市民の反応
【市民の反応】
『おい、あの食堂、聞きしに勝る美味さだな!』
『おお、ついにおまえも“ラテンス・ロコ”デビューしたか』
『ああ。予約してから2ヶ月。カレンダーに丸をつけて、忘れないようにして』
『忘れようがないけどな』
『うん。あれだけ周りが大騒ぎするんだ。そりゃ日一日と期待が高まるわ』
『で?』
『おお。期待しすぎて、実際は……ていうことはよくあるよな。俺もちょっと懸念してたんだが』
『うむ。あるあるだな』
『まずさ、食堂の雰囲気がおかしい。普通、食事なんてみんなとワイワイしながら楽しむもんだろ?』
『ああ』
『ところが、みんな一言もしゃべらずに料理に熱中してやがる。食べ終えた連中はボーっとしてやがる。ちょっと引いたぜ』
『うん』
『しかしな。料理が来てだ。香りにうっとりし、一口食べたら、意識が飛んだよ』
『そうそう』
『気づいたら、食べ終わってた』
『俺と一緒だ。で、腰が蕩けて立ち上がれないと』
『ああ。しばらく桃源郷の世界に彷徨っていて、ありゃドラッグなんてもんじゃないな。周りが大騒ぎするのがよくわかるよ』
『うむ、まったく。でも、予約を中止してるんだよな』
『ああ。予約殺到で捌ききれないらしい。3ヶ月後に予約を再開するらしいが、どうなるんだろうね?』
『新たな手をうたないと、大混乱になるな、間違いない』
『お菓子屋さんもできたろ』
『“ドルチェ”な』
『あれがラテンス・ロコを上回る衝撃だそうだな』
『ああ。俺の親戚の娘が引きこもりで困ってたんだが、あの店のお菓子を食べたら即ハマって。毎晩徹夜で並んでたらしい。今は予約制になってしまったが、あの高価なお菓子を買うために働き出したそうで、親戚は大喜びだぜ』
『そんなに美味いのか』
『まず、高級食材である砂糖が豊富に含まれている。で、その割に安い。少なくとも、手の届く価格が多い』
『クッキーとかだろ』
『そのクッキー、俺も食べたんだが、今まで体験したことのないような、サクサクしっとりとした味わいだった。小麦とバターの香りも凄くて、俺らの頭に浮かんでくるクッキーと同じジャンルのお菓子とは思えない』
『他のケーキとか炭酸飲料とかも味わったことのない美味しさだそうだな』
『だな。特にチョコレートなるものも評価が爆上がりしてる』
『苦くて甘い、品性の高い香りをまとうとかいうお菓子だろ』
『ああ。特に、ザッハトルテとかいうケーキ。1日1ホールしか販売していないが、これを入手するために金持ち連中が大騒動してるってよ』
『残念ながら、金貨1枚(※約10万円)するからな。流石に俺たち庶民では手がでん』
『金持ち御用達だな。金貨10枚でも払う、っていうのがたくさんいるらしいぞ。社交界とかお茶会では、あのチョコレートケーキを出すか出さないかで格が上下するらしい』
『娘とか奥さんとかにどうにか手に入れて、と旦那さんが懇願される家庭が多いらしいが、あそこコネとか受け付けんらしいな』
『そこよ。かなり徹底しているらしい。店にも注意事項が掲げられているんだが、下手に身分や金でゴリ押ししようものなら、出入り禁止らしいぞ』
『王家のお坊ちゃんが主催してるんだ。地位とか金とか、そんな下品な真似する奴がいるんだな』
『ああ。一端、出入り禁止されると復活はしばらくムリらしくて、夫婦喧嘩、親子喧嘩が絶えんそうだ。なんで、そんなバカなマネするのよって』
『一応、食堂にはVIPルームがあって特別枠で迎え入れられているらしいけどな』
『あそこは坊っちゃんの関係者専門の部屋って話だぞ』
『なんだよ、公私混同かよ』
『ははっ、批判なら直接食堂に言えよ。そもそも、店は客を自由に選べるんだからな』
『はあ?お客様は神様じゃないのか?』
『なに、妄想してんだよ。それは店側の心構えの話であって、客側が振りかざすものじゃない。それに、客と店は対等。客が店を自由に選べるように、店も客を選べる。不合理な理由じゃなきゃ問題ない。一種の契約だからな』
『現状では、客はあの店を選びようがないけどな。文句のつけようがない』
『はは。ところで、あのお坊ちゃんに関しては、腕っぷしの強さは有名だが、黒い部分も噂されてるよな』
『ああ。歯向かったりすると、倍返しされるって話だよ』
『有名なところでは、坊っちゃんが飼ってる黒狼。森のボス格で軍団は千体以上いるってよ』
『暴力だけじゃないぞ。やけに情報収集が上手くてな。例の“闇のもの”を上回る探偵力があるという噂もあるぞ』
『“闇のもの”って最近活動がおとなしいって話だよな』
『ああ、噂を聞かなくなったな』
『坊っちゃんとこがすり替わったりしてな』
『バカ、冗談でもそんなこと言うなよ』
『おお、今のなしなし』
『まあ、小さな声でしか言えないが、やりすぎって感じもするけどな』
『若いし、政治的な動きとかは苦手なんだろうか』
『必要ないだろ。料理を握っているのは坊っちゃん。5男とはいえ王室出身。背後にアニエス教授』
『うむ。坊っちゃん自身も相当な実力者だしな。坊っちゃんはかなりの金持ちらしいし、腕力はおそらく王国一。裏の動きも封鎖できる。坊っちゃんはなにか積極的に悪さするわけじゃなくて、料理出してるだけだしな。敵は徹底的に叩くってだけだ』
◇
『予約再開の話なんだが、食材増産の目処が立ち始めているらしい。なんでも、周辺の村々と次々と契約をかわして、食材増産に躍起になってるってよ』
『ほう』
『学院の食堂改革が第一だそうだが、合わせて一般市民が楽しめる食堂も開設する計画があるんだと』
『俺たちも気軽に行ける店ってことか?』
『ああ。値段もそのあたりの一般食堂なみだって話だぜ』
『そりゃ楽しみだが、ギルドとか黙ってられんだろ』
『そこよ。この一覧の流れ、もともとは美味い飯を食いたい・食わせたいっていう、あの坊ちゃんの気持からでたんだが、そうなると分厚いギルドの壁がある』
『だよな。学園都市は自由な都市を標榜しているのに、食品関係のギルドだけで25もあるってのはおかしすぎるだろ』
『ああ。でだ。アニエス教授と相談して、徹底してギルドを迂回しようと』
『喧嘩うったわけだ』
『その通り。実際に店を開いてみたら、客が殺到してる。学院の中だから、文句もいえねえ。文句つけようものなら、市民の反発が待ってる。裏で手を回そうとしてみろ。坊ちゃんの反撃だ』
『5大商会の一つが収賄その他の非合法活動で潰されたろ』
『商会長以下幹部連中が炭鉱送りになったやつな』
『あれの裏に絡んでるのが、お坊ちゃんだって噂もあるよな』
『ああ。あの件で一気に坊ちゃんへの認識が変わったよな。商会の黒い情報を掴んでいたって話だよな』
『どうやったら、そんな重要情報を入手できるってんだ?』
『坊ちゃん自体が得体の知れない魔法を使うらしいしな』
『神の子って二つ名もあるから、天から見えるんじゃねえのか?』
『大商会にとっちゃ、悪魔の子だけどな』
『はは』
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