チョコレート戦争1
【チョコレート戦争1】
『えっ、カカオの実がないって?』
『ええ、このところ入荷がストップしてまして』
『なんでかわかる?』
『噂なんですが、カカオの村が誰かに占拠されたんじゃないかって』
南の島の市場での出来事だ。
僕たちはすぐに現地の市場に飛んだ。
カカオの実を買いに来たのに、ないという。
店主の言うとおりであるならば、怒り心頭だ。
僕だけじゃない。
エレーヌもロベルトもカトリーヌも黒狼軍団も。
『場所のわかる人、いる?案内人を雇いたいんだけど』
『いいですけど、オタクさんら腕は大丈夫ですかい?』
僕は自分の魔法の腕と、黒狼軍団を見せる。
『ひぃぃ、わかりましたから、黒狼さんたちをどうにか』
◇
『こっから20kmほど離れたところにある村なんですけどね』
20kmならそんなに遠くない。
『人食い植物の繁殖地を通るんで、特殊な薬草が必要なんですよ』
ああ、初めてここに来た時に襲われたことがある。
あのときは必死に焼き払って、地面をガジガジに固めた。
二度と根付かないようにだ。
そして、その辺りに転移魔法陣の拠点を作ったのだ。
『人食い植物の繁殖地って広いの?』
『繁殖地っていってもところどころで密集している、という感じなんですが、それがずっと村の近くまで続きますね』
『ああ、そりゃやっかいだ。じゃあ、薬もらうよ』
『へい。5人分で大銀貨5枚』
というわけで、僕たちは案内人に連れられて
獣道より少しマシな程度の道を進んだ。
途中で人食い植物を見かけるたびに火魔法で焼却していく。
『はは。薬が意味ないですな』
『薬があるとわかっていても、気持ち悪いんだよ』
人食い植物は一見高さ5mぐらいの普通の木である。
ところが、動物がそばを通るとツルがすっと伸びてきて捕縛し、
ウツボカヅラのような垂れ下がった袋に押し込めようとする。
袋の中は強烈な酸が溜まっていて、あっという間に消化されてしまう。
この木の群生地(10体ぐらいだが)が数百Mおきに出現する。
森でテントを張ったりすると、寄ってきて食べられてしまう。
密集している食人植物は地下茎でつながっていて、
移動もできるそうだ。
移動するときは、根から切り離され、
新しい場所で新たに地下茎を伸ばす。
光合成もするらしく、植物なのか動物なのかわからない。
◇
『あそこの小高い丘を越えると村が見えてきます。ひとまず偵察がてらそこで休憩しましょう』
丘に陣取ると、村が一望できる。
特別変わったことはないようだが、
『坊っちゃん、兵士のような奴が数名いますね』
ロベルトは非常に目がいい。
目敏く、おかしな感じの人物を見つけたようだ。
『よし、ロベルト、僕についてきて。偵察に行こう。残りはここで待機』
僕たちは気配を消して村に近づく。
時間は真っ昼間。
王国の季節は秋なのに、ここは真夏のような暑さだ。
村のそばまで来ると、
『ちょっと中見てきます』
といって、ロベルトは村に入っていった。
ロベルトのステルス性は非常に高く、
普通の人だと、目の前を通り過ぎても気が付かないぐらいだ。
『わかりました。奥に村の広場があって、そこに兵士が常駐してますね。
確認できたのは、5人。どうします?』
『堂々と入村しようよ。攻撃してきたら、反撃』
『承知しました』
で、村に入っていく。
当然のように、兵士たちが集まってきた。
とても友好的な態度ではない。
『止まれ。どっから来た』
僕はこの辺りの現地語ができる。
その言葉で通じそうだ。
『カカオの実が欲しくて来たんだけど』
『カカオの実は俺たちが独占した。お前たちに売る分はない。帰れ』
『嫌だといったら?』
『こうだ。おい、やれ』
兵士たちは僕たちに剣を振りかざしてきた。
こういう展開を待ってました。
話が早くて助かる。
◇
『で、お前たちの上司はどこにいる?』
ロベルトと僕とであっという間に兵士を制圧する。
ソリッドエアで固く捕縛した。
彼らの顔が大変なことになっている。
『くそ。甘く見すぎたぜ』
『あのさ。話を早くしたいんだよね』
僕は、例によってアース・ジェイルを発動し、
兵士を片っ端から檻に放り込んだ。
『ウガガ!頼む、これ以上この暗闇に入れないでくれ!』
『素直に話せば問題ないよ?』
『ああ!シャベルから!』
彼らは、この村の東にある集落からやってきた。
集落というか、3000人ほどの村だから、
小規模な国と言ってもいいかもしれない。
最近、カカオの実が人気があるのを知って、
独占しようとしたのだ。
裏に王国の商人とかがいるということはないようだ。
『わかったよ。じゃあ、君たちの村に案内して』
行く必要はあんまりなかった。
緊急事態を察した兵士の一人がこの村から逃げ出し、
応援を呼びに行っていたのだ。
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