ルオハンの実1
【ルオハンの実1】
僕が重曹を売りにいく薬師と話していたときの話。
『重曹持ってきてくれて大変ありがたいんだけど、それだけの腕があるなら、砂糖はどうかな』
『砂糖?』
『ああ。森の奥にルオハンの木というのがあってね。その実がもの凄く甘いんだ。場所はわかってるんだが、何しろ魔物が強くてね。簡単には採れないんだよ。持ってこれたら、超高値で買い取るよ!』
ほう。そんなものがあるのか。
『お坊っちゃま、いくっきゃないですね!』
甘みと言えば、エレーナだ。
『坊っちゃん、砂糖の木、シーナ糖よりも甘そうですよ!』
ロベルトもかなりの甘党だった。
シーナ樹林は春先しか収穫できない。
砂糖の採取に不安があったところだ。
『場所はわかってる。学院から近いし一度行ってみよっか』
場所は学園都市の西の方角にある森。
その中に流れる川を辿っていくと、滝がある。
その滝を登れば、ハオルンの群生地がある。
ここからは200kmほど離れているそうだが、
僕たちの脚なら1日でたどり着けるだろう。
帰りは転移魔法陣だ。
1泊2日の行程を組めば、週末に楽々やれそうだ。
『ただ、そこに巣くってるのが、亜竜なんだよね』
亜竜、別名ワイバーンである。
二本の脚、コウモリのような翼を持ち、翼の先に鋭い爪、
尻尾の先は矢印のようなトゲがあり、そこに毒がある。
体長5m程度、翼長は10mほど。
空をとぶため、非常にやっかいな魔物だ。
街に現れれば、軍隊出動案件になる。
勿論、A級レベルの魔物になる。
カトリーヌも行きたそうであったが、
遠慮してもらった。
薬草採取とはわけが違う。
『ワイバーンさ、空を飛ぶから攻撃は僕、二人には守備担当でいいかな』
僕の風攻撃は対象を追尾する。
太い柱も切断するから、
おそらくワイバーンにも通用するだろう。
盾係の二人のために、新しい盾を作成した。
これには風魔法ソリッドエアを組み込んである。
防御系の中級風魔法で、
盾を持ったものを空気の壁で覆う。
防御するというよりも、攻撃力を吸収する。
盾自体は土魔法でガチンガチンに防御力を上げてある。
『それでいきましょう。というか、それしかないですな。ワイバーン相手だと私らは分が悪いです』
◇
準備万端、森に向かう。
『お坊ちゃま、この案件でよく冒険者パーティが壊滅したっていう話ですけど、理由がわかりますね』
『だね。凶悪な魔物・魔獣が多すぎる。どんどんとつっかかってくるんだもんな』
『めんどくさいのが、森狼・グレイウルフですね』
『集団戦で絡んできますもんね』
『ロベルトの探査範囲が200Mあるから事前に察知できるけど、僕だと100Mぐらいしかないからかなり際どいね』
『100Mですと、探知したと思ったら、直後に目前に現れますもんね』
『ですな。100Mだと3秒ぐらいで接近してきますね』
『囲まれると、波状攻撃で攻めてくるから、盾の防御もそのうち効果が切れちゃうんだよね』
『その前に木に登るが肝心ですよね』
囲まれないならば、木に登って、そこから攻撃。
こうなると、一方的に排除できる。
しかし、囲まれてしまうと、やっかいなことになる。
三方を盾で防御して、襲ってくる敵にチマチマ対処する。
相手の数が少なければ、二人が盾、一人が攻撃、
というふうになるんだけど、
相手は10匹以上いるうえに、連携も上手い。
そして、ボスは少し離れたところで指揮する。
波状攻撃で襲いかかられて、防御で精一杯になりがち。
こうなると、数十分は戦闘しなくてはならない。
『あと凶悪なのが、グリーンスネーク』
『大きさなら、王国随一、イエロースネークより大きいですよね』
『しかもグレイウルフより素早いときている』
『ロベルトが探知したら、もう目の前にくる感じで、退避できないよね』
『こいつは単独行動なのが幸いですな』
『うん。大慌てで盾を構えても突っ込んでくるだけだから防御はし易いね』
『まあ、あの大口に飲まれたら即死ですけど、その前に魔法をその大口に叩き込めるかが勝負』
『一撃必殺ですね』
『これは三人とも対処可能な敵だな』
『イエロースネークがA級で、グリーンスネークはB級でしたっけ』
『強さの選定は確かだね』
『いやらしさで言うと、ビッグ・タランチュラ』
『体長3Mはありそうな黒蜘蛛ですな。非常にぞわぞわします』
『蜘蛛族はみんなそうなんですけど、こいつも吐いてくる糸が面倒』
『本当に身動きとれなくなるもんね』
『麻痺効果もあるそうですが、我々には耐性がついているから一安心ですな』
『普通の人なら、糸を浴びせられたら一発退場ですね。私達、お坊ちゃまの料理で耐性がついているから平気でしょうけど』
『うん。糸に絡まれて蜘蛛にチューチューされるなんて、想像したくない』
『ですね。身震いがします』
『蜘蛛は木の上に登ってきますから、攻撃もしにくいですね』
『というか、木の上で待ち構えてたりするからな。時々、気配消してるし』
蜘蛛は蛇と同じだ。
とにかく、如何に素早く相手を察知するか。
◇
そんなこんなで、強敵を排除しながら、
ようやく滝の麓までたどり着いた。
ここまで来ると、ワイバーンが飛んでいるのが見える。
森は茂みで空が見えないから、川の隙間からだけど。
ただ、この滝の裏には洞窟がある。
この中には強い敵はいなくて、
盾と魔法で防御すれば大丈夫な敵ばかり。
だから、交代で見張りを立てながら、
ここで一晩を明かす。
◇
さて、早朝。
『太陽がのぼりきらないうちに滝を登ろうか』
『登っている間に攻撃されると動きがとれませんものね』
ワイバーンは日中しか活動しない。
、その前に滝を登ってしまう必要がある。
滝は20m程度だろうか。
ほぼ垂直に切り立った崖を登っていく。
登り方はフリークライミング。
道具無しで登っていく。
僕たちは体力が常人を遥かに上回っている。
猿なみといってもいい。
岩を掴みながら登っていく。
落ちても、盾を装備しているので、
多少のショックは感じるけど、怪我はしない。
20m程度の岸壁ならば、数分で登りきれる。
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