黒狼アンガス
【黒狼アンガス】
後期テストが終わってしばらくすると、
春休みに入る。
その間はもっぱら冒険者活動に精を出していた。
そんなある日。
お昼ごはんということで、
森の中でチキンバーガーとホットドッグを取り出した。
マジックバッグの中は時間が経過しない。
だから、調理したてのものが出てくる。
なんとも言えない良い香りに顔が緩む。
すると、
『人間。なかなか匂いの良いものを食しているではないか。我にもよこせ』
なんだか偉そうな獣が出てきた。
獣のくせに人の言葉をしゃべるぞ。
『黒狼!』
ロベルトが即座に反応し、剣を抜く。
こいつ僕たちの探査にひっかからなかったぞ。
それにしてもでかい獣だ。
体長3m以上ありそうだ。
『慌てるな。我は争うつもりはない。匂いにつられてやってきたのだ。少し、我によこさんか?』
なんだか、穏やかな個体らしい。
偉そうだが。
『いいけど、どうやって食べるの?』
普通、チキンバーガーとかは手で持ってガブつくんだが、
土の上にでも置けというのか。
『人間の習慣に合わせよう。そこに大きな葉があろう。その上に置いてくれ』
まあ、そうだよな。
僕はチキンバーガーとホットドッグを葉にのせて、
ぐいっと黒狼の前に差し出した。
『フム……むむ、美味いではないか!』
おお、獣でもわかるか、美味しさが。
『な、もう少し所望したい』
ずうずうしい狼だな。
僕はもう1セット取り出して狼に差し出す。
『ううむ。我はこのかた、こんなに美味いものを食したことがない。あっぱれだ。何か褒美を取らそう。何がいい?』
『褒美って。別にいらないけど』
『そういうわけにはいかん。それでは、まるで我が犬畜生ではないか』
まあ、似たようなもんだよね。狼だけど。
『いいって。それより、僕たちの邪魔さえしなけりゃ』
『戯け者。我をなんと心得おるか。よし、この辺りは危険だ。しばらく護衛してやろう』
『だから、いらないって』
いかん。離れる気配がない。
こいつ、護衛とか言っておいて、
本心はもっと食べたいんだな。
僕がじっと目を見ると、目をそらしやがった。
ああ、確定だ。
『じゃあさ、温泉知らない?』
『温泉って、熱いお湯が出てくる泉のことか。たくさん知っているぞ。臭いのとか、白いのとか。つぶつぶの泡が出るのもあるな』
『泡?』
『ああ。体を入れると体表に空気の小さな粒がつくんだ。あんまり熱くないけどな』
『それ、ぜひ教えてよ』
『よし。3人共我の背中に乗れ。一気にいくぞ』
◇
物凄い勢いで森を疾走する黒狼。
どれくらい走っただろうか。
ずいぶんと遠くに来てる気がする。
『よし、ついたぞ』
森の中に開けた池がある。
手を突っ込むと、温い。
そして、すぐに手に空気のブツブツがついた。
すくって飲んで見る。
『やっぱり、炭酸水だ』
二酸化炭素を含む温泉。
温度は30度ないだろう。
温泉としては、沸かす必要がある。
でも、僕の求めているのは飲用水。
『これ、飲んでみてよ』
僕は、コップに温泉水を汲み、砂糖を放り込んだ。
そして、レモン果汁で香り付けをする。
『坊っちゃん、なんて不思議飲み物だ』
『口の中でプチプチはじけて爽快ですね』
『我にも飲ませろ……む、この泉の水がこんなに美味くなるのか』
僕の作ったのは、サイダーだ。
ただ、もう少し味を詰める必要がある。
『黒狼、いいこと教えてくれたよ。ありがとう』
『なに、これしき。他にも温泉の場所を教えてやろうか?』
『ああ、できる限り教えてよ』
僕たちは、結局10程度の温泉を教えてもらった。
臭い、白い、黒い、茶色、いろいろな温泉があった。
◇
『今日は本当にありがとう』
そう挨拶して帰り支度を始めた。
『うむ。礼はいらんぞ。しばらくお前にやっかいになろう』
『へ?』
『今日の晩飯も昼食べたやつでいいぞ』
『いやいや、あんた何言ってるの?ついてくるつもり?』
『当然であろう。何を慌てておる』
『いや、それにそんな巨体の黒狼が現れたら、みんな驚くだろ』
『問題ない。我は影に潜むことができる』
そういうと、黒狼は本当に影に潜ってしまった。
『坊っちゃん、こりゃダメですな』
『こんなマイペースなの見たことないです』
『しょうがないな』
おかしな奴に懐かれてしまった。
後日わかるのだが、この黒狼、
この辺りの獣のボスであった。
黒狼だけではない。すべての獣の、だ。
◇
へんな連れ合いができてしまった。
ま、別に僕たちを邪魔するわけでもないし、
危険でもなさそうだ。
ただ、黒狼は温泉を教えてくれただけではなかった。
帰り際。
『坊ちゃん、この先で大きな個体あり』
『うむ?お前ら、少し待っておれ。狩ってきてやろう』
そういうと、黒狼はダッシュで走り去った。
数分もすると戻ってきた。
大きな魔獣を口にくわえて。
『坊っちゃん、これは魔牛ですね。森の奥に棲まうという、珍しい魔獣です』
魔牛?大きな黒狼よりもさらに2周りは大きいぞ。
体重は1トン以上ありそうだ。
『どうだ。この魔獣は人間どもが大好きな牛だ。美味いぞ。手土産だ』
『坊っちゃん、黒狼の言う通り、これは大変美味で街で売ると1頭金貨50枚以上します』
『へえ、美味いのか。捌いてもって帰ろうか。黒狼さん、ありがとう』
僕は吸血スキルで血抜きを行う。
内蔵の抜き取りも3人でパッパと行う。
『なんだ、内臓が美味いのに』
といいながら、黒狼は内臓の一部を食べてしまった。
内蔵は脚が早いので、処理に困るのだ。
『残りは我が同族の分だ。ここに置いておけば、奴らが始末してくれる。我の匂いがついているからの、同族以外は近寄らんて』
この魔牛。
なんとか天井に吊るして一ヶ月ほど熟成させた。
熟成させる前は固めの肉だったのに、
見事に変身した。
脂肪分が少ないが、赤身の美味しさで勝負できる。
柔らかくてキメが細かく、変な臭みがない。
適度にサシが入ってガチガチ筋肉質ということもない。
焼くと非常にジューシー。
和牛とは違う意味で美味い。
この牛に熱狂する気持ちは十分にわかる。
この世界で食べた肉の中で最高かもしれない。
『おお、なんてうまい焼肉だ。熟成とやらのおかげか。味に深みがあるではないか。もっとくれ』
すっかり僕たちの家に居着いてしまった、
森のボスだという黒狼。
毎日、炭酸で割ったリンゴジュースやらをガバガバ飲みながら、
焼肉を大量に消費する。
名前がないらしいので、アンガスにしておいた。
勿論、アンガスビーフにちなんでだ。
『アンガスか。強くて美味しそうな名前であるな。よかろう。もっと我に焼肉を与えるがよい』
うーむ。
なんで、偉そうなんだ?
アンガスだが、他にも色々技を持っていた
影に潜ることができるということは、
空間系のスキル持ちだ。
影移動もできる。
行ったことのある場所なら、遠距離出ない限り、
何処にでも一瞬で移動できるという。
転移魔法と同じだな。
あと、念話。
かなりの遠距離でも可能だ。
前世の電話なみだ。
僕と同じ風魔法の系統も得意だ。
僕の風魔法と比べてみたけど、
僕よりも一発の威力が凄い。
ちょっと凹んだ。
ただ、範囲魔法は僕のほうが強い。
範囲の大きさも対象とする数も。
僕だと同時に百以上はいけるからな。
それに、今解析を進めている古代魔法、
風魔法で凄いのがあった。
あれが使えるようになれば、同時百体も狙えそうだ。
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