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美味しい食事を2 その思惑

【美味しい食事を2 その思惑】


『お坊ちゃま、アニエス先生との話し合いはどうでしたか?』


『ああ、学園都市はかなりやっかいなところだったよ』


 僕は、エレーヌとロベルトに説明する。


『食堂開くのに、ギルドが25も?それ、何かの冗談ですか?』


『学園都市って、自由都市の触れ込みなのに、王国で一番閉鎖的ってのもおかしな話ですな』


『うん。これはアニエス先生も長年頭を痛めているところらしくてさ。この国の料理を変えたいのなら、食材だけじゃなくてギルドや大商人をどうにかしなくちゃいけないって』


『はあ、話が大きくなりますね』


『今は時期尚早だから、まず学院で試して見ようということになったよ』


『学院で自由にできるんですか?』


『アニエス先生が根回ししてくれるらしい。それと、学院の敷地内は学園都市とは政治系統が違うって』


『ああ、大商会とかギルドが口をはさめないわけですね』


『そうなんだよ。それと、僕はよく知らなかったんだけど、アニエス先生はこの学院でかなりの力があるみたいだね』


『ああ、それは私も聞いています。陰の学院長とか言われていますな』


『へー、そんなに。でね、とりあえず学院食堂の改革と、学院にお菓子屋を作ったらどうかという話になったよ』


 アニエス先生の言葉どおり、学院内で根回しをしてくれた。

 学院内での会議で、ハンバーガーとチョコレート、

 それと炭酸飲料を配って了解をしてもらった。

 みんな、両手を上げて賛成してくれたという。


 ◇


『改革はまず肉ですよね』


『だよね。僕たちもお城でまず肉の改良から始めたよね』


『学院の肉は特にニオイが酷いですな』


『ああ、半分腐った保存肉とか塩漬け肉を使うからね。味も悪いし、健康にもよくないよ』


『それと、パンですか』


『学園のパンは雑穀パンだよな。それ自体が悪いわけじゃないけど、せめて焼きたてを出してほしいよね』


『でも、一番の問題は人数でしょ』


『うん。学院は生徒数・教職員数合計で約500人。訪問者もいるし』


『朝昼晩毎日、というのは大変ですな』


『ああ、しかも料理を改良したらみんなが食堂に殺到するのは目に見えているし。下手すると、訪問者じゃない訪問者がどっと増えるかもしれない』


『食堂目当てに学院に来るということですか』


『ありえますな。元E組の子など、去年の夏が終わった時に土下座する勢いで懇願してました』


『ああ、あれ以来、夕食は僕たちが作ってる』


『私達が初めて学食を利用したとき1mmも食べられなくて、結局ハンバーガーかなにかを取り出して食べてましたものね』


『うん、そうだった』



『食材の納入業者は一から選び直しだな』


『現状の業者はほとんど切ることになりそうですな』


『ああ。特定の教職員と絡んでいる奴もいるし、掃除がてらになるね』


『賄賂とかもらってる人多いんですか?』


『私の調査では数名だね。細かいのを入れるともっと多くなるかもしれないが』


『第1候補はお祖父様のところになるけど、増産をお願いしても、500人分の食材はとてもムリ。だから、アニエス先生に農家を紹介してもらうことにしたよ』


『学院御用達の生産農家を増やすわけですか』


『うん。お祖父様の領地でやったようなことを方々で展開していくつもり』


『となると、軌道に乗るのは早くても半年後ぐらいですか』


『だね。当面は余所から小麦粉を買って製粉・製パンだな』


『それでもパンは格段に品質があがりますね』


『一応、納入業者はオープンにするつもりだけど、まあ僕絡みのところ以外は駄目でしょ』


『コネ優遇などという誹謗中傷が出そうですものね』


『うん。だから、僕絡みの業者がどれだけ品質の高い食材を生産しているか、よーく見せつけるつもり』



 生産者候補1は、お祖父様の領の増産。

 お祖父様の領は昨年の夏以降、

 ようやく村の経営が波に乗ってきたところだ。

 すでに農産物の引き合いも多く、

 いつでも増産体制に移行できる。


 しかし、それでも500人以上の胃を満足させるには、

 村一つだけでは心許ない。

  

 そこで、アニエス先生に農家を紹介してもらった。

 全員、先生の教え子で当然学院のOBだ。

 大農場経営者であり、貴族かまたは富裕農家である。

 もちろん、ギルドに関係のないことも選出理由になる。



『アニエス先生との話し合いでね、上手く生産者ネットワークを作り上げられないか、という話が出てね』


『ああ、ギルドや大商会を迂回しようと』


『そうそう。紐付きの生産者だとめんどくさいし、意図的にギルドや大商人関係をハブっていこうかなって』


『わかりやすく対決していくわけですか』


『うん。政治的な軋轢はアニエス先生にまかせるとして、拳的なものは僕たちが担当』


『ああ、坊っちゃんの得意なジャンルですな』


 いや、得意ってわけじゃないんだけど。


『だからね、特にカトリーヌ。君も気をつけてよ』


『えっ、私も?』


『ああ。君も僕たちの関係者だって思われているからね』


『えっ、そうなの?なんだか、嬉しい』


 いや、喜ぶとこ違うだろ。

 でも、彼女はほぼ毎日のように僕たちと一緒にいる。

 カトリーヌは僕の嫁、と勘違いするのもいて、

 前まではげっそりしてたけど、

 最近は少し嬉しかったりする。


 なぜって、前世は彼女いない歴=年齢だったし、

 今世でも女性には縁遠い毎日を過ごしているから。


 カトリーヌも昔は僕に攻撃的だったけど、

 気心もしれてきたし。

 

『カトリーヌには、特別製の防具をつけてもらうから』


 ソリッドエアを仕込んだアンダーウェア的なもの。


『それと、黒狼』


『私専用の黒狼?』


『担当は毎回違うかも』


『専用をつけてよ。名前つけるから』

 

 ということで、カトリーヌ担当は黒狼の間でかなりの競争率になった。

 何しろ、彼女のお菓子製作技術はバカ高くなっていて、

 おこぼれもらい放題になるからだ。

 噂によると、血で血を争う抗争が勃発したらしい。


 ◇

 

 先生紹介の農家らにはすぐに打診した。

 中身はお祖父様でしたことのような農業改革についてだ。

 すぐに非常に前向きな反応をもらった。


 それにはまず、アニエス教授の信用がある。

 王国でもトップレベルなのだ。


 さらに、僕の作った様々な料理。

 これらを食べさせたところ、食いつきがすごかった。

 生産農家としても、単なる消費者としても、

 僕の料理、例えばハンバーガーは未知の体験に近い。


 その彼らに、

 魔石飼料、魔石肥料、各種魔導農機具を見せる。

 耕運機、播種機、肥料撒き機、刈取機などだ。

 もちろん、魔石の格安配布も行う。


 更に、お祖父様の領見学だ。

 例えば、小麦。

 以前はha2kg強の生産効率であった。

 それが今では7kgに増加した。


 量だけではない。

 明らかに食味も大幅に向上している。

 魔道具を使うため、省人である。

 

 極めつけは、マジックバッグと転移魔法陣である。

 馬車でごとごと何日もかけて農産物を運ぶのではなく、

 自分の身一つであっという間に長距離を転移する。


 これらを見せる度に彼らの瞳は輝いていった。

 大げさでなく、農業史・文明史の大転換点にいることが

 実感できるのであろう。



『では、僕たちと鉄の誓約を結びますか?』


 話の導入で鉄の誓約をしてもらっているが、

 これは正式な契約だ。


『もちろんです』


『ああ、ひょっとしたら何らかの攻撃を受けるかもしれませんが、黒狼を3体つけますから』


 そういって、黒狼を地面から呼び出すと、

 100%、みんな腰を抜かしてしまう。


『だ、大丈夫ですか?』


『敵意を持たなければ。普段は地下に隠れていますし』



 こうして彼らと鉄の誓約を結び、

 小麦増産、小麦製粉、養鶏、養豚、養牛などを進めていく。


 このうち、すぐに準備できるものは製粉。

 小麦を購入して、製粉から始めてもらう。

 魔道具を使った製粉であり、王国最高級の小麦粉。


 次は養鶏。

 卵を生み始めるまで半年。

 養豚・養牛は1年以上かかる。


 今年は肉は間に合いそうにない。

 だから、食堂改革はまずパンから始めた。



ブックマーク、ポイント、感想、大変ありがとうございます。

励みになりますm(_ _)m

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