいんじゃないですかね?」ソフィアはそう答えた。その傍らで結衣の言葉を聞いていたデリーターは表情を一瞬曇らせた。


 朝食を終えてから、結衣とデリーターはソフィアと一緒に城の外に出た。デリーターはそのままでは目立ちすぎるので、上からソフィアと同じく黒いローブを纏った。結衣もそれらしい服装に着替えている。

 

 城門を一歩外に出れば、そこには大きな街が広がっていた。城下町と言ったところだろうか。まだ午前中であるのに多くの人が道を行きかい、道沿いの露店では様々なものが売られていた。


 城の部屋でも窓から城下町と海が見えていた。しかし上から見るのと人の目線に降りて見るのでは大違いで、この街は思ったよりも大きい印象だ。海が近いせいか気持ちのいい風も街の中まで吹いている。


 知らない街で迎えた初めての朝に、結衣は不安に陥っているかと言えばそれは真逆だった。今まで空想の中の存在でしかなかったデリーターが傍らにいて、これから起こるであろう出来事を想像すればワクワクした気持ちが止まらなかった。


 そうして自分の一番好きな空想をする事が、この世界では創造と力につながるのだ。少しだけ元の世界に残してきた父の存在が心をよぎりはしたが、それも気持ちのいい風の前にはすぐに打ち消されてしまった。


 そんな彼女の様子を後ろを行くデリーターは、マスクから表に出ている口元に僅かな微笑みを浮かべながらただただ眺めていた。


 <了>

【長編化した際のプロット】

神託によってその世界の七つの国には、それぞれ7人の少年少女が召喚された。

それぞれの国には神から与えられた『創造の魔導書』というものがあり、召喚された者がそこに想像して書いたものは現実の存在となる。

この世界では想像力がそのまま創造力になる。強い想像力で生み出されたものが、実際にも強い存在となる。


召喚後10日ごとに各国対抗で創造物によるトーナメント戦が行われる。

七人はトーナメント終了後に自分の元居た世界に戻れるが、優勝者だけは戻った世界で一つだけ願いをかなえてもらえる。


戦いまでの期間、相手に勝利するために召喚者は創造物を生み出すことができる。

創造するにはポイントが必要で、召喚時に与えられたポイントは各々12万ポイント。

その後1日に1万ポイントずつが付与され蓄積されていく。


創造できるものの内容、規模や強さは、個人の想像力によって変わってくる。

また創造するもののこの世界においての特異性で、創造に必要なポイントは変わってくる。

ポイントと想像力の他、無機物はその限りではないが、生命を持つ創造物を生み出すには創造物を依り代として生物の魂が必要になる。


トーナメントに参加しているのは7か国に加えて魔王がいる。

もし魔王が優勝した場合でも、召喚された7人は元の世界に戻れるが、異世界は魔王の支配下に置かれる。


3回のチャンスを使って魔王を倒すのがトーナメントの真の意味である。

10日間で1試合なので、優勝者が決まるまでには30日間がかかる。

但しこの世界は元居た世界と時間の流れ方が違うので、30日間は元居た世界では1時間にも満たない。


これは反目しあって一向に協力しようとはしない七つの国に与えられた神からの試練である。

創造物の秘匿の為に、召喚者は戦いまでは行動を制限されるが、敗退した後は自由になり移動もできる。

敗退しても参加者の『創造の魔導書』による創造力は失われない。


少年少女が持つのは想像力だけでは無く、大きな好奇心だ。

好奇心に導かれるまま、戦うだけではなく戦いの後も少年少女はお互いを知り交流を重ねていく。

それぞれの個性や創造するもの…想像力の特性を知りお互いを認め合う事で協力関係が生まれてくる。


最後には全ての少年少女と国が協力し合って魔王と闘う事になる。


以下七ツ国(戦国七雄と曜日からとってます)

ビシン

ソゲツ

セイヒ

スイエン

チョウキ

キンギ

カンド


※※更なるネタバレ


・七名は全て地球から召喚されているが、日本人は結衣だけ。またそのうち六人は現代の人間であるが一人だけは近代から来ている。


・現代人である六人は、自分の戻った世界でそれぞれに世界が緩やかにつながり協力し合える道を模索し活動する。近代に戻った一人は持ち帰った知識を元に財を成し、現在では国際的な財団を立ち上げていて六人の活動を陰ながら支えている。


・国際連合解体後の国際連邦設立時に、異世界以来初めて七人全員が揃って対面する。財団を設立した近代から生きてきた一人(190歳)はそこで息絶えて後を六人に託す。


・どうして異世界人同士が自分で戦わずに召喚者を戦わせたのか?神が救おうとしていたのは異世界だけではなく現在の地球もだった。


・デリーターの魂は結衣の父、田中聡のそれである。しかしそのことに気が付いているのは聡だけである。魂は依り代から離れると、本来の持ち主の元へと還り記憶は残る。


・魔王は神の創造物でその魂は神が分け与えたものだった。トーナメントの後、彼は分け与えられた魂を自分のものとして、地球に転生している。以前の世界で自分が創造された意味を悟り、転生後の世界がいい方向に向かうように6人に協力することになる。


・トーナメントの優勝者が、自分の世界に戻って叶えてもらった願いとは…


※※※ 使いたい台詞


「結衣さんのいた世界では、国同士がいがみ合うなんてこともないんでしょうね」

「いやいや、七つどころか百以上の国に分かれて日々争ってますよ。大人じゃないから理由はよく分かりませんが、国同士で戦争をしているところもあれば、国の中で二つに分かれて戦っているところもあるそうです」


「『創造の魔導書』が無くても、想像力が力になる様なそんな世界を造って下さい」


「失敗したからやり直すなんて勿体ない。時間の流れは一方通行だから面白い」


「人生には無駄な事なんて何一つないよ。楽しいことも悲しいことも全てが神様のくれたボーナスみたいなもんだよ。あ、ボーナスは分からないかな?プレゼントみたいなもんだ」

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