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正妻と次男5

【正妻と次男5】


(“闇のもの”の戯言にのせられて、暗黒魔法使いを学院に潜ませたのはいいが、あっという間に排除されてしもうた)


 そうふさぎこむのは正妃である。


(そのせいで、“闇のもの”の取締がきつくなってしまった。私にも疑いが降り掛かっている気がする)


『母上、何をお考えですか』


『ユベール、そなたの未来を考えておりました』


『ありがとうございます。ただ、例の暗黒魔法師の騒ぎで学院には目を向けられません。取り締まりがかなり厳しくなりました』


(ユベールには暗黒魔法のことは知らせられません。これは危険すぎる)


『そのかわり、奴の母親の実家で奇妙な報告が相次いでおります』


『なんでしょうか』


『ここ数ヶ月、領の金回りが急によくなりました』


『ほう』


『まずは美味で有名なヘンシェン鶏の飼育を始めました』


『飼育?今まで飼育に成功した、という話を聞いたことがありませんが』


『はい。それで、王国中から注目をあびているようです』


『それを皮切りに、小麦の増産、小麦の製粉事業、水牛の飼育、チーズの量産などと急速に事業を拡大しています』


『あの領地には前から妨害工作をしているはずですが』


『はい。不味いことに、探索に向かったものが数名、排除された模様です。どうやら、雷魔法が仕込まれたワナに引っかかった模様で、丸焦げになったそうです』


『なんと』


『それに合わせて、領兵の強化が進んでおります。それもあって、今は内偵が非常に難しくなりました』


『明らかな富国強兵策ですね。あの老人たちが主導しているというのですか?』


『いえ、どうやら奴が数ヶ月前にあの領地を訪れてからのことのような状況になった模様です』


『またですか。あれの人材強化策はいかようにしているのですか。あれの周囲にいる学院の生徒も急速に強くなったと言うではありませんか』


『わかりません。学校の教師連中も非常に驚いているといいます』


『うむ』


『それと、不思議なのはそれら産品の運送ルートが皆目見当がつかないとのことです』


『運送ルートですか?』


『何らかの方法で産品を出荷しているのですが、全くそのそぶりがないそうです』


『不思議ですね』


『不思議といえば、奴は毎週末あの領地に現れるそうです』


『え?学院からあの領地まで馬車で2週間はかかりますよね。1000km以上離れていると思いますが』


『はい。見間違いか、よく確認しているのですが、間違いないそうです』


『うーむ。飛空魔法、転移魔法、分身の術、そんな奇想天外のことしか浮かんできません。あれは授業には出席しているのですね?』


『はい。1日も休むことなく』


『どういう手品なんでしょうか』


『手がかりになるかどうかわかりませんが、奴は古代魔法の権威アニエス教授と非常に仲がいいそうです。ほぼ毎日言葉をかわしているようです』


『アニエス教授とは。伝説の学院卒業生、影の学院長と呼ばれるお方ではないですか』


『何らかの画期的な発明・発見をしているという内部情報があります』


『古代魔法ですか。転移魔法とか分身魔法とかだと、革命的な発見になりますね』


『はい。報告を聞くだけで私もザワザワしてきます。焦りを感じます』


『うーん、流れが非常に悪いですね。今は大ぴらに動けなくなりました。とにかく、できる限りあれの内偵を進めましょう』


『はい、母上。あと細かいことですが、お付きの女性の髪の毛が非常にキレイになり、いつもいい香りがするようになったそうです』


『なんですか、非常にキレイ、とは』


『なんでも、髪の毛がサラサラしっとりとなっているとか』


『まるで広告宣伝ではないですか』


『はあ、申し訳ございません。皆がそう云うものですから』


『皆というと、それだけ広まっているということですか』


『ギルド初の情報で、リンスというものが開発されたそうです。それと、石鹸を売り出し始めました』


『石鹸など、どこにでもあるではないですか』


『それが、固形石鹸だそうです』


『固形?』


『はい。しかも、凄くいい香りがするとか』


『手に入れられませんか?』


『固形石鹸は瞬時に売り切れ、予約で数ヶ月先まで埋まっているらしいです』


『ですか。とにかく、手に入れて下さい。待ちましょう』


『ただ、お付きの女性の髪は明らかに他との違いがあるそうです。香りも様々で、噂ですが、どうやらリンス・固形石鹸ともに、奴の開発ということです。商人たちが探っているのですが、しつこいと何やら反発が怖いらしくて、手をこまねいているそうです』


『ユベール。その情報はもっと深掘りを命じます』


『はっ』


『許せません。あのものは私よりも少しばかりキレイだという評判を真に受けて、陛下までもが寵愛を授けて……』


『?(これって、奴の母親のことだよな。母上もお綺麗だが、奴の母親は王国の百合の花と呼ばれたお方。私の目から見ても光輝いておられたからな)』


『きっちり、私が止めをさしたのに、そのお付きのものに美しさが乗り移ったとでもいうの?』


『!(奴の母親は、母上が手を下した?ああ、母上ならやりかねないな。母上は逆上すると手がつけられなくなる。それにしても、なんたる非論理的な思考よ。いつも冷静な母上とは正反対だな)』


『ごめんなさい。ちょっと冷静さを失ったわ。今の私の独り言は忘れてちょうだい』


『はっ(忘れられるわけ無いでしょ)』


『今のところ出入りが頻繁なのは、ドワーフですか?』


『そうです。はっきりとはわかりませんが、何やら新しいビジネスでも考えているのではないかと』


『ドワーフと言えば、鍛冶か酒のどちらかと決まっております』


『両方でないかと。というのは、鍛冶ドワーフと酒ドワーフがコソコソやっているということです』


『何をやっているのかは調査続行ね。とにかく、なんとかスキを見つけて排除したいわ』


『はっ(これはあれだな。私の将来のこともあるだろうが、奴の母親への嫉妬も相当なもんだな)』


『あと、あの子の無能さアピールは継続して広めるように』


『はい。これについては、もう6年以上続けてまいりました』


『ええ。確実に民から無能の烙印を押してもらいましょう。そうすれば、多少頭が良くても、評判を覆すことは難しいはずです』


『引き続き、噂の拡散につとめます』



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