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固形石鹸とリンス

【固形石鹸とリンス】


 固形石鹸作り。

 精油は手に入ったが、固形石鹸には程遠い。

 固形石鹸には、重曹が必要だ。

 というか、苛性ソーダ、つまり水酸化ナトリウムがいる。


 それ以外では固形石鹸は難しい。

 その苛性ソーダを作るのに最もやりやすいのが重曹だ。

 前世の世界では、重曹は化学的にも製造できたが、

 天然鉱石としても存在する。


 流石に、この世界で見つけるのは困難か。



 その懸案が解決したのは、2年後。

 学院に入学した年の夏休みのことだ。

 僕は学園都市の薬局にいた。


『最近、食べ過ぎで胃がもたれるんですけど』


『これなんか、どうですか。少しお値段は張りますが』


 その白い粉を見た時、僕はピンときた。

 これは前世の胃薬と同じだ。

 炭酸水素ナトリウム。重曹だ。


『これ、どこでとれるんですか?』


『場所はだいたいわかっているんですが、何しろ森の奥で魔物が強いんですよ。だから、わざわざ取りに行く人がいなくて。冒険者ギルドに行けば、詳細を教えてくれますよ』


 僕は重曹をいくらか買込み、冒険者ギルドに向かった。

 そこで、特殊なスライムの存在を教えてくれた。

 重曹を好むスライムを。


 スライムはなんでも食べる。

 しかし、時々決まったものを好むスライムがいる。


 よくあるのが、鉄スライムだ。

 鉄は大抵の土壌に含まれている。

 スライムは土を食して、鉄だけ取り出す。

 鉄はスライムの体内で鉄塊となる。


 これが鍛冶には評判の鉄となる。

 純粋な鉄ではなくて、微妙な不純物が

 いい塩梅となるらしい。

 

 前世でいう鉄鋼となるのだ。



 僕たちは、早速ギルドに教えてもらったエリアに向かう。

 固形石鹸が作れるとあって、エレーヌがノリノリだ。

 出会う魔物はそれなりに強いのだが、

 僕たちの敵ではない。


『お坊ちゃま、あのスライム、精製しているものが白いんですが。あれじゃないですか?』


 早速エレーヌが重曹スライムを見つけたようだ。

 スライムの蓄積しているものは外からすぐにわかる。

 鉄塊なら、鉄色をしたものがスライムの体内に見える。


『エレーヌ、でかした』


 金属はいろいろな色をしている。

 黄金を好むスライムもいて、

 それはそばに金鉱のある可能性が強い。


 白い金属も多い。

 

『重曹かな?』


 僕はスライムを討伐して、

 白い塊をゲットした。

 なめて見ると、苦塩っぱい。

 重曹だ。


『この辺に重曹が埋もれているはずだ。それを見つけるぞ』


 重曹はなかなか見つからなかった。

 ひょいと崖を見下ろすと、白い層が。


『坊っちゃん、ちょっと見てきます』


 ロベルトがロープで吊り下がり、

 崖を下った。


『これ、重曹っぽいですな』


 ロベルトが崖から上がり、僕たちに白い粉を渡す。

 苦塩っぱい。

 重曹だ。


 こんな崖にあるとは。

 これなら、見つからないはずだ。


 僕はできる限りの重曹をマジックバッグに押し込んだ。

 そして、場所を詳細に頭に叩き込み、帰宅した。


 薬師とギルドにはお礼に重曹を渡しておいた。

 いずれも、大変驚かれた。

 あの奥地で取ってきたのかと。


 冒険者ギルドでは定期的に重曹を納入できないか

 と頼まれたが、目立つのは嫌だから断った。


 ◇


 固形石鹸の作り方はこうだ。

 “料理人”は料理だけでなく、台所用品にも目配りしている。


 ①貝殻(または石灰岩)を風魔法で粉にする

 ②①を焼く。

 ③②を水に溶かす。

 ④バイカ(重曹)を風魔法で粉にする。

 ⑤④を水に溶かす。

 ⑥③水溶液と⑤水溶液を混ぜる(危険)

 ⑦⑥に油を混ぜ、加熱する。

 ⑧⑦に塩を混ぜる。


 ⑦で加熱せずに長時間反応させて石鹸を作る方法もある。

 こちらは多少洗浄力が落ちるが、保湿効果がある。


 なお、⑥の水溶液は水酸化ナトリウムだが劇薬で危険だ。

 これ以外に固形石鹸を作る方法はこの世界にはないと思う。

 あるとしても、随分と特殊な素材になるだろう。



『これが固形石鹸ですか!石鹸が固まっているところなんて初めてみました!』


 大昔から石鹸は発見されていた。

 灰汁に獣脂を混ぜると液体石鹸になるのだ。


 だが、そこから発展はしていなかった。

 この世界で流通する石鹸は大昔のままのものだ。

 僕がこの世界で石鹸のブレイクスルーを行うのだ。


 獣脂ではなく、オリーブオイルを使うため、

 肌に優しいし、香りも獣臭くない。


『無香料のもいいし、好きな香料を混ぜてもいいよ』


『無香料でいきます。洗ってから、好きな香水つけたいですから』


 エレーヌは精油に凝りだしてからは、

 香りの専門家になりつつある。

 だから、香料入りの石鹸はかえって邪魔なようだ。



『それから、エレーヌのためにリンスも作ったよ』


 リンスと言っても、

 オリーブオイルにレモン果汁または酢を混ぜただけのものだ。

 それでも、髪質が劇的にサラサラしっとりとする。


『まあ!髪が!』


 手櫛をし、髪を鏡に映してうっとりとするエレーヌ。

 この世界は男女ともに美男美女が多いけど、

 エレーヌは中でも美人だ。


 そもそも、貴族関係者は美人美男が多い。

 みんなそういう連れ合いを選ぶからだ。


 そのエレーヌの美人度が2ランクは上がった。

 特に後ろから見ると美人度が高い、

 というとエレーヌは怒るかな。



 エレーヌの変貌は周りの注目を集めたようだ。

 行く先々で質問攻めに遭うらしい。

 その度に、苦しい返答をしているのだが。


『お坊ちゃま、これ売り出すとバカ売れしますよ』


 エレーヌが若干汚い言葉使いをする。


『ダメだよ、今は僕は注目されたくないの』


『ああ、そうでした。外出するときは、私も気をつけます』


 エレーヌは残念そうだった。


ブックマーク、ポイント、感想、大変ありがとうございます。

励みになりますm(_ _)m

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