実践魔法講座
【実践魔法講座】
『実践魔法講座、実践と名付けてるだけあって、魔法の応用編なんでしょ』
『というかね、カトリーヌ。基礎を再確認するかもしれない』
『再確認?』
『この講座は訓練場での魔法練習じゃなくて、フィールドでの魔獣・魔物退治を目的としている』
『冒険者活動みたいね』
『そうだね。前期目標としては、一角兎を狩ること。3年生はもう少し強い敵を相手にするけどね。サブ目標としては、魔力向上と戦闘時における精神力の保ち方』
『敵と正対したときに慌てないように、ということね』
『そうだね。フィールドではそれが一番大切。能力があっても慌ててしまって力を出しきれない、という人は多いからね』
『ああ。私も大蛇と対峙したとき、頭が真っ白だった』
『カトリーヌは反撃しただけ大したものだよ。ああいう局面でもしっかりと魔法を放つことができるか。それが大事』
『だから基礎の再確認?』
『そうだね。いかなる場合でも基礎通り100%の力を出せるか』
『コツとかあるの?』
『索敵、先制攻撃を徹底することだな。それが基本。だけど、なかなか上手くはいかない。突然の敵の攻撃への対処方法は反復練習、そして場数を踏むこと』
『近道なんてのはないのね』
『うん。だと思うよ。でもね、僕特製の盾をもってもらう。ソリッドエアの結界が張られるから、一角兎程度なら攻撃を受けても全く問題ないよ。むしろ、兎がダメージを負うぐらいだから』
『気持ちを落ち着かせて攻撃できるわね』
兎といえども非常に凶悪なのだ。
前世日本の可愛い兎の面影なんかどこにもない。
目は三白眼だし、牙を立ててこちらにつっこんでくる。
一角兎の持つ角は非常に鋭い。
あれに突かれると、簡単に体を貫通するし、
当たりどころが悪ければ、即死する。
雑食性で、奴らにとって人間は晩ごはんとみなされている。
一般的には一角兎を見たらすぐ逃げろと言われている。
逃げるも何も、兎に見つかったらダッシュで襲われる。
だから、逃げるのは木の上とかになる。
そこから弓や魔法で撃退することになる。
その両方の攻撃方法がないものは、万事休すだ。
もっとも、そういう人たちは森に入らない。
◇
『森に入るときは、団体行動をすること。これは絶対に守るように。この授業ではスリーマンセルで行動してもらうよ。探索魔法の発現している生徒を中心に班編成している』
探索魔法を発現する生徒は結構いる。
ただ、距離が問題だ。
最低でも50mぐらいは欲しいが、
そこまでの生徒は数少ない。
だから、1年かけて距離を伸ばしていく。
『ただ、いきなりフィールドに出るわけじゃないから安心して。最初は学院の訓練場で練習するから』
この際だから、学院に許可をとって、
学院の訓練場を改装した。
ソリッドエアの結界で壁をガチガチに固めたのだ。
僕が少し強めに魔法を発動すると壊れてしまうからだ。
僕がスネーク・スレイヤーという二つ名を持つことは、
新入生にも広がっていた。
この講座は1~3年全学年が対象だが、
1年生でも人気の科目のようだ。
ただ、1年生の場合は選別試験がある。
とりあえず、入試の魔法成績のいい順に
10名の定員を設けた。
成績優秀者なので、イキっている子もいる。
だけど、入試の成績など一時の評価に過ぎない。
カトリーヌとかボンズは安定の成績優秀者だけど、
そういうのは珍しい。
で、生意気な新入生がいた。
見るからにヤンチャそうな男の子だ。
『先生、スネーク・スレイヤーとか言われているんですが、本当にそんな実力あるんですか』
『さあ、どうだろう』
『ちょっと見せて下さい』
『ていうかさ、君、魔法の自信がありそうだね。僕に君の得意な魔法を打ち込んでみない?』
『何言ってるんですか。僕の魔法はオリジナルで防げませんよ?下手したら死にますよ?』
『いいから。そのオリジナルで攻撃してごらんよ。僕の防御を突破できるかみてあげるよ』
『先生、イキりすぎ。どうなっても知りませんよ』
こういうイキリ系は最初に叩くに限る。
ボスザルと同じだな。
僕は長年の修行で、相手の実力がある程度想像できる。
魔力の高さは身にまとうオーラになって現れる。
中にはオーラを隠す人もいるが、
そういう人のオーラは不自然なので、
やはりある程度の実力の推測が可能だ。
『ゴニョゴニョ』
新入生が魔法の詠唱を始めた。
詠唱をするのは珍しくない。
特に、大技の場合は詠唱を伴うことが多い。
でも、近接戦闘では詠唱など全く使えない。
遠距離からみんなに守られた環境で
せーので魔法を発動するだけだ。
前世の自走榴弾砲みたいなものだ。
『ゴニョゴニョ……発動!あれ?』
出てくるのは一筋の煙だけだった。
僕にはリバース・エンジニアリングという技がある。
相手の発現した魔法を即時に読み取る技だ。
読み取れば、その魔法を消すこともできるし、
魔法式を書き換えることもできる。
僕がその魔法を発動することも可能だ。
『どうした?自慢の魔法が発動されんぞ』
『そんな。もう一回!』
『また、詠唱か?君、そんなことしてる間に何回も死ぬことになるぞ?』
『!ゴニョゴニョ……発動!』
彼の上方で膨れ上がる魔法の塊。
今度は彼の魔法を邪魔せず、魔法を受けてあげた。
『どうだ!えっ?』
魔法の詠唱時点でどの程度の威力の魔法が飛び出すか、
僕には予想できた。
この程度では僕の素の魔法防御力を突破することはムリ。
『あのね。君のオリジナル魔法というが、発動式のところどころでエラーを起こしていて、満足な威力を取り出せていないよ』
『なんだと?』
『まあ、見てご覧。君の魔法を改造して再現するから』
僕は彼の魔法を僕の上方で展開した。
『さて、これが君の魔法の完全版だ。あとはこの魔法を発射するだけだけど。受けてみる?』
僕の上には彼の10倍以上もある魔法の塊が
膨れ上がっていた。
火の色も青白い。
明らかに危ない温度になっている。
地面が溶け始め、陽炎が立ち上る。
『!』
新入生は顔面蒼白だ。
『みんな、ちょっと地面に体を伏せるように。今から発動するから』
あわてて、地面に伏せる受講生たち。
僕はそれを見届けて、上空彼方に魔法を発射した。
『ドガーン!』
強烈な爆音とともに爆風が降り注ぐ。
地面に伏せていても体が吹き飛ぶような威力だ。
『君のオリジナルというか、火魔法火球の応用技だね。それでも、独自性は認められる。なかなか大したものだ。しかし、もう少し発動式を検討したほうがいい』
『先生!一生ついていきます!今の技、教えてください!』
おお、この変わり身の早さ。
まあ、僕はイキっている子は嫌いじゃない。
彼の名前はジョーイと言って、
新入生の主席だそうだ。
彼の素直な態度通り、実力を飛躍的に向上させ、
やがて僕たちの陣営に入ってくることになる。
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