正妻と次男6
【正妻と次男6】
『奴について、とんでもない噂が出ています』
『なんですか』
『イエローボア3頭をたった一人で瞬時に排除したそうです!』
『その噂の信憑性は?』
『イエローボアは学院の裏山での演習中に出現したそうです。目撃者数名と、大蛇の死体が確認されています』
『裏山にイエローボア?そんな危険な場所なのですか?』
『未確認ですが、“闇のもの”のテイマーの独断との情報があります』
『まさか。領境で襲撃させたテイマーの関係者ですか?』
『はい。師匠筋ではないかと。テイマーも消息不明です』
『ああ、復讐とでもいうのですか。なんとウェットなことを……』
『それだけではありません。奴は学院のアニエス教授と画期的な発明品を開発しているという噂もあります』
『アニエス教授。学院の、というよりも王国の誇るスーパーレディですね。画期的とは?』
『残念ながら、内容までは。以前の暗黒魔法使いの件で、調べるのが難しくなっています。ただ、その教授と組んで、学院の食環境を次々と改革しているそうです』
『食環境?それがそんなに凄いことなのですか?』
『王国の食水準からは隔絶した物凄い料理が出てくるそうです。母上、評判の高いお菓子を手に入れました。チョコレートなるものです』
『チョコレート?まあ、なんて香り高い……うそっ、甘さと苦さが見事にハーモニーを奏でているわ!』
『いま、学園都市のみならず、王国を席巻し始めているお菓子です。それはまだ序の口です』
『これで序の口というのですか』
『はい。入り口としてクッキーや飲料、そのチョコレートがあるのですが、それが味わって頂いたようにかつて経験したことのない美味しさ。さらに、様々な宝石のような色とりどりのケーキが展開され、その頂点にザッハトルテなるチョコレートケーキが控えているそうです』
『ザッハトルテですか。手に入れられないのですか』
『そんなレベルではありません。今、王国中の貴族・富裕層はこぞってそのザッハトルテなるお菓子に群がってなんとか手に入れようとしております』
『なんと』
『1ホール金貨1枚の高額商品にも関わらず、あっという間に3ヶ月待ちの予約が殺到し、今は予約ストップ状態です』
『3ヶ月の予約まちで、予約ストップですか』
『はい。状況は奴らが開いたラテンス・ロコなる高級レストランでも同じ状況らしいです』
『予約が殺到しているということですか』
『はい。掛け値なしに天に昇る美味しさということです』
『信じられませんね』
『それだけではありません。奴の料理を支える食材の生産業者。これも奴が深く関係しており、学園都市の周囲に生産者ネットワークをつくりあげている模様です。これで学園の食堂、ラテンス・ロコ、お菓子屋を支えるのみならず、周囲の食環境をバク上げしているという噂です』
『ネットワークですか?ギルドが怒るのではありませんか?』
『母上、そこです。まず、ネットワークは意識的にギルドを排除しています。奴の料理が素晴らしすぎて、市民の強い支持を受けており、ギルドは手を出せないようです』
『なんと』
『しかも、これも噂ですが、奴には陰の軍団が控えているようです』
『陰の軍団ですか?』
『はい。諜報部門と暴力部門があるようです。諜報部門は、何やら不思議な魔道具を駆使して、学院や学園都市の闇を入手している模様です』
『不思議な魔道具?』
『詳細は不明ですが証拠固めの魔道具という話です』
『証拠固めの魔道具ですか』
『暴力部門は、多数の黒狼を使役しているようです』
『黒狼ですか?そんな獰猛な魔獣を?あれにはテイマーのスキルもあるということですか?』
『そこはわかりませんが、話をする黒狼が目撃されております。森のボスクラスだと言われています。
その黒狼軍団がやつの料理に心酔しているという証言もあります』
『たった1年少しでそこまで影響力が』
『はい。ギルドだけではありません。学園都市を牛耳る大商人たちにも動揺が広がっています』
『ギルドや大商人たちは指をくわえているだけなのですか?』
『奴の闇活動で彼らの後ろ暗い証拠を握られ、実力行使をしようにも黒狼が出てくる、しかも奴自体が恐ろしいほどの実力の持ち主で太刀打ちできないそうです』
『そこまで?』
『しかも、奴はアニエス教授と太い繋がりがあります』
『学院の陰の学院長と呼ばれていますね』
『ええ。権勢は学園都市全体に及んでおります』
『うーん。下手をすると、既存勢力を駆逐する勢いではありませんか』
『あくまで噂レベルなのですが、学園都市の5大商人のうちの一つが奴によって潰されたという怪情報が広まっています』
『なんと。これは本当に思い切った手をうたなくてはなりませんね』
『思い切ったですか』
『ええ。今まで長年にわたりあれには様々な妨害をしてきました』
『はい。毒殺、狙撃、待ち伏せ、実家への攻撃などですね』
『ことごとく上手くいきませんでした。あれはますます存在感を増しています。私の想定を遥かにこえて。闇のものにしても、いつのまにか半壊させられております』
『どうなさるのですか』
『私も規格外の行動を取らざるを得ません』
『規格外?』
『この先は私にまかせなさい』
『わかりました、母上(学院での暗黒魔法騒動。おそらく、母上が背後にいる。それ以上の策をとるというのか?)』
『許せません。あのものの子供がのさばるようになるなど!』
『!(母上のキレポイントは奴の母親に対する嫉妬なのか?母上の目がおかしいぞ)』
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