最近カトリーヌの機嫌がいい1
【最近カトリーヌの機嫌がいい1】
僕のナイス判断で、カトリーヌをアニエス先生に任せた。
先生は喜んで、カトリーヌの相談に乗ってくれた。
その時から、カトリーヌはご機嫌である。
嘘みたいに僕に対する冷たい目がなくなった。
馴れ馴れしくなった、といってもいい。
気づくとそばにいる感じだ。
『ジュノーくん。いいことを教えてくれたわ。確かにカトリーヌの薬師の才能はとんでもないわね。あの直感力は並外れてるわよ』
カトリーヌはそう褒められたものだから、
図書館で放課後に薬師の自習をするようになった。
基礎的なことが色々と足りていないが、
地頭のいい子だから、基礎編はすぐに終了。
今は応用編に取り掛かっている。
『ちょっと、貴方。薬草採取に付き合いなさい』
機嫌は良くなったがタカビー体質は一向に変わっていない。
『それ』から『貴方』に変わったので良しとしようか。
それに、オープンな物言いの彼女は決して不快じゃない。
表裏がなく、きつい言葉でもトゲを感じないのだ。
こういうのを育ちが良いというんだろうな。
彼女がみんなに人気のある理由の一つがわかる。
少々堪え性がなく、
前世からヒッキー体質を引き摺る僕とは違う。
せっかくなので、エレーヌとロベルトを紹介し、
4人で薬草採取に向かうことにした。
二人共、小さい頃から田舎の森で薬草採取はお手の物、
特にロベルトは冒険者時代には散々やってきたのだ。
『貴方達って、凄い美形軍団ね。特に、ロベルトさん。カッコよすぎ』
いや、美形というだけなら、カトリーヌに勝てる子は
なかなかいないと思うぞ。
ただ、タカビーなだけで。
薬草採取というなら、冒険者にも登録してもらう。
冒険者は薬師よりも薬草に詳しい場合がある。
『カトリーヌはFクラスからね』
『あなた達は?』
『D級だったっけ?』
しばらく冒険者活動をしていない。
去年の夏休みは暇だったので冒険者活動をしていたのだけど。
クラスに興味がないんだよね。
クラス分けは、冒険者の身を守るためというか、
不相応な魔物とかを相手しないように、という親心の面がある。
僕たちにはそういうのは不要だし。
それに、下手にクラスを上げると、
義務が発生してギルドの使いっぱしりをさせられることもあるし。
◇
『おう、久しぶりだな』
そう声をかけてきたのは、冒険者のギルマス。
ハゲの大男だ。
冒険者ギルドのギルマスはハゲの大男と決まっているらしい。
王都のギルドのギルマスもハゲの大男だった。
学園都市のギルマスとは、すでに既知の間柄だ。
『なんだよ、おまえさん、陛下の五男坊だってな。まあ、いろいろ聞いてるから、文句をいいたいわけじゃないぞ。ただ、おまえさんが大蛇を3頭退治したって噂が流れててな』
ああ、僕にはスネーク・スレイヤーというあだ名がついている。
『おまえさんもわかっていると思うが、オレのところにもいろいろ聞きに来るやつが増えてる。見るからに怪しいやつもな。オレの口からはホイホイしゃべることはないが、気をつけてな』
『有難うございます』
『で、今日は?』
『こっちの彼女の冒険者登録で』
『これまた、育ちの良さそうな美形を連れてきたな』
『学院の2年生、主席です』
『ほう、そうか。将来のエリート様か。F級だと、おまえら3人とは一緒に活動しにくいだろう。E級にあげといてやるよ』
『ありがとう御座います。重ね重ね』
◇
Eクラスレベルの薬草採取だから、危ない場所にはいかない。
カトリーヌのお守りはロベルトとエレーヌにまかせて、
彼らの案内で薬草採取を行い、適度に魔物を狩って、
カトリーヌは一ヶ月足らずの間にDクラスに上がった。
エレーヌに薬づくりを習い、
ついでにお菓子作りにも目覚めて、
いつも二人は僕たちの家の居間にいることが多くなった。
お菓子については、
図書館でアニエス先生と僕が食べていたチーズケーキ、
あれを目敏くチェックされ、それ以来うるさかったのだ。
これは画期的である。
カトリーヌはお嬢様中のお嬢様。
著名な貴族、伯爵家の長子。
自分の服さえメイドに着させているような子だ。
台所に立つなど、彼女的にはありえない世界だったのだ。
『カトリーヌは口だけは立派だけど、身の回りのことを何もできない超お嬢様。僕なんか王家の5男だけど、6歳でそういうの卒業したから』
と僕が揶揄してからは憤慨して
極力メイドを遠ざけ毎日奮闘しているらしい。
彼女の住まいは、僕と同じ区画。
学園から土地を借り、そこに仮の住まいを立てている。
お世話係も数名住まわせている。
同じ区画といっても、富裕層向けの借地という意味で、
前世日本のご近所さんという距離感じゃないけど。
仮の住まいがあるのに、僕の家でエレーヌやロベルトと一緒に
夕食やお菓子作りをして、僕の家で食べていることが多い。
いや、いいんだけどさ。
一応、エレーヌに薬師の弟子入りした、
という建前だから。
しまいには彼女が僕の嫁になったとか、
拐かしたとか、がっかり噂も飛び交っている。
僕はカトリーヌが家にいる時間は図書館にいるか、
訓練場で元E組の連中で特訓しているから。
気にもしていなかったんだけど。
いつの間にか、黒狼アンガスとも仲良くなっている。
カトリーヌは案外社交的だ。
確かにクラスでも別け隔てがない。
なんで僕にだけはタカビーになるんだ?
最近のアンガスのケーキ担当はカトリーヌだ。
アンガスは肉も大好きだが、お菓子に目覚めてからは、
本当にうるさくなった。
下手に舌が越えてるもんだから、
この小麦はどこどこ産だな。
とか、マニアックな論評をする。
ただ、アンガスはどんな料理でも美味しくいただく。
美味しいにこしたことはないけど、
味覚のハードルは極めて低い。
アンガスが犬の仲間だとわかるのは、
料理、特にお菓子の時間は盛大に尻尾をふることだ。
美味しすぎると腰をぬからすことも度々である。
時々仲間?家来?の黒狼を連れてくる。
どうも、褒美的な何かのつもりらしい。
黒狼たちもやっぱり特にお菓子が大好きで、
瞳を輝かせて尻尾を盛大に振りつつ、
お菓子が出てくるのを待っているようになった。
涎を垂らすしつけのなっていないのもいる。
まあ、食べたいのを必死に我慢しているんだけど。
アンガスが言うには、黒狼は食べなくてもいいらしい。
森の魔素で十分やっていけるんだと。
ただ、森の魔素だけでは成長しない。
だから、適度に獲物を捕食するという。
『アンガス、お前の仲間はどの位いるの?』
『わからんが、千ぐらい?』
おお、立派な戦力だ。
人間の軍隊などひとたまりもないだろう。
殺戮される兵士の群れが容易に想像できる。
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