チョコレートづくりは重労働
【チョコレートづくりは重労働】
僕は定期的に重曹を取りに行く。
森の奥だけど、転移魔法陣で行くからあっという間。
で、一部は馴染みの薬師に卸している。
その薬師の薬局に行くと、なにやら見慣れたものが。
『ねえ、この実。チョコレートの実じゃない?』
『いや、カカワトルの実だよ』
だけど、匂いを嗅げばチョコレートの匂いがプンプンする。
『これ、どうするの?』
『心臓病、脳卒中に効くという話。はっきりとはわからないけどね。あと、実が上品な甘さ、種は香りがいい』
『いくら?』
『金貨5枚』
『高いね』
『採取する場所が南の海の向こうだからね。殆ど、運送費だよ』
『売れてる?』
『ダメだな』
『あのさ、これ買うから入手先を紹介してくれないかな』
『直接取り引きするんか?』
『いや、南の島に行ってみたい』
『変わってんな。いいよ』
◇
まずは、チョコレート作り。
実からチョコレートを作るのは、一度だけ見たことがある。
たまに散歩に訪れていた自然公園の植物園のイベントで、
チョコレートづくりの実習をやっていたのだ。
大変そう、という感想を持っただけで、
正直、記憶に残っていない。
バレンタインデー手作りチョコで失敗する話はよく聞く。
(そんなに大変なのか?)
自分の手でやってみたら、想像以上に大変だった。
チョコレート製作は、“料理人”のレシピ頼み。
カカワトル(カカオ)の実は、もともと赤い。
今は枯れて赤茶色だ。
形はフットボール。
中に白い果肉(カカオ豆)が数十個並んでいる。
白い果肉は、あっさりした甘味で、
私見ではライチに近い味だ。
これを木の箱にいれて発酵させる。
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発酵させたら、乾燥。
風魔法魔道具で行う。
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生育の不十分な豆を弾き、
豆を丁寧に洗う。
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洗った豆を焙煎する。
温度は120度ぐらい。
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殻と胚芽を取り除く(カカオニブ)。
胚芽を取り除くのが大変。
慣れてきたので、風魔法で取り除く。
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そして、一番たいへんな作業。
上記カカオニブを砕き、すり潰す。
砂糖とバターも入れ、ひたすらすり潰す。
でも、これは人力では無理。
5時間を作業にあてても、ザラザラだった。
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だから、ここは魔道具に頼る。
魔道具自体は単純なものだ。
構造は、前世のミキサーを参考にする。
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そして、次も大変。
手作りチョコレートでも失敗する工程、
テンパリングだ。
↓
チョコレートの温度を上げて、下げて、また上げる。
その温度管理が繊細で、これも人力では難しい。
①チョコレートを50度強の湯煎で溶かす。
②①を冷水にあてて、ゆっくりと28度ぐらいまで下げる。
③②を31度強まで温め直す。
テンパリングをしないと、固まらなかったり、
表面が白っぽく艶のないチョコレートになってしまう。
風味や口どけも悪くなる原因となる。
この作業のために、急遽温度計を作る。
ガラス管にアルコールを入れ、
アルコールの温度による膨張・収縮により、
温度を測るわけだ。
テンパリングの難しさは、チョコレートの配分により、
適正温度が変化することだ。
◇
『これがチョコレートなのですか?すっごくいい香り』
『甘くて苦いですな。でも苦さが癖になる』
正直、僕はチョコレート作りなめてた。
こんなに根気のいる繊細なものだとは思っていなかった。
魔道具なしでは絶対完成できない、と断言できる。
『あのさ、チョコレートの試作第1号。まだまだ美味しくなる予定。だから、カカオの実をもっと買って、みんなで自作に挑戦するぞ』
『おおー!』
◇
というわけで、僕は今、洋上にいる。
南の島へカカオの実を買いに出かけたのだ。
お供はロベルト、エレーヌ。
そして、何故かカトリーヌ。
『貴方がお菓子の王様が見つかった、ってはしゃぐからよ。その試食会にどうして私がハブにされたの?納得できないわ。私がここにいるのは、貴方のせいよ』
カトリーヌは今や1週間のうち、
平日の放課後はほぼ毎日僕たちの家にいる。
たまたま、チョコレート自作日に
彼女がいなかっただけなんだけど。
それに、次の日にチョコレートあげたのに。
もっとも、カトリーヌとしてはルオハンの実採取で
戦力外とされたのが悔しかったのである。
それ以来、僕たちと朝のランニングに取り組んだ。
僕たちどころか、旧E組の子たちよりも脚が遅くて、
大ショックを受けていた。
数ヶ月後、なんとかE組の子についていけるようになり、
合わせて冒険者としてもランクがDになった。
冒険者のランクはFから始まり、通常Dで頭打ちとなる。
C以上はかなりの才能がないと到達できない。
つまり、冒険者Dクラスは一般人の最高レベルだ。
それに、何と言っても学院2年の主席様だからな。
戦力として数えることができるだろう。
それにしても、のどかな海だな。
往々にして海は荒れてたりするんだけど。
冬の日本海なんて荒れ狂ってたぞ。
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