ルオハンの実2
【ルオハンの実2】
さて、滝を登った。
急に植生が違ってきた。
下はうっすらとした森林だったのが、
ここでは木の高さが低い。
空も見やすくなるが、その分、空からこちらを発見し易い。
『エレーヌ、ロベルト、ここからは盾装着で安全を確認しながら向かうよ』
『『了解!』』
川沿いを慎重に歩んでいく。
『上空から飛行物体3体』
ロベルトの警戒が小声で鳴り響く。
さっそく奴らに見つかって、攻撃しようとしてくる。
僕は、3体のワイバーンを認識すると、
すぐに風魔法風刃を6つ用意。
ワイバーン1体につき、2つずつ攻撃するためだ。
『風刃!』
風刃が発射された。
一目散にワイバーンに向かっていく。
4つが直撃。
1体は直撃を交わしたが、甘い。
そのまま風刃がワイバーンを追尾。
そのまま、ワイバーンの首を切り落とした。
『お見事!』
だが、そこからが大変だった。
仲間がやられたことを知った他のワイバーンが、
大挙してこちらを襲ってきた。
一体、いくつのワイバーンを落としたのだろう。
いくつかは、僕の攻撃をくぐり抜け、
肉薄して盾に遮られていた。
直後に、ロベルトやエレーナの攻撃がワイバーンを貫通。
『ふう』
数十体のワイバーンを撃ち落としたところで、
ようやく攻撃が収まった。
まだ遠くを飛んでいる。
が、あきらめてくれたようだ。
ま、こちらは奴らの縄張りへの闖入者。
攻撃されても文句は言えないが、
攻撃されたら、やっつけるしかない。
ワイバーンの討伐証明としては
ワイバーンの目と尻尾を入手すればいいが、
もったいないので討伐した全てをそのまま持ち帰る。
単純にワイバーンを食べてみたいからだ。
淡白で美味しいらしい。
◇
特選ミックスジュースを飲みながら、
少し休憩する。
僕とロベルトは、
水牛ミルクにマンゴーのような味のアームラと
ラズベリーを混ぜたもの。
エレーナは、リンゴジュースをベースに、
オレンジを加えたもの。
『ファー、生き返りますねー』
今は初夏で、山の方だと言っても気温は30度前後ある。
流れ出る汗を拭きながら、
『今までで一番の強敵だったよね』
『ですな。普通のパーティだと手におえんでしょうね。強力な対空能力がないと無理です』
さて、そこからは順調だった。
川から少し森の中に入るだけで、
そこはルオハンの木だらけだった。
ルオハンの実は真っ赤である。
だから、視認しやすい。
一つとって食べてみる。
『なんだか、凄い純粋な味がしますね。清らかっていうか。苦味とか全然ないですし、甘みも柔らかいですね。とっても上品』
エレーヌの言うとおりだ。
前世でいうと、和三盆に近いかもしれない。
『でも、すっごい甘いですよね。何にもしてないのにこの甘さだと、精製したらどれだけでしょう』
確かに、かなり甘みの濃度が強い。
実だけでも精製したシーラ糖と同程度の甘さがある。
◇
適当な場所に、転移魔法陣用の地下室を作る。
魔法陣はバージョンアップしている。
なんと、魔法陣を複層式にしたのだ。
従来が直径10mほど必要だったのに対して、
複層式では直径2mにまで小さくできる。
この魔方陣を使い、無事学院に戻ってきた。
まずは、学園都市の冒険者ギルドへ。
解体所でバッグからワイバーンを取り出すと、
歓声が沸き上がる。
『おお、ワイバーンまるごとか。凄いな、マジックバッグ持ちかよ。羨ましいね』
ワイバーンは大きなテーブルの上に置いた。
『血抜きはできてるか。見事な手際だな。1時間後に来てみてくれ』
僕のスキルには“吸血”というのがある。
触った対象の血を抜き取るスキルだ。
ただ、数秒は触る必要があるので、
攻撃には使いづらい。
僕たちは、その時間を利用して、
他の魔物の討伐証明を受ける。
グレイウルフ(耳) 48体。
グリーンスネーク(目) 1体。
ビッグタランチュラ (目) 3体。
ワイバーン 21体。
これには、ギルド内が騒然となった。
特に、ワイバーンが山のように積まれた光景には、
皆が唖然とする。
『おいおい、森の魔物がいなくなる勢いだな。どこの軍隊なんだよ。おまえらの戦力、半端ねーな』
ギルド長まで出てきて、ちょっとしたお祭りになった。
『ワイバーンか。全部、売ってくれるんか?』
『売れる?』
『当たり前だろ。入手困難な上に、肉は大変美味だ。1頭金貨50枚(約500万円)だな。ちょっと金貨集めてくるから、待っていてくれ』
『あとな、ランクを上げておくから、ギルドカードと金貨を一緒に渡すよ』
僕たちは、これでB級冒険者になった。
Cを飛び越したのだ。
『本当はA級相当なんだがな。まあ、ギルド長権限では2ランクアップがせいぜいなんだよ』
僕には何級でも関係がない。
というか、あまり等級をあげたくはなかった。
いろいろめんどくさいからだ。
でも、ロベルトが燃えていた。
『昔のカードにようやくたどり着いた』
ロベルトはガッツポーズしている。
彼は女性関係で一方的に揉めて、
冒険者をやめた痛い過去がある。
こう言うと、なんてナンパ師だ、と思う人も出てくる。
しかし、ロベルトはむしろ朴念仁で、
女難が向こうから大挙して寄ってくるのだ。
『坊っちゃん、最低でもA級は目指しましょうね』
と力説していた。
最低でもって。
A級以上はS級しかないんだけど。
S級は流石に名誉職と言われていて、
長年の功績を讃えられるもの。
普通じゃ無理だ。
◇
これで、砂糖関係は2つになった。
シーナ砂糖とこのルオハン砂糖。
味は甲乙つけがたい。
シーナ砂糖は、香ばしい独特の風味があるのに対して、
ルオハン砂糖は癖がなく、上品でまろやかな甘みがある。
シーナ樹林の場所がちょっと遠いのは
転移魔法陣により解決された。
ただ、採取時期が早春に限られる。
また、樹液を煮詰めるのがやや面倒くさい。
ルオハンの木は、魔物が強くて厄介だけど、
収穫しても数ヶ月で再度実がなってくる。
実は非常に糖分が濃いのも利点だ。
少し煮詰めれば、高品質の砂糖がとれる。
しばらくはルオハン砂糖がメインとせざるをえない。
ただ、シーナ砂糖独特の風味は捨てがたい。
なお、ルオハンの実採取は今後は夜間に行うことにした。
今回は初めてなので明るいうちに行動する必要があった。
だが、場所もわかるし木の実採取はライトで間に合う。
夜間にするのは、ワイバーン対策だ。
ワイバーンは夜間活動しない。
行く度にワイバーンを退治していたら、時間がかかるし、
そもそも、僕たちはワイバーンの住処への闖入者なのだ。
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